鈍行停車のようなゆったりした時間

 各駅停車の旅は楽しいものです。
 新幹線や特急列車では、速すぎて車窓を楽しむことができません。

 移動手段としては、到達時間のため速度は重要なポイントです。しかし、速さは揺れや車窓を楽しむとは相反する要素です。移動の目的や、車内の環境にもよります。速達を求められる時と、移動そのものを楽しむ時によっても違います。楽しむといっても、通勤時間帯の満員電車でギューギュー詰めでは早く目的地に着きたいでしょうし、疲れた帰宅時なども早く家や宿に帰りたいものです。日が暮れて外が真っ暗ではもう車窓も関係ありません。

 何をもって旅を楽しむかにもよりますが、移動時の車窓という面では、トンネルや防音壁の多い、新幹線や高速道路は良くありません。富士山や浜名湖の見える東名高速や東海道新幹線の一部を除き、新しい路線ほどトンネルが多く景色は楽しめません。まして100キロ以上で飛ばせば景色などあっという間です。

 車窓、駅名標も見えないと、その時間は退屈な移動の苦行時間です。

 通勤だと、都市部だと快速で多くの駅を飛ばし20や30の駅を通過もしくは停車しながら目的地を目指します。いちいち駅を眼に留めてもいないでしょう。新幹線通勤だと、市や町はもちろん山か川を超え、県境を越えて高速移動します。快速が飛ばした一つ一つの駅にも、連なる街があり、住宅が沢山あり、家庭があり、病院や役場、施設があり、通勤通学する人、通院や買い物をする人がいます。春には桜が咲き、秋は紅葉し、夏にはセミが鳴き、冬には氷が張ります。そこここに飲食店もあり、名産品もあり、農家も工場もあります。
 降り立って歩けば次の駅まで行くのも結構な距離があります。駅を2つ3つとなると相当なウォーキングですし、10も20もとなると昔は宿場に宿をとったほどの距離です。

 そんな場所をゆっくり噛みしめるように観る時間もあれば、通り過ぎて何も感じない時期もあります。

 人間には、それぞれ旬の時期があったり、速く走る時期とゆっくり動く時期があるのかと思います。10代20代の若い時が概ね速いようでも、40代、50代で加速する人もいます。同じ年齢でも、同時期でも速い遅いを使い分けるような時もあります。

 ビジネスや受験のうような競争で速いこと、多いことだけが良いと考える癖がついた人もいると思いますが、癒されるのはゆっくりした時間です。かつて殺伐とした時間が多かった人は各駅停車でゆっくり車窓を眺め、駅を見たり車内の様子を見て、癒される時間を持つことです。
 電車に乗らなくても、これから自分は新幹線や快速ではなく、各駅停車のような時間を過ごすのだと思うと、人を妬まず、競争に煽られるような力が抜けて、まったりと過ごせます。

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