【紹介文より】夏の甲子園出場をかけた京都府大会決勝。木暮東工業のエース投手・権田至の投げたボールが、境風学園の強打者・仁科涼馬の頭部を直撃した。「あんな球、避けられるでしょ」少年はなぜそのような突き放した言葉を放ったのか?
鮮烈な京都青春物語と銘打たれ、京都文学賞の受賞作です。この投手と打者だけでなく、関わった審判、両校の友人、双方に感情のからむ女性らさまざまな人間関係が描かれ引き込まれます。
何より、その投球と言動の「なぜ」が明かされる過程は、ミステリの謎説きめいた面白さもあります。また野球のルールや審判の苦労なども描かれ、野球ファンの視点からも楽しめます。そして「東寺と西寺」「衣笠球場」「伏見の酒蔵」など京都の文学賞狙いっぽい巡りも一興です。
私も個人的に戦後間もない、京都にタイムスリップする小説を書こうとしていて、衣笠球場は題材にしたかったのですが、ちょっと先にやられたかなと思います。ここの知識が立命館大学に行ってる人にはそう珍しいものではないかもしれません。
ネタバレになりますが、ゲームやルールとしての野球の展開がもう少しあっても良かったかなと思います。やっかみ半分ですが、もうちょっと深堀りできることも多いのではとも感じました。秀作であることには間違いないです。
同時期に書店で並んでいる「スピノザの診察室」夏川草介の方は、京都「本」大賞なんですが、さすがにこっちはプロ経験も長い、やはり洗練もされていて、感動度合いとほのぼのもあり、京都情緒もいいです。こちらも超おすすめですね。
今はたまたま冬ですが、京都というとやはり夏ですね。両作品とも何だか、じりじりするような夏の京都がイメージされます。