書評:似鳥鶏「夏休みの空欄探し」

 旅の途中で読んだ軽めでも、楽しく、ほろ苦く、さわやかな青春ミステリです。
 引き込まれると、旅の途中は、乗り換えや車窓の楽しみもあり、とても悩ましかったものです。。

 雑学や謎解きが好きな高2のライの前に現れた暗号を持った美人姉妹、アニメにもよく設定されそうな平凡でシャイな語り手主人公と素敵なヒロイン。
 仲良しでもないのに大学生の姉のほうに関心を持ったクラスの人気者キヨがバディ的に加わり、4人で暗号の指定先をめぐる夏のお楽しみのようなお出かけです。
 パズルを解いては、次のパズルの場所へと誘われます。謎解き、暗号の面白さもですが、ラブコメ要素のあり、地図を広げて一緒に旅行気分を味わいつつも、最初から出来過ぎた謎、ほんのり影を落としているものが伏線回収され、ラストは切なさも含みつつ、しっかりとアオハルを生きる主人公たちです。

 ジョブナイルもの、ティーン向けの設定ですが、暗号も、雑学ペダントリーもそれなり深く、大人も楽しんで読めました。オタクとクラスの人気者、両極端の男二人は生きる目的に悩み、お互いを羨ましく思っています。
「モテモテの人気者になれば悩ましくなくなる」
「何をしたかいか分かる、何かのオタクになれば悩まなくなる」
 お互いの思いはやがて友情と共闘につながります。
 それぞれに共感する部分も多いですが、自分自身は主人公のオタクに近いところもありますが、目立ちたい人気者でもありたいような感情が錯綜します。生きるのに目的があるという前提を疑うことも大切で、それが分かるのはもっと自然に後の話なのでしょう。

 小説技法に関して少しだけ書きます。
小説の形として一人称を貫き、二人称の言葉使いまで気にしているのは文章、小説を書くのに正統派です。
 意外と一人称の主人公視点だけの小説って展開が難しいものですが、上手く仕上がっています。視点人物がバラバラになって神があちこちに飛んで小説を書いているような三人称では小説として、アンフェアというかまとまりがなくなります。
 しかし、映像化すると、キャストや大人の事情で原作通り一人称は難しいものです。

 読みやすいティーン向けの話に、意外なほど人生を考えさせられました。

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