和歌山の怪 私の怪異体験シリーズ1

 私はそんなに霊能力があるとか、怪異が「見える」方だという自覚はないのですが、ときおり奇妙な経験をするし、他人から見ればやはり「見える」というか、そういう人なのだとも言われます。実際には私の知る人間の中に、もっと「見える」能力も霊感も強い人がいますから、そんなレベルではありません。しかし、何十年も生きていると何年かに一度、人知を超えた体験をするものでしょう。
 そんな体験を何回かにわけて、書き残していきます。

 今日は、和歌山のホテルであった体験です。あんまり怖い話でも、面白い話でも、コイバナでもありません。

 結構ハードなスケジュールで出張になって、和歌山の企業の店舗改装に立ち会って、その翌日は東京でプレゼンの大会に行かねばならず。その資料もまだ8割方の状態で、結論やブラッシュアップに時間はまだかかりそうな感じで、まずはパソコンを持って和歌山へ。
 10年ちょっといや20年近くかそのくらい前で、まだ各ホテルにフリーWIFI環境が整っておらず、モデムを使って社内LANに入るやり方で、セキュリティもやや怪しい頃でした。
 商談を終えて、ホテルに夕方チエックインしようとすると、和歌山城に近いホテルとはいえ、ビジネス使用なので当然シングルと思いきや、シングルが満室、オーバーブッキングで「広い部屋になります。差額は頂きません、フリードリンクを3本サービスしますと言われ、ひとりで、部屋に行くと、ダブルでもなくさらに広いツインのベッドの部屋で、トイレとバスもユニットではなく分かれた立派なアメニティでした。ビジネス用にも十分広いデスクがあり、急いでプレゼン資料の仕事に入ろうと思いました。
 しかし、どうも広い部屋で、重い冷たい空気が流れる、
ーーうん?何か、誰かいるな、これは。

 とは思ったものの、ただの観光なら怖がっていたかもしれないのですが、ヒマではなく、こちらも急いでいるのでパソコンを起動して、カタカタと作業を始める。
ーー悪いけど、相手をしているヒマはない、どうやら、そんなに恐ろしい怪異でもなさそうか。手伝ってくれるならありがたいが、邪魔はしないで欲しい。

 湿気を帯びた冷たい空気が流れ、トイレのドアがバタンとしまったりし、どうやら片方のベッドの上に白い何かが座っているようにも見えました。和歌山城からの灯りの反射にしては、カーテンを閉めてもぼんやり何かいます。とりあえず寝るのはもう一方のベッドと決めるのに選択の余地はなくなりました。いずれにせよ、徹夜とまではいかないが寝ても2~3時間の事だと自分に言い聞かせるのでした。
 その後は、気にもせず集中した。蛾か蚊のような虫のようにまとわりつく感じもしたが、意識して無視するわけでもなく、集中しました。集中すると、見えなかった課題の解決や、つまらぬミスも発見できて、新たなアイデアもどんどん沸いてきたのです。パソコンの背後に見守る視線を感じ息遣いや、ため息のようなものも感じたが、思いのほかアイデアもいろいろ出てくるので結局最初からまとめ直さないといけないのですが充実した時間です。
 ブラッシュアップの時間もなく、睡魔が襲ってきます。
 --今度は眠たいのだ、おとなしく寝かせて欲しい。隣でお休みなさい。
 翌朝は、いくつかのメモを付箋ではったパソコン持ってチエックアウト、和歌山発特急くろしおに乗る時、まだ背中や肩に気配を感じたが、和歌山の駅を出るとすうーっといなくなり、肩が軽くなりました。新大阪から新幹線の窓際で、アイデアのメモを入れ込み、ブラッシュアップ、品川に着く10分くらい前には余裕でパソコンを閉じ、珈琲を飲んでさあ出陣です。
 関西を代表して恥をかかないぐらいのレベルには仕上がったはずと、何となく徹夜明けに近いけれど、ワクワクして臨めました。
 昨年、一昨年とボロクソに言われたプレゼンでしたが、何とこの年は、屈辱の経験を活かし全国1位、あとで経営幹部も絶賛の内容と言われました。社内で表彰を受けた稀有な経験の2度のうちの1度、トロフィーを貰い企業グループで全国1位というのも最初で最後の誉れです。翌年から、まあそれなりにキャリアは積んだものの、大した評価は受けなかったのです。

 うーん、あの和歌山のホテルのアレは何だったのか。今もそのトロフィーと表彰状を見ると、和歌山城の灯りとともに、あのぼんやりした光が思い出されます。とりあえず、悪い怪異ではなかったのだろうが、何かは全く不明のまま、証明とか説明も何もできない。だから、霊感が強いとか、それが何かが分かるような霊能力がないのです。ただ、たまに見える、遭遇するというだけです。

 怪異は、その土地を離れることができない、場所や時間に制約があるのではと考察されます。

 和歌山城が窓ごしに見えるDホテルは、個人的にはお勧めです。