倒すべき巨悪はグロテスクな大人になった自分自身

 若い頃、満たされず苦労し、強者になるため、大人になるため挑み続けた時期、その短い期間が振り返れば一番人生で輝いていた。そんなことを振り返る年齢になってきったものです。

 私の会社時代でも、若い頃、2~3年先輩や同期などが、汗流しながらも頑張って輝いていたのに、早期に管理職になり、役員に上り詰めると、結局は社内営業だけで、部下にえらそうにやる老害のような存在になっていった例が多々あります。


 政治家や企業家、官僚なども青雲の志で、改革をしようとか、弱者代弁とかの思いを抱いていた者が、いつの間にか大人の事情を呑み込み、何の面白みも輝きもない老害の壮年になっているのでしょう。何か哀愁を帯びて、若い時もてはやされイケイケだった人が悲哀あふれる中高年みたいになる描写が切なく感傷的になります。
 読書レビュー、イヤミスではないのですが、自分の年齢での立ち位置を身につまされるような話であり、世間にはびこる老害、醜い大人を見せつけられる気がしました。
 桜庭一樹さんの、昨年このミスのベスト10にも入ったミステリです。男性のような筆名ですが推理作家協会賞、直木賞も受賞された51歳の女流ミステリ作家です。

 わたしたちは、何をしたのか。名探偵、五狐焚風。助手、わたし、鳴宮夕暮。20年ぶりの再会を経て、かつての名探偵と助手は、過去の推理を検証する旅に出る。
「推理の風は吹いたー!」
 名探偵が活躍した世界線で、平成中期以降は忘れ去られた存在、平凡は中高年になった、名探偵と助手が過去の事件簿の真相を求め奔走、ミステリ部分もたっぷりあります。
 キャラミスなどの名探偵のオマージュであり、また華やかな時代から、地味な「透明人間」のような市井の人になる時、散らばめる名言にもじんと来ました。以下ネタバレ、抜粋

「人生の大勝負に勝って、強者になって。それ以降は、攻撃だけじゃなく防御も必要とするという大人の人生になって。M-1王者とか名探偵とかでっかい神輿に乗っけられて。売れて忙しくなって。いつの間にか弱者の代弁者じゃなくなり、それどころか、気づいたらむしろ平民の敵の上級国民みたいになってて。審査員のベテランのおっさん達も、そういう道をとぼとぼ歩いて年とってきたんだろうなぁ。倒すべき巨悪はグロテスクな大人に変わった自分自身だって、ある日とうとう気づいちまったとき、どうやって始末するんだろうな」

 それとこの作品Mー1の話題も時々され、時事ネタに近いですが、大物審査員が問題を起こした話も出てきます。まさに私たちが感じる老害の形成です。
 かつては老害と言われる人もピュアで高みを目指す意欲ある若者だったと思えるのが本当に切ないです。これは松本某や中居某の世代だけでなく、少し前の島田某、そして政治家でいうと森や二階、フジテレビの会長や、讀賣の亡くなったドン、ジャニーさんでもそうなのでしょう。不祥事を起こした名門企業の会長や社長もよく居るパターンです。

 何だか、複雑な時期に読んだ本が妙に気持ちにシンクロして、メランコリックな感想になりました。

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