
西村京太郎さんの十津川警部シリーズは今たまに再放送されていて、知っている若い人もおられるかもしれません。
それでも、書店の大きなスペースを占め、テレビで毎月のようにシリーズを放映していた時代は昔です。
実際、多くの鉄道ミステリの舞台となった寝台列車は廃止されています。当時でさえ、トリックの実行は不確実性が多く難しい机上パズル的なロジックでした。
かつては、ミステリ界で鉄道ミステリというのは、特に日本では正確な時刻表どおりの鉄道運行を背景にアリバイ物として、大きなジャンルでした。
雪や嵐に閉ざされた山荘など、いわゆるクローズドサークルものと並び、鉄道は時刻が決められて、動き出せば密室というスリリングで本格派パズラーの関心をそそるものがあったのでしょう。
それだけ一時代前は、鉄道が移動手段の王様だったこともあります。
鉄道に乗り遅れたら、簡単に高速道路とか、飛行機とかいう考えもなかなか選択肢に無かったのです。クリスティ「オリエント急行の殺人」が嚆矢に思われがちですが、ホームズ譚にも鉄道は出ています。
乱歩やその後、松本清張、高木彬光、鮎川哲也らも鉄道ミステリを書き、注目のジャンルとなり、西村京太郎のあと、新本格を切り開いた島田荘司もサムネ写真の作品始め、いくつかの鉄道ミステリを独自の魅力ある謎と、大胆なトリックで描いています。
「奇想、天を動かす」は消費税が初めて導入された平成初めの背景、そしてミステリ舞台としてはもう少し前の時代ですが、その路線の一部や夜行列車はもう存在しないのです。
平成の初めというと、最近のようでも、世の中の仕組み、社会や経済はすっかりかわっていることを、鉄道の廃止と重ねて寂しく、思い返してしまいます。
それでも、社会の闇、弱者を描く鋭さと、強引な力技のトリックは見事でした。
