書評 澤田瞳子「のち更に咲く」 平安期のロマンと暗闘

 昨年の大河ドラマ【光る君へ】で取り上げられた平安時代の物語です。
 著作は同年で、解釈や表記の違いこそあれ、あの人物だなという思い入れはあり、読み易かったです。
 藤原道長の栄華を転覆させようと都を暗躍する盗賊たち。道長邸で働く女房・小紅が、盗賊の首魁が死んだはずの兄との噂を知り探索を始めます。その過程で権力を巡る暗闘とそれに翻弄される者たちの恨みを知った小紅は、やがて王朝を脅かす秘密へと辿り着くのかミステリ的な要素も楽しめます。紫式部も地味キャラで登場、大河ドラマと違い藤式部、この物語ではふじしきぶと読まれます。和泉式部も奔放な性格で重要な人物です。

 歴史モノは良く調べて書かれることに感心します。ちなみに前年には「月ぞ流るる」という小説も同時代もので、赤染衛門を描いていました。以前にも平安時代の富士山噴火を描いた「赫夜」という作品もあり、奈良時代の天然痘が流行った事象を描いた「火定」などもあり、よくぞ調べておられます。

 不倫や権力争いも描かれた、源氏物語が宮中で世界でも珍しい古い時代での長編小説として人気を得たこと自体が、謎ではあります。大河ドラマでも政争の具としても描かれたのですが、重婚が当たり前で、モラルやコンプライアンスも厳しくない時代でも、光源氏や取り巻く女性の不倫スキャンダルの話は、宮中の女性にも人気があったのでしょう。

 今の時代でも、週刊誌が報道して、ネットで解説含めて、妻子ある有名な俳優と、若手売り出し中の女性俳優が不倫した話題で、CM降板などで騒がれます。
 国際情勢、トランプ関税、税制や社会保障の改革、参議院選挙に向けた政治や経済に比べても、どうでもいい人の不倫話。ところが、経済をどうこうしようとかは考えるだけで難しいものです。有名人のスキャンダル、不倫がいいとか悪い、重要なニュースかどうかより庶民に理解されやすく。叩きやすい話題だからもあるでしょうし、やはり面白いのでしょうか。それでも現実の人を、利害のないはずの他人が叩くのを楽しむのは良くないことです。
 

 男女の機微、権力や恋愛の人間模様を楽しむというのは、週刊誌報道ではなく、物語の世界で十分なのです。

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