18章、640ページにもわたり200近い参考文献の力作。それでいて時系列が鮮やかに進み読みやすい。日露戦争後から第二次世界大戦までの満州を中心とした何人もの人物が交錯する群像劇という感じの歴史小説ですね。重厚に見えて、イッキに読めるところはあります。
「君は満洲という白紙の地図に、夢を書きこむ」
招集、憲兵、銃撃戦など戦争の色がどんどん濃くなる時代、読む側も夢のような大義名分の後に悲劇の結末はある程度予想できるだけにせつなさもあるものの、そこに生きる群像をリアルに描く、才能には感嘆します。
「地図と拳」の題名も少し、暗号か判じ物みたいですが。建築家と戦争地勢学者の登場刃部を軸に、歴史の必然のような物語を見事に紡いでいます。
【あらすじ】amazon
日本からの密偵に帯同し、通訳として満洲に渡った細川。ロシアの鉄道網拡大のために派遣された神父クラスニコフ。叔父にだまされ不毛の土地へと移住した孫悟空。地図に描かれた存在しない島を探し、海を渡った須野……。奉天の東にある〈李家鎮〉へと呼び寄せられた男たち。「燃える土」をめぐり、殺戮の半世紀を生きる。ひとつの都市が現われ、そして消えた。
日露戦争前夜から第2次大戦までの半世紀、満洲の名もない都市で繰り広げられる知略と殺戮。
著者は他にもアジアの歴史を題材にした作品もあり、クイズやゲームの裏側も描くなど、そのジャンルはSFとミステリ、歴史いずれにもまたがる鬼才です。同一作品がこのミス、SF大賞候補に上げられ、直木賞、山田風太郎賞まで受賞しちゃうという、読み手によってジャンルが分かれるような作品です。