京都白川 哲学の道で異郷の友を想う

「人は人、吾はわれ也、とにかくに吾行く道を吾は行くなり」
私の学生時代までの友人にも元々実家が名門だったり、自分でもすごく努力や勉強をされすごく出世されたり上級国民、お金持ちになられた方がおられて、比較的平凡なサラリーマンで終わった者としてはたまに驚き、恐縮します。また今の仕事はサラリーマンで成人の生涯のほとんどを厚生年金加入で過ごした者には縁の薄い国民年金の手続き、自営やフリーター等の方がコロナで減収して月々の支払にも汲々として将来が見えない人ともよく出会います。
まあでも人それぞれで、職業や人間に貴賤はないとも思います。人は人、それぞれに価値の合う生き方をしていれば良いのです。
会社の同期の中でも取締役に登り詰めた者もおれば、早期にリタイアドロップアウトした者もおります。
元々、好かれる嫌われるの割合で言うと前者が少ないマイペースな方なので、付き合う友人は限られた個性で、お互い立場は変わってもこの変わらぬマイペースさを好むようです。
早くに取締役に出世しても結局激しい権力闘争に敗れ、人生を失ってしまった友人もいて、「お前はいいよな」と最後に会った時言われて、その後彼の死を知った時、いろいろ感慨深かったものです。
京都の東山、白川沿いに哲学の道という、今では観光客の多い散策路があります。哲学者西田幾太郎が歩いたことで冒頭の文言の碑があったりします。
早期に同じ会社に昭和57年4月入社した、ある友人はその8月にリタイアした旨の手紙をよこします。
「すまんが、この会社のつまらん先輩にはついていけない。僕は国家公務員上級を目指す」

それから1年ぐらいして、上級試験に受かったことと、君はこんな会社で好きな部門にいけそうかとかの心配をしてくれた。
辞めた詳しい経緯も、『パワハラ(当時そんな言葉はない)ほどではないが、同行する先輩の知性の無さに辟易とした。昼食休憩時間にサンケイスポーツしか読まない輩と仕事したくない。会社人事にはいい話ばかりで採用されたが、周りを見渡すとコネ入社コネ出世の危険な体質だ
後のこの会社の凋落、崩壊を予見しっていたのかさすがです。
「井上私)といつか、哲学の道を語りながらまた散歩したい」
入社後の研修合宿でよくしゃべり都島の工場での研修の休養日には大阪の街も案内した。
毎日の所感ノートや、朝礼スピーチでの斜め上を行く博学(雑学)、含蓄とユーモアが大好きだったと言われていました。
私のスピーチや文章は30年以上たっても、賛否両論で、好きな人は好き、嫌いな人からは総スカンです。
まあ、私以上に彼はどんどん忙しくなったのでしょうから、哲学の道を散策する約束は当然実現しないままです。もうそれこそこちらが定年でセミリタイアしているときに彼はもう雲の上の人になっています。
ほとんど外国に赴任している彼、一度だけ彼が国内の広報担当参事官についているときニアミスしましたが、声かけもSNSも気軽にできそうな立場ではなさそうなので遠慮しました。
海外に行くことが苦痛ではないでしょうが、中東等難しい上に、危険な国が多く、彼の語学力や使命感、交渉力等がもう考えただけで、桁違いにレベルアップしていることと思いたじろぎそうになりました。
あの時、サンケイスポーツを読みふける先輩に出会わなかったら、日本は国家的人材を損失していたかもしれません。

『いままたアフガン情勢で激動して、その重要な位置にある国の、総領事を務める彼の激務を思うと、大学を出たばかりの若い頃、青い話をしたことを懐かしく思い出します。そして、不穏な国際情勢の中、命を家族を大切にして、また日本人のため懸命に勤めて無事に帰還することを願っています。こんな私でよければいつでも散策の相手にかけつかたい思いです』

戦争が近くにある国やイスラム教が世俗に染み付いた国に長くいる君にとって、コロナ騒動やオリンピックで平和ボケした祖国はどう映るのでしょうか。
あの時、悩み苦しんで決断した以上の、苦労を味わい辛酸に耐えて君は大人になっているのでしょう。君にとっては多分私は変わらぬ青いままかもしれません。
世の中の大部分の同年代が、リタイアかセミリタイアを迎えるか、まだまだ生活するために安い賃金で汗を流している時、国家のために日々を過ごす君はやはり傑物だったのだろうか。それとも何かの運命に引きずられたのだろうか。
上に行けば行くほどこの世の中、首相や大臣でさえ自由きままには働けず、どちらを選んでも憎まれ後悔するような選択の日々なのかもしれない。それでも君の選んだその道に間違いはないはずです。
あれから40年、君の友人だった私は全く別の道を歩んだ。きっと40年近くを経て、あまり出世もせず、定年を迎え、変わっていない少し斜に構えた、でも少し癒され考えさせられるという文章を書き続けている。
「人は人、吾はわれ也、とにかくに吾行く道を吾は行くなり」


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