法務大臣更迭 大臣のあるべき姿

 優秀な子供を評して「末は博士か大臣か」という言葉がありました。国会議員はお偉いセンセイであり、大臣ともなれば地方の地元では英雄扱いの名士になるほどの存在のはずです。ところが、今は政権与党の都合で大臣ポストも当選回数や派閥の仕組みが優先し、年功や論功の順列で決まっていくようです。
 たとえば、「国防が専門」「経済に強い」「外交をやりたくて勉強してきた」「厚生労働に精通している」とか、「議員時代にこの問題に取り組んでいた」とかは関係ない門外漢が時が来ると大臣になります。
 企業など社会の幹部、経営層がそうなように、専門職ではなく総合職、管理職だからキャリアアップしていく段階で仕方のない面もあります。

 自分のいた会社でも大きな組織だとそういうことはありました。Bの方がこの事業や部門の部長には適任だけど、どうしてもAをある年齢までに部長にして、その後本社にキャリアアップさせないといけないとか、現場や本人の能力や適性は関係なしの人事がまかり通るのです。何もない平穏な時期はいいですが、乱世というか有事というのか、ひとたび何かあるとリーダーやトップが現場の分からない、仕事のできない人、人心もない人間だと組織は悲劇となります。

 ただでさえ、組織の長になると、民間企業の支店長クラスでさえ、承認して決断してハンコを捺す仕事が毎日山のようにあります。目を通さなくていいものは基本的にないはずですから、大臣ともなると閣議もありますから大変な量です。
 厚生労働省とか、文部科学省、国土交通省、経済産業省など、省庁再編で組織も分野も広くて一つの大臣のテリトリーさえもかなり広範な知識が必要です。

 今回、岸田改造内閣で統一協会問題で辞任した山際経済産業大臣に続き、葉梨法務大臣が失言で辞任に追い込まれました。切り取り発言が問題になり過ぎた面があるのか、それでも与党からも助けが少ない面もあり本人の人格にも多少問題があったのかと、いろいろ思います。詳細はわからないとして、この法務大臣というのはちょっと微妙な立ち位置の大臣です。

 どちらかというと、ルーティンの課題の少ない権限範囲の少ない、考えようによると比較的ヒマな、典型的な年功論功向けの大臣ポストです。そういうと死刑になった人は身も蓋もないですが、ミサイルが放たれた時の防衛大臣、外務大臣だとか、いまだとコロナでひっぱりまわされる厚労大臣のような派手な出番も無ければ、組織の長を務める法務省、検察庁は独立性が強いので普段は実質差配する下部組織がないのです。どこの省でもお飾り的になりがちな大臣のその最たるものが法務大臣です。

 発言の中で、「死刑執行のハンコを捺す」という仕事以外に注目されないというのはあながち嘘ではない本音でしょう。門外漢であればあるほど、司法試験を通った検察官や、官僚に丁々発止して裁量をもってやる仕事はなさそうです。指揮権発動という伝家の宝刀はありますが、昭和29年の造船疑獄以来発動されたことはありません。自民党が民主党に政権を奪われそうなときに、闇の指揮権として当時の民主党の中心にいた小沢一郎周辺を捜査させ、秘書逮捕などで弱体化させたという話はありますが、戦後通じてそれ以外、目だった指揮権を法務大臣が行使したことも、その検討すらした話もありません。

 いざというときは大事な要職ではあるけれど、何も考えていない人でも普段は務まりそうな印象があります。

 民主党政権下でも柳田稔という法相が2010年11月14日、就任祝いをかねた地元広島での会合で「法務大臣は『個別の事案についてはお答えを差し控えます』と『法と証拠に基づいて適切にやっています』の2つを覚えておけばいい」と発言。発言から8日後に、当時の菅直人首相に更迭されました。
「門外漢だから大変だろうとか、死刑執行のハンコなどつらいだろう」という労いを投げかける支持者へのウケ狙いで、「実は大したことない、ヒマな大臣なんや」と本音でポロリと失言をしてしまっているところは今度のケースと似ています。

 確かに、総理にしても、大臣や、地方の首長にしろ、大変なルーティンと広い専門外までの知識と的確で迅速な判断が求められます。失言はすぐに切り取られ派手に拡散される時代です。

 岸田首相も自民党総裁選挙の候補者討論の頃の方が断然元気でキレがありました。総理になると、言えないことや、難しい妥協が多いのかと想像されます。国会を見ていると結局、審議拒否で時間がかかり、形式的な代表質問や審議が両院で同じ質問、攻防の繰り返しで無駄が大すぎるように思います。日本の政治が危機の中で行き詰まりだなあと感じます。自民党の支持は高いので、岸田首相にはもう少し自分のペースで頑張って欲しいと思います。

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