書評:小林泰三「失われた過去と未来の犯罪」 是非お盆に読んで

 お盆に読むには、ある意味最適すぎるような本です。
『アリス殺し』の鬼才が贈るSFミステリ。輪廻とか人格の存在とは何か、倫理や宗教的なところまでも、領域が広がります。
【以下ネタバレあり】
 突然、自分の記憶が10分ともたないことに気が付いた女子高生の話から、全人類が長期記憶を失っている大混乱の状況に陥ります。
 人類が失った長期記憶を補うため、身体に挿し込む「外部記憶装置」(メモリ)に頼り、生活するようになった世界で「世にも奇妙な物語」のようなエピソードがかさねられていきます。
  ギリギリとところで、原発事故を防ぐ人達の話。
 「替えメモリ受験」をしようとした学生の話。
 交通事故で子供を亡くした父親の話。
 点検でメモリを取り違われた双子の姉妹の話。
 メモリの使用を拒否する集団の話。
 イタコのように、死んだ人間のメモリを違法に差し込み、会いたい人を呼び戻すプロの話。

 いくつかのエピソードの登場人物が絡まりながら、人類は適応し進化していくのか、衰退して滅亡するのか、時代は進んでいきます。そして、

 盆の電車の中や、墓参りやお迎えをして、読むと、何だかいろいろ思いが沸きます。

すでに、現代科学で人類はメモリの中や、何か媒体のようなものに記憶や人格などを保存するぐらいはできるまでになってそうです。
 原作者が死んでも、そのアイデアや手法を引き継ぎ、シリーズのアニメや漫画・劇画では半永遠的に続いているものもあります。
 そのような形で、SNS投稿なども死んでも、その人らしい発言をアップし続けることは、少なくとも簡単に行えることです。外見的には不老不死です。武田信玄の影武者どころではありません。
 ただ、本人が人格を持って、新たな肉体や機械などに記憶ばかりか「意識」や「魂」まで移せるかは、倫理の問題も含めて、まだ少なくとも表には出てきていません。
 永遠の命など、地獄のような退屈さ、虚しさかもしれません。死ぬことができるから「生きる」意味があるのでしょう。
 

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