書評:柄刀一「或るエジプト十字架の謎」他、、国名シリーズ

 アガサ・クリスティほど広範な人気は持たないものの、戦前からマニアにも一般読者にも広く支持を集めたのがエラリー・クイーンです。特に現代の日本のミステリの中核をなした、20世紀末以降の新本格派と呼ばれる作家群にはこの名を第一に挙げたり、影響を公言したりする作家が数多く存在するほどです。

「ローマ帽子の謎」から9作(邦訳のみ国名に意訳した「ニッポン樫鳥の謎」を入れると10作)に及ぶいわゆる国名シリーズは、S・S・ヴァン・ダインの影響が見られるものの、読者への挑戦状など独自の工夫もあり、ロジックに拘り、手掛りの解釈に緻密さと大胆さを両立させ得た作風は、本格探偵小説として評価が高いです。

 時代も背景となる国も違いますが、日本でも国名を冠してシリーズを書いている作家もいます。その中でここまで完璧にトレースしながらも、新たなトリックを試み、現代日本に通じる読み応えのある作品に仕上げたのは、この作家ならではです。

 作家=探偵ではありませんが、法医学者の外国人女性と難事件を論理で解く探偵役南美希風のバディが活躍します。短編もあり単行本としては4冊に10作品が収まっています。
或るエジプト十字架の謎(2019年5月)
収録作品:或るローマ帽子の謎 / 或るフランス白粉の謎 / 或るオランダ靴の謎 / 或るエジプト十字架の謎
或るギリシア棺の謎(2021年2月 )
或るアメリカ銃の謎(2022年7月 )
収録作品:或るアメリカ銃の謎 / 或るシャム双子の謎
或るスペイン岬の謎(2023年8月 )
収録作品:或るチャイナ橙の謎 / 或るスペイン岬の謎 / 或るニッポン樫鳥の謎

 各年のミステリトップ10に入った作品もあり、バディものキャラミスとしtも、ロジカルミステリとしてはレベルは高いです。クイーンの理詰めが好きでない人にはむかないですが、基本的にが設定が日本で読みやすく、私は比較的早く4冊を一気読みしました。
 それでも、一般的には今の時代にクイーン風の小説ではなく、コナンなんでしょうが。

カテゴリー

コメントを残す

This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.