書評:保坂正康「帝国軍人の弁明」今も昔も大局観のある人が少ない

 同志社大学卒の近代史や昭和史の専門家、保坂正康氏による10人の軍人の自伝・回想録を読んでの人物評価の著述で、これ自体がブックガイドのようなものです。それを書評するのも変なのですが、知的な刺激にあふれた一冊でした。
 太平洋戦争を生き残った軍人は、多くの著作を残しているが、美化や誇張もあり、自己顕示自己肯定のために歪曲されたものも多く、ここに紹介されたものはそんな中で客観的で良質とはいえるもののようです。敗戦までの発言、著作との整合性や事実認定や確認もされたこともあります。それでも一部は本人の錯覚や誤解も割り引かないといけませんが、歴史に残して読み継ぐべき内容のものが多いと思います。
 戦争は遠い昔、あるいは現代でも海を隔てた遠い異国でのものという認識しかない現代ですが、戦いという局面で指導者が過ち、統帥するものが間違えば、国は滅びも向かいます。
 私は右翼でも左翼でもないと傾倒はしていないと思いますが、日本国が好きで愛国者ですし歴史は好きです。私の祖母は小学生の頃、今の世界地図を見て小さな赤い日本の領土を嘆き、昔は台湾や樺太、朝鮮半島も赤く、満州はピンクに塗られていたのにと嘆くようの呟きました。国威が広がることだけが良いことではないのですが、素朴に惜しかったとは思いました。大人になり、戦争の経緯や今の東アジアを状況を見るにもったいないような気持ちもあります。
 堀栄三氏の項にみる情報力の軽視など、戦術的に疎いという面と、多くの史料に現れる戦争の開戦から終局までの大局をイメージする国家戦略にも欠けていたようなのが残念です。
 戦ってみないとわからないのが、戦争にはあり。成り行きの状況判断も大事ですが。結局は多くの国民の自由と権利、命を奪いながらも、それを後押ししたのも流された世論、国民のインテリジェンスの欠如です。
 全面戦争を上手く回避し、日本が中国とも良好な関係で世界に存在感を示し続ける現在を想像することはもはや難しいでしょう。
 自虐でも国粋でもなく、昭和史、日中戦争を冷静にひも解くことは、現在と未来の課題にもつながります。
 多くの軍人の弁明には「しくじりの言い訳」とともに、今も求められる思考もあります。


 戦後も局地戦はあり、戦争を放棄した憲法を持ちながら、その戦争の支援部隊を送る選択もあれば、内政でも経済や交通事故の増加に伴うインフラ整備、疫病の蔓延、自然災害,公害、など常に戦争といわれるような危機は訪れ、主権者と統治者の悩みは尽きません。
 未来を望むのにはやはり歴史を一度じっくり顧みることも必要でしょう。

 

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください