梅田の聖地でピンチに 天使が舞い降りる2  #コイバナ #ラノベ #人生応援 #ハロウイン

 前回↓のつづきです。梅田の聖地案内とともに、人生応援のコイバナ、少し長いですが、お時間のある時に是非お楽しみください。

梅田の奇跡 天使が舞い降りる1 #コイバナ #ラノベ #人生応援 #ハロウイン – 天使の星座 (seizafpkotodama.com)

 【怒涛の一日の船出、謎のニックネーム
 ハロインメイクのレッスンイベントは無難に立ち上がり、メイクアーティスト水野香菜さんはバツグンの動きの速さと、気配りと、明るさでたちまち会場を席捲しました。
 その動きは武道のすり足のようでもあり、優雅な舞踏やエネルギッシュなダンスも思わせた。わずかに光る汗が天使の輝きに見えた。
 混雑時には、早めに見事に仕上げて後の細かいテクニック指導や販売をスタッフに任します。引き継いだ後もクロージングに声をかけるのも忘れない。そして、予約制ではないため。混雑もあるが客がしまう時間もどうしても生まれると、さっとアプローチで客を掴むのです。基本は自分で選ぶ人も多いので強引に声をかけてもいけないが、アプローチ用に小さなチラシでブースへスタッフが案内する。昔は強引に百貨店でアプローチでもやったがそのアプローチ通称ナンパに香菜さんも加わります。
 アーティストは一日契約だし、集客が多かろうが少なかろうがギャラは変わらないし、集客までは当然本来の仕事ではなく責任はないのです。もちろん常に成功をおさめると、次回の指名も増えるが、たぶん彼女はそんなことよりも、仕事をしたくて楽しんでいる感じがしました。そのやる気は私も含めた周りのスタッフに伝わります。
 ハロウイン仮装用の猫耳をつけて、アイドル級天使がビラ配りをしてくれているのです。私も負けずと声を出してイベントを盛り上げました。館内放送もお願いし、店のバイト君にもチラシを増刷して手配り隊を増やします。
 香菜先生の猫耳姿には、フロア長酒居はじめ男性スタッフも驚き、異様なファンが写メを撮りに群がりだすほどでした。
 12時を過ぎて、少し遅いお昼を、私と香菜さん、ホンファの3人で近くに寿司屋に行った。会社のカードで少し上等のランチをごちそうした。コーポレートカードが神々しく見えたのか、二人とも感激していた。ホンファとも食事したのは初めてで、寡黙で水分もお茶も摂らない。でも美味しいとは言ってくれた。
 香菜さんは元々、大阪で国内の大手化粧品メーカーには就職できず元外資化粧品メーカーに受かり、百貨店ではライバル関係でもあったし、内部での競争は激しく、人生で一番苦労もして成長も出来た時期だという。
「ひさびさにナンパした。関西のお客さんは、結構シビアや」
「水野先生は元々大阪何ですか?」
「先生はやめて、カナとかカナカナ、ルカでいいの。井上さんはバディだから、そうね、マーベラスって呼ぶことにするから、元々徳島なの」
「徳島ってうどんの」とホンファが初めてボケる。
「よく間違われるけど、それは香川県、徳島は何もない。阿波踊りとすだちぐらい」
「すだち?」
「フレバリーシトラス?」
 何となく、親子ほどの年で相性は悪くなかった二人で安心しました。
「マーベラス、Kの一押しのブラックのアイライナーの在庫がちょっと厳しいかもです。融通ってできますか」
「当たってみましょう。これほど単品で出るとは予想以上でした」
「私が打ち合わせに行ってない責任です。ハロウインでも、奇抜な赤とかよりもベースで落ちにくいブラックの極細のアイライナーは全員に勧められますから」
「了解です。明日も入荷は一定量で今日の売上POS反映は来週火曜の入荷でっすから、店間バーターを考えます」
「午後は、店頭よりそっち優先で、最悪他のものを売りますから、状況を教えてください」
「了解、午後からもよろしく、、ルカ」
「ことらこそ、派手に行きましょうマーベラス」
 マーベラスがどういう意味かは分からないものの、午後は商品手配に追われる。
 大阪近隣で在庫の多い店を、酒居さんにパソコンで叩いてもらい依頼をかける。売上にはつあがるが、注文のリベートに繋がらないので通常は嫌がられるが、そこは先ほどからの香菜先生の魅力で、協力的になっている。対象は神戸三宮店と出た。梅田から30分、あとは移動往復だけ、香菜さんに報告すると、事務所が近いのでマネージャーに走らせるという。往復も私が現場を離れるのは拙いと言い、直ぐに直接電話して店間融通の手続きを伝えた。わずか1時間足らずで、100本のアイライナーを揃えられた。amazonよりも早いだろう。
 細面のイケメンマネージャーが、私と香菜さんの奮闘ぶりをさもありなんと確かめて、すぐに帰った。
 会場は夕方近くまでひっきりなしの盛況だが、それはそれで良からぬ輩も現れる。
 昼前にメイクをした中年の女性が、ご主人らしいいかつい男を連れて、目が腫れたとクレームをつけて来た。野々村さんいう方でした。
 大きな皮膚クレーム事件もあり、慣れて入る案件ではあるがそれはそれで丁重に扱わないといけないし、アーティストをあまり時間的ロスさせたくない。
 アイメイクで目がかぶれたのであれば、それ以上の使用は中断し、商品は回収して代金を返還する。スキンケアのような長期連用の肌トラブルではない。使用方法の説明はしてあるので、必要以上の謝罪で足元を見られてもいけない。アーティストも、関わったスタッフも一度大きく頭を下げたが、その後は私が引き継ぎ、医者に行って治療代がかかり、原因の書いた診断書と領収書があれば治療代は払うと説明する。商品自体や、接客、アーテイストのラインの入れ方にもクレームをつけるが、まさに売上本数最大の商品でクレーム率がゼロ近似であり、アーティストの技量の高さも説明し、そこは相手にしない。それ以上慰謝料めいたものはもらえないと思うと、野々村さん夫婦は捨て台詞を残し去っていく。
「ありがとう!マーベラス、問題なかった」
「大丈夫だよ、ルカ」
 このニックネームのやりとりは、スタッフには大うけでした。ムードも売上も最高潮で、初日は競合店の同様イベントに並ぶ実績でした。3カ所のイベントを回ってきた幹部には、盛り上がりは最高なのがここだったと賞賛されました。別にまあ、数字だとか競合は意識はしませんが、とにかく香菜さんと熱く激しく、楽しくできたのは良かったです。

 【聖地での告白と、急襲
 大変な盛況で、各人疲れた中でしたが、労いと明日も出勤の人にもう一日の奮闘をお願いして解散でした。明日は土曜日に出れないパート社員も多く、この勢いだと、当初は任せといて片付けだけと思っていましたがフル出勤を決めざるを得ません。土曜を利用して来る遠方からの役員や幹部社員もいる情報でアテントも必要でした。
 会場の問題点のケアもありましたが、24時間営業の店で逆に早朝からでも仕込み直しができるので、終礼しいったんブースを閉めて解散となり、香菜さんは事務所からのアーティストと落ちあい食事に3人で一緒にいくことになりました。どうせならとそっちの担当の若い営業の山城くんも電話して呼びました。深い意図はありませんが、山城君もイケメンだし、2対2のがいいかなと思いました、後輩で新婚だけど、こういう遊びすきな彼は尼崎の家の戻りかけでも喜んで駈けつけてくれました。
 たぶん170センチくらいある背の高いモデルのような西野さんといアーティストと、180センチはある山城くんがいてバランスはとれました。並ぶと肩ぐらいまでしかない香菜さんのちっこさが目立ちます。
 こじゃれたイタバルのような店で香菜さんと西野さんも近況報告してましたが、いつのまにか山城君が西野さんにアタックしだした感じで、私は香菜さんと昼の続きでいろいろな経験談とか、今日のイベントについてとか、仕事に関してああだこうだと話していました。
 結局、山城君はまあある程度想定した通り、西野さんとどこかに行く感じで、
香菜さんは歌いたくなったと言い「マーベラス、カラオケに行こう」と言われて、いい加減酔いも回ってきて、さんざん「残酷な天使の、」とか「檄、帝」とかアニメソングやAKBやらJPOP、などを歌いまくりました。
「ルカ、あした喉大丈夫か」
「マーベラス、あたし飲みすぎた、酔い覚ましに歩こう」
 もう、私も自宅の京都に帰るのはあきらめて梅田のビジネスホテルを抑えた。その辺を歩くことに、彼女の住まいは地下鉄で行ける天王寺なのでもう少し時間はありました。
 少し歩くと、そこには曽根崎心中で知られる通称「お初天神」正式名称を露天神社(つゆのてんじんしゃ)がありました。
 桜の花びらのようなピンクのハート型の紙が鈴なりになっていました。お初天神は知ってっいましたが、ここまで聖地化されているところとはしらずに酔い覚ましにきて驚きでした。
 何組かのカップルもいます。
「恋人の聖地」と書かれたプレートや、曽根崎心中の話に香菜さんは酔いを醒まして、興味津々で見入っていました。
「マーベラス、私たち、何だか運命のようなところに来てしまいました」
「ルカ、取りあえず、今日の出会いと仕事の成功に感謝してお詣りしましょう」
「明日もすばらしい一日になるのと、二人の恋愛が成就しますように」
「二人って?まさか」
「私とマーベラスに決まってる。私ね、アラサーちょっと、手前のファザコン、年上大好き、一目見た時から、マーベラスに運命感じた。胸がキュンときてこの2日間、いい仕事できるって思ったん」
「ちょっと、からかってないか。僕、結婚して子供いるって言ったよね」
「それは井上さんよ、わかってるわ。でもこの二日間はマーベラスだから。マーベラスは孤独な一匹狼。結婚!私結婚なんて当分考えてない、仕事ばっかりの毎日だもん、事務所の休みも全部仕事かレクチャー入れちゃって、家事も掃除も苦手だし、結婚しても即離婚よ。でも時々好きになる人はいる。マーベラス、私にだって人の心は読めるし、自分の相応もわかる。まんざらじゃない話だと思うけど。改めてお願いする。あと腐れなくこの二日間だけ恋人になってください」
 しっかりと、腕を抱かれて、緊張が走った。
 私は彼女を送っていくのか、どうしうようか。地下鉄かタクシーの手配か迷ってスマホを確認しながらも、半ば混乱して、メールや着信を確認した。
 腕をからませ、組み合い身体は密着に近づいていく、少し下を向かないと身長差があります。
 柔らかい天使の感触です。
(この柔らかさ、暖かさは何だ、このお初天神に本当に天使が舞い降りてきている?)
 こんな可愛い女性に深夜にこの状況で告白されてあまりの驚きに思考停止になりそうだが、騙されているのかという思いや、心のどこかで自分はモラル面で山城君とは違うという意識もめぐり、それでも彼女の思いを無碍に断ることもまた難しいとも考えつつ、時間が経過しました。
(お初、徳兵衛じゃない。マーベラス、ルカ、どうする、近松門左衛門。もう心中かな)
 そして、そんな二人を襲う邪悪な輩の影が、取り巻いてきた。好事魔多し!いかにも半分グレた、社会に反しているような連中数人だった。
                           
                       つづく
 

 

自伝風創作 #コイバナシリーズ閲覧300人突破感謝

 自伝風コイバナ一部フィクションのコイバナシリーズがおかげ様で10タイトルを超えました。梅田編の続きを今校正中ですので、次回はしばらくお待ちください。読み逃しの方は下のリンクから、たどってください。お暇なときに、どれもそれなりに読み返すとまあまあ楽しめます。「水楼閣」は泣けますし、「ふ・ゆ・みさん」は怖い。
 雨とか、真夏でやる気の出ないとき、月曜から仕事で憂鬱な時、誰でもありますね。でも人生生きてると面白いことも、泣けるときも、怖い時もいっぱいくるのが当たり前です。それでもいつかいい時は来ます。

梅田の奇跡 天使が舞い降りる1 #コイバナ #ラノベ #人生応援 #ハロウイン – 天使の星座 (seizafpkotodama.com)

「ふ・ゆ・み さん」が来る #野辺送り #土葬 #ラノベ #コイバナ – 天使の星座 (seizafpkotodama.com)

水楼閣の思い出 京都の中心で哀愁を叫ぶ #カネボウ♯自伝小説#コイバナ#ラノベ#京都観光 – 天使の星座 (seizafpkotodama.com)

成瀬ひかるちゃんとの事 叶わぬ結婚 #コイバナ#ラノベ#読者への挑戦 – 天使の星座 (seizafpkotodama.com)

学生時代 通り過ぎた人、初体験話 #コイバナ#ヰタセクスアリス  – 天使の星座 (seizafpkotodama.com)

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子連れ中年が禁断の星空デートへ? #コイバナ#星空デート#能恵姫#ラノベ – 天使の星座 (seizafpkotodama.com)

すずらん 「ふたたび幸せはめぐる?」 #コイバナ特別編 – 天使の星座 (seizafpkotodama.com)

月まで行ける自転車 (生涯最大の危機と運命の再会)  #コイバナ#運命の再会#ラノベ#剣道少女 – 天使の星座 (seizafpkotodama.com)

剣道少女は負けない #コイバナ#ラノベ – 天使の星座 (seizafpkotodama.com)

梅田の奇跡 天使が舞い降りる1 #コイバナ #ラノベ #人生応援 #ハロウイン

 本当は、この話をもっと早く小説風にしたかったのです。コイバナシリーズの原点?的な体験であり、それ以上に人生応援のブログスタートになったぐらいのエピソードなのです。しかしそれゆえ実在の方との調整もあり時間がかかりました。コイバナというか、いろんな方へ人生応援のハートウォーミングなお話です。今日は第一回
 

天使25法則:人生応援ブログの原点 – 天使の星座 (seizafpkotodama.com)

ハロウィンの淡き思い出 – 天使の星座 (seizafpkotodama.com)

 化粧品メーカー勤務ということで、若い頃からイベントで、メイクやヘアのアーティストと仕事をすることが多かったです。土日が中心で仕込みや片付けで深夜になり、それは若い営業時代の苦労話と思っていました。まさか50を過ぎて若手と張り合うそんな仕事が回ってくるとはと最初は乗り気ではなくイヤ感があふれてました。
 それが40年を勤め上げたメーカーでの仕事人生で、最高の2日間になろうとは、引き受けた時は思いませんでした。
フランス帰りのメイクアーティスト水島香菜
 メイクアーティストというのも男女、年齢、ギャラいろいろあって、お金を払うのはこっちだが、気難しい人もおれば、能力がマッチしない場合もある。通常はイベントが続く場合などは、必ず事前の綿密な打ち合わせをします。今回はハロウインで自社のプチプラメイクをディスカウント系バラエティストアで、ミニイベントでほぼ流動客に紹介して売るというものでした。
 事前に先方の神戸の事務所まで、他の企業や店舗を担当する営業写真と打ち合わせに出向きました。背の高い細いモデルのような女性と、ややグラマラスな茶髪の女性、アーティスト2人と優男のマネージャーが出てきました。
 ふたりとも170センチぐらいありスレンダーで顔に小さい、菜々緒さんとか、冨永愛さんみたいなイメージですね。韓国のダンスしたりするアイドルグループのような感じもします。
 詳細の資料を説明すると、私の担当店舗のアーティストだけパリから帰るのが遅れていて、前日ギリギリになるが力量はトップクラスなので当日の打ち合わせで大丈夫だと言われた。
「香菜はすごくパッションがあって、テクニックも表現力も超一流だから、井上さんが一番ラッキーですよ」
 男性マネジャーに待ち合わせ時間と場所の詳細は伝えましたが、どうも不安でした。
 実は私の担当は大手ではあるけど、カウンターパートナー酒居フロア長とのやり取りも結構シビアな上、化粧品を売る「格」としては新参のバラエティストアです。他の担当がドラッグストアやGMSであり、どうも舐められた感じはしました。実際、他の2人の社員が打ち合わせが進んだ後、伝言とぶっつけ本番という感じでその朝のアテントを迎えます。ただ、それでもこれから伸びる流通であり、インバウンドも多く、若者の圧倒的支持のある店舗への先見と、長年の営業経験を活かして負けたくないという気持ちはむしろ募りました。
 前日夜に、会場や流れ、当日の顧客誘導、トラブル対応などをフロア長と、ウチのスタッフリーダー、中国人通訳兼販売アシスタントと綿密に打ちあわせました。酒居フロア長は、集客と販売の拡大とトラブルがないことを強く要求、中国人スタッフのホンファは40がらみに見える年配の方ですが。化粧がうまく昔はかなりイケイケの美人だった感じのある気の強そうな人です。
 大阪を代表する繁華街ですから、早朝でもにぎわっています。
 24時間営業の店舗なので、早朝から化粧品やヘアケアなども買っていく若い人もいます。待ち合わせ場所は店舗入り口横の大きな水槽の前です。週末の金曜日でも、平日朝に男女や連れと待ち合わせて登校する学生も多くいましたが、時間になってもアーティストらしい女性は現れません。 
 やはり、なかなか待ち合わせのアーティストは現われない。次々と、出社や登校の待ち合わせの人は落ち合って足早に行きます。後は女子中学生か女子高生かわからない、寝ぐせの髪ですっぴんのタヌキ顔のちっちゃな女の子が、熱帯魚を所在なさげに見たり登校相手が来ないのか、きょろきょろしているだけ。
 打ち合わせ時間が短くなるので、こちらもイライラしてきます。
 事務所にメールを入れると、もう家は出てそろそろついているはずでの返信のみ。
 タヌキ顔の女の子は可愛らしいピンクのコートを着ていていましたが、よく見るとその下はセーラー服の制服に見えたのですがそういう私服のようでした。
 まさかとは思ったのですが、よく考えるとそこには彼女しかもういないのです。念のため声をかけようと近づくと、向こうもようやく恐縮したような感じの笑顔で話しかけてきました。
「〇〇事務所の水島香菜です。すみません今日メイクの仕事をする人間です。あなたが井上さん、会って話聞いてて言われてましたけど。ええっと、どういう人ですか、ここの責任者?あっ?メーカーの人ですかね。私あんまりわかってないんでごめんなさい。ちょっと朝がギリギリでメイクもしてなくてごめんなさい。衣装も持ってますし、メイクもしますからね」
 先日の事務所のアーティストたちのルックスや、パリから戻ったばかりというイメージとは大違いで認識が遅れました。私は自己紹介して、こちらの気づきの遅れも詫びました。
「今日のイベントの責任者です。よろしくお願いします。大丈夫です。これから説明します。従業員入り口まで行きましょう」
 背が低く、童顔で化粧していないので本当に高校生のような感じなので分かりませんでしたが、よく見るとタヌキ顔ですがふっくらとした丸顔で透き通るようなきれいな肌の女の子です。髪は寝ぐせがありますが、真っ黒で艶やかで輝くように朝日に照らされて丸い銀色の輪ができ天使のように見えました。
 内容的にはこれから、打ち合わせする内容が多く、しかも事前の認識もなさそうな申し送りの悪さにイラっと来そうな局面ですが、彼女は真摯によく内容を聞きました。そして流動性と集客が未知数なところが多い点を指摘、理解し臨機応変に対応し、スタッフの技量も追って掌握すると状況判断と理解の鋭さを見せました。
「すみません。少し寝坊しまして、すっぴんのままでした。すぐメイクすませます」
 試着室で着替えてきて、ケープをかぶり急造のメイクブースでアッという間に化粧とヘアメイクを自身で始めました。見る間に学級委員長にような清楚な女の子が、目元をばっちりメイクして坂道グループのセンターを取りそうなアイドル級の輝いた姿になりました。プリント柄のリボンのような襟で、チエックの入ったパープルと白でコーディされたブラウスとやや短めのスカートです。
 私も化粧品メーカーで、メイクアップ技術を駆使した多くの変身場面を見てきました。醜いアヒルの子が見事に美しい白鳥に変化する様や、逆にかなりの美人のすっぴんが実はとんでもない実像も見慣れています。それでも、その短い時間で、元々の素材も可愛い彼女があっという間に、超絶なアイドル級に変わる姿とそのテクニックには、正直度肝を抜かれました。
 笑顔で語りかけてきましたその瞬間、50年生きて来た私の人生で初めて、天使が舞い降りて来たと思えました。
「井上さん、お会いできた運命に感謝しています。素敵な時間にしましょう!」
 少し見上げるように見つめる彼女の瞳に胸がときめきました。それが、彼女との熱い二日間の始まりでした。
 一癖も二癖もある、フロア長、担当販売員や、インバウンド通訳、自社のスタッフも香菜の登場に驚きました。
「アーティストの水島香菜先生です」
 紹介したフロア長酒居さんは、こちらにこっそりと、「やるな、カネボウ!犯罪レベルに可愛くない?」とささやきました。中国人通訳のホンファも、少し驚きとジェラシーのこもった目線で見ています。
「よろしくお願いします。楽しく行きましょう!」
 香菜さんの笑顔は、そんな緊張をとく爽やかなものでした。

「若い頃は良かった」とか「私の人生ずっとつまらない平凡」「しんどい人生、いいことないし、死にたい」「外れガチャの人生」とか思っている人がいたら、私は声を大にして言いたい。
「人生にはいつか天使が舞い降りる」
 化粧品会社だから良かった?なんてことは、ほぼ無かった。ブラックなノルマ企業で、粉飾で事実上倒産、何とか身売りで生き残ったものの、大規模な皮膚クレームで、後半も円満な会社人生の時期など皆無でした。もう退職金を多めに貰って早期退職した方が良かったのかと思った時もあります。
 それでも、耐え忍んだあとに、いつか人生には天使が舞い降りる時があるのだということがその日分かったのです。
                               (つづく)

 

「ふ・ゆ・み さん」が来る #野辺送り #土葬 #ラノベ #コイバナ

【相川冬魅】 
化粧品メーカーに勤めていてまだ独身の頃、元号が昭和から平成に変わる頃の時代ですからまだ地方には死者を弔うにもいろいろ因習がありました。
 季節の字を入れた名前はあまり幸せになれないという話がありますが、ある県に赴任した時、四季の中でも「冬」という一番寒く暗い季節が入った相川冬魅(ふゆみ)さんという方が部下のチームリーダーにいました。
 名は人を表すのか、ふゆみさんは雪女かと思うほどの色白美人でした。目は切れ長で鋭く、髪は黒いストレートで、肌は透き通るような白さでした。
 私は霊感が強いというほどではないですが、ときおり何かを感じて無意識に避けるような第六感や、あとから気付けば奇妙な体験をして、命からがら助かることはたまにありました。
 ふゆみさんを見た時、とてもキレイだとは思いましたが、近寄りがたいものを感じました。仕事もよくでき、部下の指導も任せられるのですが、何か暗い影があり、軽口や冗談を許さないような空気をまとっていました。
 当時、30の大台になる頃で、友人の多くも結婚し、親や親せき、上司や取引先も当時ですので「まだか」と言うような催促と、縁談も持ち込まれました。
 社内でも仕事上のパートナーのふゆみさんは年齢も一つ下ぐらいで、適齢であり交際を勧める上司もいましたが、私はいくら美人でももう少し気楽に話せるような相手の方が連れ添うにはいいとも思いました。同じチームではその下の世代、柳田エツコさんや、中野えみりさんの方が気楽につき合えると思ったぐらいです。

 【柳田エツコ
 特に柳田エツコさんは、小柄ですが目鼻立ちのクッキリした可愛い顔で、愛嬌も良く気軽に飲みに行けるような感じでした。仕事も技術力は高く、良くガンバるのですが、ムラがあり遅刻や急な病欠があるのが玉に傷ですが、コミニュケーションを深め会社に帰属意識を高めればいい面が出ると思い、私は柳田さんに大事なポイントを任せました。
 しかし、どうもこれがリーダーのふゆみさんには気にいらなかったようで、中野えみりを重用すべきと猛反発をされます。二人で個人的によく話していることも不評だったのかもしれません。私の机に誰が書いたのか、チーム全員と写っている写真の柳田エツコの首に赤いマジックで線が引かれています。
 ある時、ふゆみさんが真顔で進言してきました。
「井上主任、エツコちゃんと付き合うのは止めておきなさい。あの子にはウラがあります。何で遅刻が多いのか考えたことがありますか? 〇〇〇、〇〇〇!」
 ふゆみさんは、それだけ言って理由までは言いません。最後の方は聞き取りませんでした。私は確かに柳田さんが好きになりかけていましたが、確かにふゆみさんの指摘することも気になりました。
 この年で交際するなら、ある程度遊びではなく結婚もと思う時代なので、そういう面でも気になりました。柳田さんが遅刻の多い曜日の前日、こっそり中野さんに行動を調べてもらいました。
 柳田さんは水商売、しかも相当いやらしいい感じの店でホステスとして働いていました。実際に私も確かめました。
 会社では、アルバイト禁止なので解雇案件にもなります。柳田エツコは友人に頼まれ一時的なバイトで二度としないと約束し、何とか解雇は逃れました。
 この措置にふゆみさんは相当不満だったようで、以来柳田さんを無視したり冷たい態度に出ます。あからさまなイジメではないですが、柳田エツコは以前の元気さを失いました。
 それからしばらくしたある日、総務から連絡があり柳田エツコが交通事故で首を負傷して重症と聞かされました。
 病院には駆け付けましたが、意識を取り戻しても、私の名前は言えても、誰とどうなったかは一切喋れまれせん。何か言っているのですが、言語が意味不明になり、隠しているのかと思いました。彼女は復帰することなく退職しました。
 ふゆみさんと、中野えみりや、他の新人たちと柳田エツコのカバーをしながら乗り切りました。 

 【中野えみり
 夏はチーム全員でレクレーションとして、海水浴に行きました。なつみさんは水着になることはなく、日焼け止めを厚く塗ってパラソルの中でチームのみんなを見守るだけでした。中野さんらも水着を貸すから泳いだら言いますが、頑なに水着にはなりませんでした。
 肩口から乳房にかけて交通事故にあって傷があるから、自分が絶対にこれ以上素肌を晒さない。
 中野さんの話で、ある先輩に聞いた話だと、ふゆみさんが恋人とデート中に運転を誤り不幸は事故に遭って、ケガを負ったそうです。その時、最愛の恋人は亡くなったそうです。それ以降、彼氏はいないそうです。
 中野さんは、ビーチ上にある木でできた島の上でそう語ってくれました。ふゆみさんや柳田に比べ、中野えみりは決して美人タイプではないですが着やせするのか、水着になると胸が大きく一目を引くスタイルでした。
 私はふゆみよりも、中野えみりと話している時間が長くなりました。
 私は素朴で良く仕事をしてくれる中野さんが好きになりかけました。中野さんを食事に誘うと、一度だけは夜遅くまで一緒にいましたが、それ以上の関係はきっぱりと抵抗されました。
「井上主任はやはりふゆみ先輩を大事にしてあげないと、積極的にアタックしてつき合ったらいいのに」
 中野さんと話しているのをふゆみさんは咎めませんが、それがかえって中野さんには重荷のようになる感じでした。私自身もふゆみさんは美人であり、仕事もできるしっかり者なので交際や結婚を考えないことはないのですが、何か心のどこかでためらいを感じました。

 【沼田雄一
 ある日、ふゆみさんの父親が亡くなったという訃報が届きました。
 会社を代表して上司の沼田雄一課長と私が葬儀に向かいました。中野さんら社員は現場をカバーしないといけないので、会社からの出席は二人だけです。もっとも田舎のムラで町内の人だけで葬るので参列はしなくていいと言われてもいましたが、規定の香典も渡すし参列すると伝えたのです。
 この県にこんな山奥があるかというぐらいうねうねと山道を飛ばし、カーナビのカの字もない時代、上司が車酔いしながら地図と首っ引きで1時間近くさまよいその集落にたどり着きました。
 村人が喪家に集まる様子で、家はすぐ見つかりました。家族や親類縁者、村人も全員白装束でした。黒いスーツに黒ネクタイと喪章の二人は明らかによそ者で浮いていました。
 紹介はされましたが、相川村で、苗字も相川、ほとんどが姓名も「あいかわ・ふゆみ」といい「ふゆ」と「み」の漢字が違うだけで、独自の続柄やあだ名で呼び合っているようでした。田舎ではよくあるのでしょうが、不便なものです。
 ふゆみさんの家族は、よく似た感じの女性ばかりでふくよかな年配の方が多く、顔にある特徴がありました。それは遺伝的なものと想像されて、ここで書くことはできません。30人近くいて男性はふゆみさんの亡くなった父親と、僧侶(導師)、小学校ぐらいの男の子がいるだけの、異様なムラでした。
 昼をすぎ、鐘が鳴らされ、葬儀が始まるようです。2回目の鐘が鳴ると、楽器を奏でる人と、導師が出てきて、読経のようなものが始まるのですが、〇〇〇〇ソヤカーとか、サンスクリット語か、活舌か聞き取りが悪いためか、日本語ではないのかまるで意味が不明でした。
 やがておぞましいいような手足を縛られた座位の遺体が、重い石を抱えさせられ、樽の棺に納められました。死者が悪霊に利用され蘇らないように、縛り、石も抱かせるそうですが、その所業が悪魔のようです。
 そして樽を担いで野辺を練り歩く葬列が始まりました。山間部で人は少ないのに、上流に滝だとか、谷や岡を上り下りして大変な行程です。土葬のようです。
 途中で沼田課長は根を上げて、「親族だけで、俺たちはもういいんじゃないか、帰らせてもらおうよ」と言い出します。
 荘厳な雰囲気の中で、その承諾を貰うのに、切り出すのも難しいところですが、何とか私がふゆみさんに、やや強引にコンタクトしました。他の人らは明らかによそ者が顰蹙というオーラを出して睨む。
 恐る恐る「課長が後は親族だけで、、もう帰してもらえないかと?」
 「元々、ムラだけでやる弔いですからね。わざわざこんな辺鄙なムラへ来ていただきありがとうございます。他所の方だから大丈夫だと思います。ただ〇〇〇さんが悪さしてくるかもしれません。追いかけられた気配がしたら絶対後ろを振り向いたらいけません」
「良かった。申し訳ない、相川じゃあここで、失礼する。井上早くクルマのとこまで帰ろう」
 二人で山道を帰るのも結構な距離でした。昼間なので道に迷うことはないですが、森の中や山は鬱蒼として不気味でした。カサカサと音がして、奇妙な鳥の声もします。沼田課長は明らかにおびえています。
 やがて、ヒタヒタ、ザクザクと後ろから走って追いかけてくる足音が聞こえてくるようです。
「振り向いたらいけないと言われてましたね」
「ああ、葬式やから迷信やとは思うけど」
 ヒタヒタ、ザクザク、ヒタヒタ、ザクザク、ヒタヒタ、ザクザク、
「何かが悪さすると言ってましたが、よく聞き取れなかったんですが、課長聞こえました?」
「『ふ・ゆ・みさん』と聞こえたけど」
「!? 何か足音がますます近づいてきてませんか? 村人はみんな葬列に参加してるはずなのに」
「村八分でも葬式は参加できる。熊とか?狐狸とか、いずれにせよ悪さするというのは良い者でないな。急ごう」
 ヒタヒタ、ザクザク、ヒタヒタ、ザクザク、ヒタヒタ、ザクザク、
 かなり疲れてはいましたが、必死になって走りました。こちらが速度を上げても向こうも合わせてきて一向に距離は縮まらず、追いかけてくる相手の息遣いのようなものも感じられる距離になっているような気がしてきました。
 ヒタヒタ、ザクザク、ヒタヒタ、ザクザク、ヒタヒタ、ザクザク、
 最初は迷信かと気にしていなかった沼田課長も、半泣きでほぼ全力疾走になりました。
 私も覚えている聖書の一説や讃美歌、般若心経などを必死につぶやきました。
ようやく、集落の喪家前に戻り、駐車場の車の前まで来ると、足音のようなものは聞こえなくなりました。
 二人ともゼイゼイ息を切らしていましたが、ようやく安堵のため息をつきました。
「本当に、気のせいかな何だったのかな」
クルマを始動させる時、沼田課長は後ろを振り返りました。
「ああ、『ふゆみ』さんが、、、」と。呟きましたが、その後は何を話しかけても無言でした。顔は疲労で土のような色になっていました。
 沼田雄一課長は、翌日出社しましたが、終始無表情で、口を開いても意味不明はつぶやきだけをされ、翌日から高熱を出し入院されました。見舞いも断られ、その後家族が退社の手続きをされました。
 ふゆみさんは、葬儀の後3日ぐらいして普通に仕事に戻りました。

【ふゆみさん】
 私は一度、転勤してその県を離れました。
 ふゆみさんは残念そうに送別会で、私に話してくれました。
「井上主任遠くに行かれるのですね。本当に残念です。私は穢れ過ぎたのでもう結婚できない。また来世でお会い出来たら結婚したいと思います」
 冗談のようなことをふゆみさんは真剣に話します。私は次の県への転勤後に結婚することになります。
 前の支店の情報も入りますが、ふゆみさんはお医者さんだか実業家だけのお金持ちと結婚したそうでした。結婚か出産で退社され苗字も変わった挨拶状も見て、何となく安心しました。
 さらに10年以上過ぎて、経営に関わってその県を再訪した時、ふゆみさんは職場に戻っておられました。
 中野えみりは結婚しても仕事をずっと続けていて、ふゆみさんが女の子を授かったようだったけど、ご主人は事故で亡くなった。傷心のふゆみさんはまたウチの会社で働くことになったという話をしてくれました。
「もうすぐ、ふゆみさんが得意先から戻られます。井上部長が偉くなって戻ってきてまた会えたら大喜びですよ」
「ああ、でも新幹線の時間があるので、よろしく伝えてくれ、駅に向かわないといけないから」
 私は、支店から少し距離のある駅までを歩きだしました。ふゆみさんらしき人がクルマで戻ってくる姿が見えました。年齢を重ねてかなり恰幅のよい姿になっていいたが、色白の特徴的な顔は間違いなさそうです。しかし、その背後にはかなり黒い影のようなものがハッキリ見えました。
 私は急ぎ足になって駅を目指します。
 背後からヒタヒタ、ザクザク、と足音が迫る気がした。私は全速力で駆け抜けました。それでもいつの間にか、信じられない速度でそれが背後に追いついてきています。改札を駆け抜け、何とか電車に乗り込むとやっと足音は消えました。
 罵るような口惜しがるようなつぶやきが聞こえた気がしました。

水楼閣の思い出 京都の中心で哀愁を叫ぶ #カネボウ♯自伝小説#コイバナ#ラノベ#京都観光

 【突然、人形のような美女が職場に
 化粧品メーカー時代、私を管理職に登用してもらったのは、強面の星井さんというエリア支社のトップでした。カリスマ営業だった方で、田舎の支店から地区の中央支社に引っ張ってもらい、その地ではじめて課長職になりました。
 星井さんは、やや小柄ですが、恰幅はよく眼光鋭い、ヤクザ映画にでてくる悪役のようなコワイ顔でした。支店から送り出されるときも、支店長から星井さんはハンパやると本当に怖いぞと脅されていましたし、ビビりながらアテントしました。
 早朝から一人で机に向かわれる星井さんに負けないよう早く行き、星井さんのマイカップに珈琲を煎れ、比較的寡黙でもどすの利いた指示には、よく考えて的確に対応していきました。営業時代の星井さんのやり方を、現場の状況と時代に合わせてなぞるように取り組み、プレゼンやデータ加工をうまくやって、気に入られて重用され、管理職であり懐刀的な存在になりました。
 ある日、出社すると、星井さんの隣にお人形さんのようなすらりとした美人が立っていました。顔も色白ですが、腕や脚が本当に人形のように細長く、現実味のないように見えました。
「ああ、井上、今日から事務の手伝いで職場復帰する有村美千子だ。美容部員のエースだったけど、しばらく病気で休んでいたけどな、復帰するけどしばらくは事務でリハビリだから面倒みてやってくれ」
 モデルか女優さんっぽい感じで当時でいうと伊東美咲とか、最近だと武井咲、佐々木希ぐらいの感じの美しい方です。
 私はもう結婚して子供も二人小さい頃で、あまりにも別次元にキレイすぎる方なのと、ちょっと苦手でした。たとえばお尻が大きいとか脚が太いとかもう少し健康的な人色気のある人の方現実味がなさ過ぎて反って冷静に仕事を割り振って、パソコンの初歩から丁寧に教えていました。
 星井軍団ともいえるスタッフの女性陣、先に女性課長に登用されていた里崎をはじめ、やはり気が気でない敵意の波風が立ちました。星井さんの好みで、ハイレベルな美女ぞろいの中でも、有村さんは突出する美人でした。
 ただまあ突然、美容部員から幹部の企画部署の内勤というのはリハビリとは言え異例なこともあり、そのジェラシーもありました。
「どうせ、あれは星井さんの愛人よ」
 と、有村さんバッシングの噂が立っています。
 まあ、そういうこともありありの会社の時代でしたし、実際枕営業に近い媚びを売って女性幹部登用に便乗して上がってきた里崎のような連中が、有村さんを敵視するのも変な話です。

 【謎の出張命令
 星井さんは、よく有村さんと食事にもいかれますし、私も誘われ3人の時もありました。
 仕事では、有村さんは真面目にコツコツという感じですが、パソコン操作とか難しいのは苦手のようで、コピーとか資料の編綴、配布物、電卓の検算とか、基本的な作業だけでした。星井さんは元々、各支店や本社や企業本部への出張も多く、どこに行ってるのか分からない日もありました。
 ある日、突然に星井さんが「お前は、京都地元で詳しいからな、有村に京都の一番いいところを案内しろ、この子が京都ゆっくり見たいていってるから、急ぎだが次の土日、命令だ。とっときの京都の名所を有村に見せてやれ」
 無茶苦茶理不尽です、しかも土日休みにでしたが、星井さんの目がかなり険しく、拒否を許しません。
「たまには土日、嫁さん子供と離れてのんびりさせてやる。交通費と宿泊が俺がだす」
 といって、新幹線のグリーンの往復チケットと、蹴上の名門ホテルのスイートルームのバウチャー券と1万円札が10枚以上入った封筒を渡されました。星井さんは自分が浮気旅行に急に行けなくなったのを無茶ぶりしたのかと想像しましたが、親分の女に手を出すような真似はとてもできませんし、星井さんはあまりしつこく企図を聞けないオーラを出してられました。はたと困ったというか、その時はまったく意図がわかりかねました。
 有村さんも、少し申し訳なさそうですが、とくにコメントも拒否もない不思議な様子です。
「私も久しぶりに実家の両親に会いたかったもので、ありがとうございます」と星井さんには礼をいい、それなら、ホテルの1室に泊まらず実家に泊まり、京都観光は案内する算段で引き受けました。
 朝から、2つの新幹線のグリーン車を乗り継ぎ、鉄道マニア的には楽しいですが、どうも不倫みたいな怪しげな二人、ボスの女との情事みたいな申し訳ない緊張で話すのも自分の生い立ちから、一般的な話題だけでした。
 有村さんは病み上がりということで、秋なので高雄の紅葉とかも見事だとは思いましたが階段をかなり登る行程がある観光地は避け、人力車も使い、初日は金閣寺、嵐山、嵯峨野トロッコ列車、保津川下り、ランチも良く調べた名店、ホテルでディナーは奮発させてもらいました。
 美味しい料理もですが、美しい景色とそこにあう美女とずっと歩くのは星井さんでなくてもすごぶる快感だったでしょう。


 【京都観光
 スイートの部屋には入りましたが、その豪華さを見ただけで、どぎまぎしました。
「井上さん、いいですよ。泊まっていってください」
 有村さんは少し疲れたし、寂しいからと懇願されますが、丁重に説明しお断りし、早朝に来て朝食は一緒にとる約束はして、泊まることなく実家に帰って寝ました。魅力的な方ですが、星井さんの仕掛けたハニトラなのかという疑いもありますし、もちろん不倫ということもあり、とても同室で寝るわけにはいきませんでした。
 朝は、部屋で豪華なルームサービスを東山を眺めながら味わいました。
 二日目は永観堂、南禅寺と周りました。湯豆腐を食べ、湯葉も紹介しました。有村さんは水楼閣のレンガ造りがいたく気に入ったらしく、何度も写真をせがまれ、他人に頼んで2ショットも撮りました。哲学の道から、銀閣寺に行く予定でしたが途中で有村さんも疲れた様子でしたので、京都駅までタクシーで移動してのんびりタワーの周辺で休憩しました。
 まだスマホがない時代で、カメラの現像待つ時代でした。京都の有名な観光地をベタに回るのは新鮮ではありました。有村さんの美しさは京都では女優さんを連れているようで、目立ちました。
 帰りの新幹線までの時間に、駅ビルの上層で京都タワーを見ながら、少しワインも入って有村さんは私の腕をとって身体を寄せてきました。
 か細い腕でしがみつくかれて、初めて星井さんの意図が少し分かった気がしました。
「ホントに美しいところばかり、無理に来てもらってありがとうございます。星井さんにも無理を言いましたが、井上さんにはもっと無茶、無理難題を言いました。井上さんが本当に京都に詳しくて良かったです。いい思い出になります」
「星井さんだからでしょう」
「そうですね。言い出したらNOは言わせない人ですから、でも井上さんはいい方です。2日間だけ井上さんとずっとご一緒できて本当に楽しかった。星井さんも頼りにされていますよ」
 そんなことないと言いかけた私の唇は柔らかく甘いマシュマロのような何かに塞がれました。
 秋の夕日は少し危険なほど赤く西山から二人を照らしていた。

 【悲報
 次の日出勤して星井さんに報告しようにも、いません。
 星井さんは急に本社栄転が決まったようです。
 何日か後に余ったお金もお返ししました。
「有村の件、ありがとう。本人もことの他喜んでいた。実家に泊まったのか、せっかく儂の用意した据え膳食わんかったって馬鹿!紳士ぶりやがって、減点でまあ80点ぐらい。そのうち、お前を本社に呼んで幹部にしてやろうと思ったけどまだまだやな」
 と豪快に笑い飛ばしました。
 その言葉は星井さん流にはいつか必ず本社に呼ぶという意味ですが、どうも、最後はやや上滑りで社交辞令のように聞こえました。
 結局、有村さんと星井さんの関係がイマイチわからないまま、星井さんが転勤すると、有村さんもすぐにまた長期休暇に入りました。
 有村さんの訃報は京都でのデートから三カ月経ったかどうかの冬の頃でした。
 白血病でした。
 総務人事や里崎の話で、有村さんは、もう死期が近づいていたのを知り、星井さんに頼んで少しの間会社に出て、行きたかった京都見物を最後にしたかったのだと悟りました。
 有村さんの告別式には、星井さんも来るだろうから、詳しく今度こそ確かめようとしましたが、星井さんは現れず。有村さんのお母さんから、井上さんにと水楼閣の前で撮った2ショット写真を渡されました。
「井上さんと回った京都の2日間が人生で一番楽しかったと美千子は何度も言っていました。本当にお世話になりました」
 あまりにも美しいその写真の有村さんはやはり異世界レベルだったように思います。その写真を棺の中に入れようか迷いましたが、せかっく渡してくれた母親の手前、持って帰ることにしました。

 他にも会社関係者がたくさん来ている中、人前で泣くことはこらえたかったですが、一人になる前に、その写真を見て有村さんのことを哀しく切なく思い出すと、頬からボロボロ涙がこみ上げました。美人薄命とかいう言葉が、ベタですが残酷なものともいました。参列していた里崎はそんな私を軽蔑したような目でみていました。喪服の女たちもここでは、それとなくキレイにメイクを仕上げ弔問外交的なやりとりもあるのです。

 星井さんの後任とは、どうも反りが合わず、里崎がなぜか重用され、私は以前ほどうまく仕事が回りません。星井さんの引きで本社栄転があるかと期待はしていましたが、そんな日はこないことがすぐわかりました。
 星井さんも内蔵、肝臓や腎臓から全身に癌が転移患していたそうで、最後に見舞った時は、あの元気さはなく恰幅の良かった顔もやつれ弱い声でした。
「こんなになると、会社の連中も冷たい。そんなもんだな。義理での見舞いだけだ。井上、お前だけだよ。いつまでもこうしてきてくれるのは。出世とか金だけで動く人間じゃダメ、義理を大事にな。お前は妙に真面目過ぎる、清濁呑み込む度胸さえつけばな、これからの会社を頼む」
 ようやく聞いた有村美千子さんの話は、星井さんの世話になった先輩の娘でやはり彼女は入社する前に肝臓を悪くして急死されたのだそうです。
 個室に多くの見舞い品はおいてありましたが、それがまた哀愁を呼びます。
 カリスマ度合いでは、圧倒的なキレ者だった星井さんですが、無理もたたったのでしょう。それから間もなく、訃報を聞きました。
 私自身、妻と子の病気も発覚したので、関西へ戻る異動を願いました。
 里崎はその後、美容会社のトップに踊り出るしたたかな女性でしたが結局会社は傾きます。
 私は、関西に戻り本社への道は絶たれた感じで、現場に近いポジションで汗をかきました。
 哲学の道を歩くのが好きな友人もいますが、嵐のように過ぎ去った星井さんとの仕事や、有村さんのことを思うと、秋も南禅寺界隈にはあまり行きたくもありません。
 スイートルームにあの時、泊まることまで星井さんがほのめかした指示にしたがった方が有村さんにはよかったかは、もう永遠にわかりません。
 あの時、京都駅で有村さんがイタズラに私の口に含ませた生八つ橋も、甘すぎてそれ以降何だかあまり食べたくありません。
 

1986年広島市民球場 北別府学さん追悼

 私は転勤で若手時代、最初に行った地方が広島県でした。接待や支援スポンサーの立場で野球観戦には行かせてもらいました。
 この年、地元テレビ局で北別府さん、高橋義彦さんとナマですれ違いました。
 1986年は前年優勝の阪神タイガースに対して広島カープもエース北別府、抑え津田を擁して激しい優勝争いをしました。
 昨日若くして白血病ということで、訃報に接した北別府さんそして、抑えだった津田恒美も難病水頭症でかなり前に30代で亡くなっています。
 この二人が、バース、掛布、阪神現監督岡田のクリーンナップと対決し、かたや広島の攻撃陣は高橋義彦が1番で、山本浩二、衣笠がしぶとく返すという昭和の名勝負でした。
 阪神が前年、勢いで優勝はしたものの絶対エースのいない投手陣は層は薄く、北別府さん中心のカープがバランスの取れたチームで優位に立ちました。ペナントレース終盤は阪神が脱落し、原、クロマテイ、江川卓らのいた読売と熾烈な優勝争いとなり、カープが勝ち切りました。
 今よりもメジャーとの距離は遠く、球速も遅く、スタンドは帽子程度でユニフォーム着てるのは応援団長ぐらいの時代ですが、当時から広島の野球ファンの郷土球団愛は強かったです。
 今はフランチャイズ球団ビジネスが成功し、カープ女子はじめ全国にも人気がありますが、その原点はカープを支える地元の野球熱です。たとえば大阪でももちろん阪神の話題からとか、名古屋ならドラゴンズというのもありますが、広島でのカープというと何か違うもう溶け込んだ一体感の愛のようなものがあります。
 長年弱かったし、貧乏だったのもあるので、絶対勝たなきゃという感じが少ないというのか、負けて悔しくないことはないのですが、負けても愛というのが強い感じが全面に出るのがカープファンです。
 ちなみにこの年の日本シリーズで3勝1引き分けから4連敗して西武ライオンズに日本一をさらわれ、秋山のホームランバク転パフォーマンスには、広島ファンは根深く怒っていました。
 その後、40年を経て広島の街も変わり、球場も移転しましたが、あのアナログなスコアボードに独特の文字で書かれた市民球場は懐かしいです。盛り場の近い繁華街にある珍しい立地の球場でした。
 カープやプロ野球の古き良き時代でした。

成瀬ひかるちゃんとの事 叶わぬ結婚 #コイバナ#ラノベ#読者への挑戦

 【奇妙なデジャブ】
 遠距離恋愛の彼女と別れてしばらく経過して、見合い話に追われだした私でした。とあるエリア支店にある城下町の南側の商業地にあるドラッグストアの担当者との出会い。
 ひかるちゃんを初めて見た時、奇妙なデジャブ(既視感)と説明不明の違和感を覚えました。凛々しい瞳と所作が、アイドル歌手の誰か?か、高校時代に憧れていた女性に似ていたからだろうかと考えました。
「成瀬ひかる」さんはそのエリアでは多店舗展開している重要な取引先のドラックストアの店舗でのビューティ担当でした。以前付き合っていた恋人にスレンダーですが背は高い。化粧品の仕事をしている割にはややあっさりしたナチュラルなメイクで、激務になると、ニキビができたり、唇が少し荒れるときがあるぐらいでそれ以外は欠点のない美しい顔でした。
 その企業は、ドラックストアの中でも化粧品部門特にカウンセリング化粧品に力を入れ、なおかつ私の勤めていたメーカーの店内シェアも高いもので、社員の教育にも力を入れていました。
 化粧品メーカーとして、そのドラッグストアのビューティ部門の人材教育に関わり、提携協力していました。戦略的に、自社の知識も増してもり、店頭でも二択なら自社を薦めていただくような関係を構築していたのです。
 ひかるちゃんは、やや気分屋のところもあるが、勝気で大変仕事熱心な方で、化粧品部門だけでなく、店長代理的な仕事までこなしていました。女性の同僚や、先方の教育担当からも「個性的で気が強いがとても頑張る、ひかるちゃんはいい子だ」と絶賛し、引き継いでいました。眼光が鋭いというのか、目鼻立ちのはっきりした方ですし、やや低い声で的確な質問や返事をされ、私もその眼を見つめられ話しかけられると、ちょっとドキドキしました。
 私も当時営業成績を上げるためには、社内で管理だけしていないで現場に赴いて直接担当に依頼することもしていました。比較的遅くまで、担当者が遅番でいるひかるちゃんの働く店舗には夜に回ることも多く、ある時は決算で大変遅い時間に受注を頼みに回りました。

 【深夜のお手伝い】
 ひかるちゃんは「こんなに遅く何しに来たのか、忙しいから聞く間がない。注文なんか、品切れの自動発注以外探す間はない」とつっけんどんでした。
 夏なので、ノースリーブのTシャツに短パンとラフな格好で、パソコンに向かっていました。
 何か手伝うことがあればするので、話を聞いて欲しいというと、彼女はややキレ気味の挑発で言った。
「ここの籠車に入ったオリコン(折り畳みコンテナ)の商品を、全部部門ごとに倉庫の前に並べてもらえる。明日セールで、早朝からバイトが品出しするのに、ビューティの仕事だけじゃないの。人も少ない、店長も社長も何も分かってない」
 ざっと見ても、籠車2台、大型のコンテナが40以上、洗剤やらシャンプーなどはかなり重い。
「これ、成瀬さん一人でやる予定だったの?」
「そうよ。店長休みで、もう私が社員一人、店が閉まったら一人で整理よ。こんなの当たり前、驚くかもしれないけど、私細いけど、力持ちなの、だから作業で暑くなるから、Tシャツと短パンなのよ。だけど腕太くておっぱいちっちゃいから薄着はいやなの、あんまり見ないで」
「手伝わせてもらいます。部門が分からないものは、端末叩きます。たぶん、だいたいわかると思います」
「えっ、本当に手伝う気? 無理しないで、帰ったら」
 こちらも意地にもなり、かなり重いコンテナを右に左により分けて運びました。3つ4つやっただけで汗が噴き出ました。一人でやれと命令したひかるちゃんも私が半分ぐらいやると、一緒にやりだし、要領は向こうも心得たもので、それでも店が閉まって小一時間もしてようやく片付きました。軽快な動きで、細い体が躍動してまぶしい感じでした。ときおり見える脇の下もキレイで、少しコケティッシュに映りました。
 ひかるちゃんも汗だくで、白いTシャツが濡れて見えるほどです。
「ありがとう、井上さん、でいくらぐらい注文しとけばいい」
 この後も深夜にまだ一人で作業して、戸締りして、遅くに家に帰るのでは心配だとは思いましたが軽自動車で通勤しているから大丈夫と言われました。
 売上金の入った金庫や劇薬庫もあるのに、もしこんな事情が分かれば随分不用心だと思いましたが、カラーボールも木刀もあるそうで、私はその夜は会社に戻りました

【成長する好意】
 ひかるちゃんのおかげで随分助かりました。。
 それからひかるちゃんの店舗に、足繁くお手伝いに行き、負担を減らすように好意を持たれ、できるだけ便宜を図ってもらったりしました。しかし、お客様に強引な推奨はしないさっぱりした性格で、相手の立場をわかり、よく話を聞いて販売や相談をしている本当にいい子だと思いました。
 ひかるちゃんの頑張る姿をすごく好意を持って見てしまいました。12月に毎年発売さえる限定の化粧品も、なんだかんだいいながら、全エリアで2位になるほど頑張って予約をとってくれました。やはり自分の中で禁断的だと思っていた「成瀬ひかる」の存在が大きくなっていくのを感じました。

【資格認定式で】
 成瀬ひかるは、所属するドラッグストアのメーカー共催の研修を終え、ビューティⅢという資格認定と卒業を迎えました。そこの社長の方針で、劇的なサプライズなどを、当時お台場にあった私の会社の本社ビルに隣接するホテルで、豪華に盛りだくさんにする式典にするという一大イベントがありました。
 そんな大勢で東京まで出向くバブル期ならではの、冷めて見ればベタなものですが、お台場がブームで当時としては新鮮なものでした。何とか感動的なものにと、関係者は知恵を絞っていました。資格所得者は8名程度で、私はひかるちゃんともう一人、男性バイヤーと社内結婚の決まった同じ地区のオサコさんという女性のプレゼンター担当でした。
 スピーチ内容をエピソード盛りだくさんに考えていたのですが、この日はひかるちゃんは随分ナーバスになっていた感じです。
 私には何があったっかは分かりませんが、先方の幹部や、女性教育責任者、友人のオサコさんら同僚までが私に『成瀬をよろしく、うまく励まして』と依頼されました。私はかなり、ギリギリの内容でひかるちゃんや大勢の前で緊張しながらも、普段の仕事ぶりや人柄を褒める内容と、少しウケを狙った公開プロポーズのような告白を交え、参加者へのインパクトは大きかったと思います。
 オサコさんらが気を使ってか、ずっと私とひかるちゃんをくっつけた席にしてくれたいました。
 ところが社長の肝入りの感動動画(やや押し付けっぽい)が終わり、社長との懇談では、ひかるちゃんは堰を切ったように会社の体質批判をしゃべりだしました。他の資格所得者や社員の苦労を代弁し、この教育や人材育成も現場から乖離していると辛辣で実も蓋もない批判でした。
 社長もタジタジとなり恥をかいたような形で、その場は持ち帰りで、親睦会となりましたがひかるちゃんは資格も要らないし、辞める覚悟で直訴したようです。
 同期のオサコさんの結婚が気持ちが複雑になったのか、化粧品か医薬品登録販売の管理職を選ぶかの難しい悩みなどがあったのか、それを理解しない会社に不満が溜まったのか、ひかるちゃんの心の揺れはよくわかりません。
「どうせ私なんか、結婚もせず、ぼろぼろになるまで働かされるだけ、会社なんてもうイヤ」
同僚たちになだめられながら、ひかるちゃんの興奮はなかなか冷めませんでした。
 それでも私のスピーチ「ひかるちゃんの仕事ぶりへの思いの伝え方は良かった、井上さんがいたから成瀬が喜んでいるし踏みとどまれる可能性がある」と言われました。「井上さん、ひかりちゃんを離さないで、踏みとどまらせて」と周りからはやや複雑な激励をされました。
 

【2次会で泥酔】
 それでも、式典と親睦会が終わると少し落ち着いて、何と社長と教育責任者、オサコ夫婦とワタシとひかるちゃんが6人で飲みに行くことになりました。
 社長も現場を知らなかったことにはいたく恐縮して、お酒を注いで回りました。もちろん処分もないし、あれだけ言ってくれて感謝しているとも言われました。私の方へ来ては、成瀬をこれからもよろしくと言ってくれました。
「二人はお似合いだけど、つき合ってるの?」と言われこちらが赤面しました。
「そんなわけないじゃないですか、井上さんに失礼です、私なんかお付き合いできるわけありません」
 残念ながらひかるちゃんは慌てて、謙遜もありますが、即刻全面否定しました。
 これには私も思わずおいしいお酒を飲み進めました。
「じゃあ、井上さん、成瀬を責任もってホテルまで送ってやってください。明日はリラックスしてゆっくりお台場かディズニーかを楽しんでください。よろしくお願いします」
 社長たちは去りましたが、オサコさんたちとひかるちゃん4人になってもお酒はさらに進みました。ひかるちゃんはお酒は強いそうですが、さすがにこの日は飲みすぎたようです。
 オサコさんは、ひかるちゃんを送って行ってとは言われましたが、それ以上はダメとなぜか「成瀬とは、井上さん、今夜は送るだけにして帰ってあげて、明日はオフだからお台場を二人で回ったら」
 オサコさんは、同期で友人のひかるちゃんと私の事を進めたいのか、妬いているのかよくわからない態度でした。

 【ホテルで告白 撃沈?
 へべれけに酔って、肩を貸しながら、ホテルまで行きましたが、一度チエックインしたひかるちゃんですが部屋番号を覚えていないので、どこのブロックの何階のフロアかが分からず右往左往です。先に戻った式典参加の資格取得者の同僚ともフロアが違い、ずいぶん探してキーに見当たる部屋にたどり着きました。
 ホテルの廊下でも結構叫び、恥ずかしい思いをしながらやっと部屋に送り届けました。ベッドに寝かしたところで、見つめ合ってしまった二人です。
「ありがとう、井上さん、もうここでいいよ。これ以上親切にされたら、井上さんのことすきになるから、もう近づかないで、お願い」
「僕は成瀬さん、ひかるちゃんが好きだ。結婚したいと思っている」
「私も井上さんが好きになってしまった。でもこれ以上はダメ、嫌われたくないから」
 なおも近づこうとする私をひかるちゃんは突き飛ばしまし、バッグを投げつけました。
 バッグの中身が化粧ポーチから、財布やカード入れの中身まで派手に散乱して、ホテルの床にぶちまけました。
「落ち着いて、ひかるちゃん」
 もう酔っぱらい過ぎて、自分が何を言って何をしているのかもわからないのかもしれません。私はバッグを拾い上げ、散らばった鍵や携帯、化粧品、大金や大事な免許証や保険証、クレジットカードやポイントカード、小銭に至るまで全部バッグに戻しました。
 ちらりと見えた免許証の写真もかわいく、保険証や他のカードでもひかるが本名でひらがなの名前なのがわかりました。
「ありがとう。でもそんなに優しくしないで、私はこれ以上はあなたを好きにならない」
 私は落したものを拾い上げているとき、全てを理解しました。
 それでもひかるちゃんにもう一度近づき抱きしめました。
「分かったよ、、、分かった、悪い、のかな、成瀬さんの考えている気持ち、分かってしまったと思う。結婚とかもう言わない。それでも僕はひかるちゃんが好きだ、嫌いになることは絶対ない」
 ゆっくり、私は成瀬ひかるに顔を近づけて唇を、おでこに軽く触れさせました。キスが終わると私もひかるちゃんも少し目が潤みました。
「明日は早く起きれる? 予定通りディズニーシーに行こう、一日ずっと二人で遊ぼう」
「うん、起きれるよ」
 シーがオープンしてしばらくの頃だったか、台場からディズニーというのが、この認定式典での翌日のオフでも当時人気の定番だったのです。
 
 翌朝、ひかるちゃんはそこらのアイドルが絶対負けそうなぐらいの、ばっちりの勝負メイクとゴスロリファッションで朝食会場に現れました。フリルのついたピンクチョコレート色のワンピースは普段のイメージとは違いとても可愛く似合っていました。美貌でスタイルもいいひかるちゃんをさえない私がバランス悪く連れ歩くのかと気後れしそうでした。
 二人でミッキーとミニーの耳をつけて一日遊びまわり、美味しいものも食べました。
「今日は本当に楽しかった。いい思い出になる。こんな優しい人と一日一緒に遊べた」
「ひかるちゃん、会社は辞めるのかい?もう会えなくなる」
「ううん、会社はもう少し続ける。それも井上さんのおかげ、感謝してる。これからも仕事のパートナーとして、良いお友達でいましょう」
 僕もこんなに可愛い人との楽しい一日は今までなかったことで、いつまでも覚えています。帰りの新幹線は元々予約が別の列車だったので、二人は東京駅で別れました。


  ※   ※

【読者への挑戦状】
 もちろん、最初からお気づきの方もおられると思いますが、一応読者へ挑戦します。
なぜ、ひかるちゃん「成瀬ひかる」は私との結婚を拒んだのでしょうか。手がかりは全てここまでに書いています。コイバナシリーズの読者への挑戦でした。


  ※  ※

【後日談】
 その後も取引先相手として、成瀬ひかるとは良好な仕事の関係を続け、私はその後1年ほどして、今の妻と縁あって結婚することになりました。
 後にも先にも、私が同性とキスしたのはあの夜のあのホテルの部屋だけです。
 そう「成瀬ひかる」さんは男性だったのです。
 結構、大変な生き方だと思うのですが、ひた向きに一生懸命仕事されているひかるちゃんにはただスゴイなあと思います。

 蛇足的に、伏線としては、「説明不明の違和感」に始まり、
「『ひかる』という名前」男でも女でも使える名前
「背が高く」「やや低い声」「力持ち」「おっぱいちっちゃい」身体的特徴
「ドラッグストアで一人で深夜に戸締りをしていた」男なので任されていた
「ホテルで他の友達とフロアが違ったの」のはレディースフロアに入れなかったのです。
決定的に気付いたのは、ホテルの部屋の床に散らばったカード等の中に、保険証があり、それを拾い上げるとき見えたので、性別が分かったのです。免許証には性別は記載されていませんが、保険証には記載されているのです。
 
 その後、私は子供ができてから1度だけ子連れでディズニーに行きましたが、それ以降一度も行かずじまいです。

女のモテ期、オトコのモテ期

 昭和50年代頃まで、女性の適齢期を揶揄して、「クリスマスケーキ」と言われ、大学の同期や後輩たちは、焦るような感じもあり、遅くとも30のやや手前で、多くは結婚の便りを聞きました。
 24ぐらいが売りの最大のチャンスで、26を過ぎるとたたき売りになるケーキに例えられたののです。
 今の女性の雇用条件とかの制度もまだ整いきれず、社会全体の風潮も違いう時代でした。女性は優秀でも仕事は腰かけで寿退社か、せいぜい出産まででした。
 今はアラサー、アラフォーも当たり前に活躍され、40ぐらいで、グラビア出して、その後結婚する人もいますし、盛りの時代は長くなったと思っていました。
 ところが、現代でもあるニュース番組の企画コーナーを見ていると、モテ期を感じた時代を男女別に集計したデータが紹介されていました。男性が10代から60代ぐらいまで若い頃から、なだらかに分散しているのに、女性は圧倒的に20代に集中していました。
 これを見た30代の女子アナが、20代の後輩アナにしみじみと、「これ、絶対その通り当たってる。私も30代になって、本当にパタリと声もかからなくなった」と嘆いていました。
 やや、男性目線的な話で申し訳ないですが、確かに、その方は大学のミスだったのですが、続々入る強力で旬な女性たち、顔面偏差値の高い後輩には、圧倒されてる感じでした。
 昭和の化粧品CMで25歳はお肌の曲がり角と言われていましたが、アラサーで頑張っている人も、確かによほど改造してるか上手く化粧していないと、油断して映る肌は、10代後半とは比べ物にならないぐらい衰えています。
 男性のモテ期が年齢を重ねてもそれなりなのは、どういう面なのでしょう。イケメンとかビジュアル、ルッキズムではやはり20代でしょう。
 まあいろいろ問題ありのジャニーズ系も、それでも40代ぐらいでかなり第一線ですから、集団坂道系とかの女性アイドルに比べここでも、男性はアイドルの寿命やモテ期に幅があります。
 IT社長や、お笑いで稼いでる人が、年齢、容姿とはず若い女性と結婚しているのは、やはりお金なのでしょうか。
 ただ、お金、ルックス関係なしに、人間が落ち着いてきて、異性を尊重して上手く付き合える年齢になった人はモテるのかもしれません。自信をもって、つき合える安定感、相手の気持ちを推しはかれるような気配りを、年齢を重ねて身につける人が多いのかなと思います。
 まあ、モテ期は感じ方なんで、若い頃はモテていても自身で感じてなくてというのはあるのかもしれませんが、私もモテ期だなと思うったのは40過ぎてからなのです。
 そう考えると女性も、この先は年代が分散していく時代に入るかもしれません。

学生時代 通り過ぎた人、初体験話 #コイバナ#ヰタセクスアリス 

 赤裸々すぎて、ためらうのと、もう忘れてることも多いし、記憶の隅っこに眠ってたものですが、コイバナと言えば初体験のお話。
 結婚後のコイバナだと、不倫みたいに思われるので、かなり創作を交えたり時系列を誤魔化して、物語化していましたが、今日は普通に大学時代の逸話を、暇つぶし程度に。
 これと言った劇的な出会いも再会も事件もない、ただのコイバナです。

 大学時代にバイト先で知り合った人。
 大学時代は中高に比べ、毎日声をかけられる範囲が少なく、その割に性欲が強くなる大人になる時期で、出会いを追い求めたような気がします。何だか授業受ける集団は人数は多くても距離がある気がしますし、いきおいゼミとかサークルとかバイト先の中で比較的限られた中で、好みとかの選択幅少なく、競争率激しいような感じでした。
 
 大学のバイトは、演劇の部活動があるので長期はできず短期的なものばかりでした。会場設営や、交通量調査、試験監督や、映画のエキストラとか短いものが多かったです。少し長かったのは塾か予備校の試験の採点、添削でした。ある夏休みでした。
 何人だったかたぶん10人前後かの大学生の男女が数日、多少入れ替わりながら採点や添削を受け持ちました。
 そこで私の近くにいた女子大生が、初体験の相手はマサミ(仮名)さんでした。少し特殊な苗字で今でも覚えています。ややぽっちゃりした感じの丸顔でした。私にはかなり美人に見えましたが、担当職員には、すぐサボって寝てるとボロクソに言われ、化粧もしていなので私以外の男子たちも地味に見える存在で、男子は別の女性グループと元から親しかったのか、関心も持たれずいつも一人でした。昼休みも外には出ず、持ってきた小さなお弁当をささっと食べるとすぐ何か勉強を始め、途中で寝て、みんなが戻ってくるまで爆睡し、小突かれるまで起きないし、作業中もひと段落するとすぐ居眠りをしていました。
 他の男子や担当職員は、「眠り姫起きろや!」と言われ、女の人からも馬鹿にしたように言われ、寝起きに唇が濡れていて「よだれ姫」と陰で呼ばれてる時さえありました。
 時々、起こしてあげる役になり、居眠り中にあった指示をフォローもしました。
 少し、話すと国立大学の歯学部で年齢は2つ上でした。大阪まで通っている上、勉強量が多いので、慢性的に睡眠不足なのだそうです。
 国立大学で歯学部とというのには、私立の大学で内部進学で受験もせず在学中も勉強していない私には異質の存在、勉強好きの高尚な、雲の上のような人に思えました。
 それでも、漢字や計算はお互いに確認し合い、ミスもすることが分かりホッとしました。
 私もこのバイト先ではツレがいなかったので、外に食事に行かず、買ってきたパンか何かを食べて昼休みを本でも読んで休憩していた時です。読書中に仕事に使う鉛筆をひっかけて机の下に落してしまいました。
 机の下をコロコロ転がっていった鉛筆を探して潜り込むと、そこに爆睡しているマサミさんいて、スカートから伸びたナマ脚と、少し開いていたので股間のピンク色の下着がばっちり見えてしまいました。夏なので、ストッキングも履かない白い肌の太ももの肉が生々しく、
 ドキドキしましたが、興奮は最高潮に達しました。悪い気もしましたが、当分職員や他のバイトも戻らないし、本人は叩かれないと起きない性質ですから、もうちょっと見てもいいかなとも思いました。しばらく、机の中で時々動く足にびくびくしながらのぞき込んでいました。ガードルもしていないピンク色のパンティを飽きるほど見つめた上でさらにその奥の部分を想像しました。
 机に向かうと、大胆で無防備なマサミさんの寝顔をどアップで、鼻の穴まで隅々まで見てました。
 そうなると、もう火が点いたように、男のスケベ心は燃え上ります。爆睡中の唇をティッシュでふき取り、気づかれても机枯れ汚れそうだからと心の中で言い訳しつつ、マサミさんの垂らした涎を自分の舌で味わいキスできた気になりました。何食わぬ顔で午後からのバイトの採点は始めました。
 その夜はもちろん、そのティッシュを大事に持ち帰りました。その日からずっとマサミさんのことばかり考えるようになりました。
 バイトの最中ずっと、彼女を意識して、その思いは何気に伝わっていったのか、二人で作業する時間は増えていきました。
 何とか、バイトが終わってしまうまでに、デートの誘いができないかと思い、映画でもと思いましたが、昼からの半日のデートは勉強に差し支えるので、夜の食事ということになりました。
 歯科大学なので、家が歯医者でお金持ちかと思いましたが、実家は岡山で仕送りは少ないといい、どうやらサラリーマンの家で自分は歯科医になりたくて挑戦したそうです。
 年下のバイト学生仲間におごらせるも悪いし、割り勘でも外食は高いので、食材を買って彼家で食べようということになりました。大阪寄りの京都府の安いお風呂もない、当時で古びた文化住宅を「広いけど、安かった」と借りて住んでいました。京都に住みたかったそうで、通学もそのため大変で京都で短期のバイトを探し、いつも眠たいんだと言ってました。
 歯科大学は6年までで、1年留年しているため、私より卒業は遅くなるという話がでました。
 食事が終わるとお礼を言って、帰る間際、目が合うと、抱きつきキスしました。「〇〇さん、好きです」と言うと「私も」と言って帰してくれました。
 唇の味と匂いは以前に、黙って寝てる間に先食いしたのと同じでした。
 今のバイトが終わっても時々こうして会いたいと次の約束をして、その夜は、そのまま帰りました。
 次も、また家での食事でしたが、その時は食事の後、彼女の行く銭湯に一緒に行き、帰りにワインを買って飲みました。お泊りしていくことを、お互いが理解しました。
 マサミさんにかなりリードして、導いてもらいながら、私は初めては告白していませんが、初体験は終わりました。たぶん、彼女は私が初めてではなかったと想像はしました。
 それからは週に二日ぐらいは、会って、会えば長く何回も愛し合うようになりました。
 休みの日、泊まると夜通し愛し合い、次の日も朝からなんていう時もありました。
 避妊はしていましたが、彼女に任せ、大丈夫だというときはつけずにしました。
 雑誌や本でいろいろアダルトな知識、マサミさんを悦ばせ、楽しむ方法を考えて実行しました。今だとネットで正しい知識が簡単に入手できますが、当時は難しい面もありました。
 回数を重ね、やり方を工夫するごとに、マサミさんはあられもなく大胆になり、とても悦んでくれました。
 いくらか経ったある時、生理が無くなったからすぐ来てと言われドキッとしましたが、ほどなく少し遅れて来たようでした。何だか、その時の私の反応が頼りなく、冷たく感じたと言われました。
 それ以来なのかその頃から、何となく私が会いに通う回数が減っていきました。彼女からは会えないのが不満で何度か電話や手紙は来ますが、部活や就活も始まりだす忙しい期間と重なり、何となく鬱陶しくなっていました。

 マサミさん自身、私なんかと遊んでいるよりも勉強優先にしないといけないのに、あの寸暇を惜しんで勉強をするか、睡眠をとっていた頃より、何か歯科医になる意欲が薄れているような感じでした。
 何週も会えない後、だいぶたって最初の就職内々定が決まった頃、お祝いを言われ簡単な食事をしただけで、もう会わないでおきましょうと言われ、振られました。結局、私が就職を決めた頃、マサミさんは京都にはいなくなっていたようで、行く先は全くわかりません。
 社会人になるとすっかり忘れてしまっていた思い出です。
 昭和の文化住宅は今はもうそこにはありません。

流星への願いと涙 悲劇の姫 子連れ中年が禁断の星空デートへ2 #コイバナ#星空デート#能恵姫#ラノベ#星に願い

 前回↓のつづきです。化粧品メーカーに勤めていた私は、大型モールのイベント準備が進行する中、家族の重篤な病状も進み、人生の激流の時期に突入します。その時、北日本の美しい女性と出会いました。

子連れ中年が禁断の星空デートへ? #コイバナ#星空デート#能恵姫#ラノベ – 天使の星座 (seizafpkotodama.com)

 【暗転する家庭】
 妻の病状は嫡出手術後、抗がん治療のサイクルを繰り返し、やっと回復してきたと思えば、別のところに影が見つかり、「転移」ということで極めて生存率が下がったステージを迎えました。
 長男の病気もまた、そんな状況でも容赦なく、難しい治療をしないといけない難病、家族状況を許してくれない厳しいお医者さんの言葉でした。何度か妻の実家からヘルプに来てもらいましたが、限界もあり、正直私も仕事に行くのにも、看病と長女の子育てに毎日疲れた時期でした。
 そんな中、Aモールのイベントはさまざまな困難を克服しながら回り出していました。モール内の派手な広告、デジタルサイネージの投入も、現場担当責任者主任の上芝氏能恵(かみしばうじ・のうえ)さんの協力で順調に進みました。彼女の信頼をもう一度メーカーとして失えば取り返しがつかないということで、何とか夜遅くとも、その時間だけは、長女や義母に無理を強いても仕事に費やしました。
 上芝氏能恵、呼ぶときはノエさんで、一度迷子になった私の娘を助けてくれています。
「ハルちゃん、お母さんいなくて、お父さんがこんなに遅くまで無理して大丈夫?」
「ノエさんこそ、毎日もっと遅いんでしょう。ウチのイベント無くても、ルーティンで深夜残業ばかりで、いくら若くても不規則だと身体に悪いですよ」
「私はね、もうこんな仕事だから慣れてる。気分転換に山登り、ハイキングに行くのよ。ハルちゃんも仕事ついでのドライブだけじゃなくどっかに連れて行ってあげなさい」
「これ、私作ったおかず、うちの総菜コーナーじゃないから、持って帰って、ハルちゃんと井上さん野菜不足やろから、食べて」
 それから時々、タッパーに入った煮物やらのオカズを持ち帰らせてくれました。

 入退院を繰り返す妻は私の実家に、自分が醜い身体になり家事もままならず足を引っ張るので離婚してくれて構わないと電話があったと聞いた。母は妻を諫めたと聞いたが、私もその話を聞き、絶対離婚しない、何があっても支えると妻を抱きしめました。妻は精神的にも落ち着かない時がありましたが、病めるときこそ支えるのが夫婦の誓いです。

 【星空デート?
 イベントが成功裏に終わったある日、ノエさんから、次の土日はオフなのでハイキングとキャンプに行くがメンバーの欠員ができたので、私とハルに是非来て欲しい、食材が余ると困るし、流星群が見れるからと強引に誘われました。
「井上さんと、ハルちゃんの気分転換になるしね。キャンプ用品はすべて用意してある。夜少し寒くなるから着替えと重ね着ぐらいだけでいい。クルマで迎えに行く」
 こういうところは言いだすと譲らない性格の人で押し切られました。
 噂によると、彼女は主任から一気に課長に昇進する内示を受けているとの話で、企業内でもやり手として女性幹部候補に挙がっているらしく、取引先としてもますます断れないパートナーになる存在でした。
 私と娘は朝、妻と長男の病院に見舞いに行き、取引先の付き合いで二人でキャンプに参加しに行く話をしておき、明日お土産を持て帰ると告げた。娘は自然大好き派で喜んでいたので、妻も快諾してはいました。
 仕事場と違い、派手めのメイクとワイルドで露出の多い衣装で現れたノエさんに驚かされました。特徴的な目蓋に見事に赤いアイシャドウを入れ、赤いタンクトップにシースルーのカーディガンをかけ、お腹と背中が丸見えの短いローライズのデニムには目を奪われそうでした。キャンプに行くアウトドアのアクティブさよりも明らかにセクシーな美を狙った感じがしました。
 そして、最初から確認はしていないことで、あえてツッコミもしなかったのですが、メンバーの欠員という表現はもう少し大勢のキャンプのイメージでした。参加のハードルを下げて実は最初から二人だけを誘ったのだとは思います。
「どう、ハルちゃん、今日の私キレイ?」
 娘もちょっと、リアクションに詰まりそうな感じです。子どもが見ても今日のノエさんはお姫様のような輝きだったようです。
 山道を飛ばしたせいか、娘が少しクルマ酔いをしました。
 ノエさんは、気功に詳しいらしくツボを推したり、いくつかストレッチをさせ、すぐに娘の気分を回復させてくれました。
「ごめんねハルちゃん、つい乱暴な運転しちゃった」
「ありがとう、ノエさん。すっきりした。もう、元気。今日のノエさんはとてもキレイ。ウチのお母さんよりキレイで、お父さんが変な気にならないか心配になってたよ。私もノエさんみたいなカッコいい大人になりたい」
 テントも今のモノは簡単にでき、娘も大喜びで手伝いました。確かに準備も万端でてきぱきと進み、楽しいキャンプにはなりましたが、ノエさんの後ろ姿はローライズは動けば動くほど、デニムのパンツがずり下がり、いわゆる半ケツ状態ヒップの谷間まで下がっていきます。目のやり場に困るというか、さすがに見るしかないというかくぎ付けになりました。
 BBQも盛り上がり、多少焦げた肉も美味しく食べました。
 高級そうなワインを傾け、ノエさんは耳元で囁くように語りました。
「いつもは一人か、同性のツレだしね。こんな派手なかっこ普段はさすがにしない」
「女一人で山歩きって危なくないですか?」
「大丈夫、あたし護身術、合気道やってるから、襲われた方が危ない。気を付けてね」
「そんな」
「あたし胸に全然自信なくて、下半身デブでお尻大きいしね。ちょっと、今日は勝負服に気合入れ過ぎた。山に慣れてるようで失敗、虫よけスプレー忘れて足刺されちゃうし、慣れないカッコはだめね」

願い星と能恵姫
 娘とノエさんは友達のようにいろんな話をしています。ノエさんは時々、神妙に聞き入り考え事をしているようです。
 しっかり、食べて片付けをして、空を見上げると、街中では味わえない満天の星で、8時を過ぎると流星群が見えだし、世紀の天体ショーが始まり出しました。
 これには3人とも大興奮でした。美しさにしばし見とれ、その後すぐに娘は必死に願い事を呟いています。
「あ、また流れた。自分のお願いが終わったら、ノエさん!ハルのお母さんと弟に病気が治るように願って!3人で何回も祈ったら、きっとかなうよ」
 何度も願いながら、娘は涙を流していました。
「ノエさん、今度ウチのお母さんにもツボ押しとマッサージしてあげてノエさん上手いからきっとお母さん元気にできるはずだ。お医者さんよりうまい」
「わかった。約束するよ。ハルちゃんもう遅いからね、子供はそろそろ寝よう」
 あまりにもよく流れる、輝く光のシャワーのような流星をさんざん見て、ようやく子供が眠たくなる時間になりました。いっしょにしばらく願っていたノエさんの目にも涙があふれていました。彼女がこんなに感情的になるとは意外なほどでした。
 娘が寝付く頃には、ノエさんのすすり泣きは激しくなり号泣のようになり、そっと背中を押して落ち着かせるしかなかったです。
「私、課長にはならない、もう会社は辞めるんです。お金もそんな偉い職階もなくてもいい。どうせ人間死ぬんだから、あんなに無理して働きたくない。もうどうでもいいの、私の人生なんて、どっかで野垂れ死ねばいい。
 私の名前、能恵姫って、この土地の伝説のお姫様からとってるらしいけど、親恨むたくなるほどとんでもない話なのよ。子どもの戯れで白蛇と結婚する約束をしたお姫様が、玉の輿に乗ろうとしたら、約束を破ったと龍に邪魔され、さらわれてしまい、水乞いの守護になるという伝説。
 男運なんて、ある訳ないってあきらめてた。20歳くらいで、カッコいい恋人と結婚する約束していたけど、交通事故で死んじゃった。それだけなら悲しいのは悲しいんだけど、その彼が死んでから分かった。とんでもない嘘つきで、あちこちに借金やらして、女にだらしなく結婚の約束も他でしてたり、子供も産ませてた。私はもうそれから、男なんて信じて愛するのイヤになって、今までずーっと仕事ばかりしてきた。
 私もでもね、ハルちゃんみたいな子供がいたらなあと思ったら泣けてきた。
 もうわかってるでしょう。私は勝手に勘違いしただけ、恨んではいない、私が馬鹿なだけだから、最初に会った時から、思い込んでいた。お母さんと弟がいなくなってお金がいるとかハルちゃんが言ってたことを誤解してね。ハルちゃんにはもうお母さんがいなくって、井上さんは奥さんに逃げられたバツイチだと思ってたの。
 奥さんがいて、闘病中だと知ってたら、誘いはしなかった。そんな不謹慎な誘いをするつもりは毛頭なかった。本当にごめん、申し訳ない」
 そっと、ノエさんの肩に手をかけた。
「こんな素晴らしい星空を見られて、誘っていただいた私も娘も感謝しかないです。私こそ謝らないといけない。イベントと家のこと以外に深く考えが及ばず、鈍感だったのです。好意に気付かなかった。でも仕事に利用するつもりじゃなかったです。まさか私みたいな中年の冴えない男とその子に、あなたのような人がそこまで好意を持ってくれているなんて想像できなかったんです」
「もう、最低よ、そう本当の最低、なんでよりによって、こんな平凡な草食系の男にコテンパンにフラれるなんてさあ、どうしてくれる。カッコ悪いし、きまり悪い笑うしかないよ」
「次の流れ星にノエさんが幸せになるよう祈ります」
「はいはい、そういうの一番うざい」
 ノエさんは、ワインをたっぷり二つのグラスに一つを私に勧め、いっぱい注ぎ、自分ががぶ飲みした。
「流れ星に乾杯、流れ星聞いてるか、ちゃんと願いかなえろ!」
 叫ぶとノエさんは、もう一度グラスにワインを手酌します。
 組み立ても比較的簡単だった4人ぐらい寝れるテントで間に子供を挟んで、3人は川の字にで寝ていた。いびきがうるさいし、何といっても大人の男女だから最初は遠慮していましたが娘という緩衝地帯があるし、広いのでテントに寝ることにしました。何と言っても寝ながら、透明な天井から星空まで見える今夜のもう一つのハイライトです。
「キレイでしょ、この天井、いくらお金だしてもこんな寝室買えない」
「本当に素晴らしいです」
「ずっと、この時間が続いたらと思うわ。でも時間は残酷、朝が来なければいいのに」
「酔ってなかったら、このまま朝まで星を見てたいですね)
「うん、でも飲みすぎたし、泣きすぎた。起きてるのはいいけど、寝顔をあんまり見ないでね、襲ってきたら投げ飛ばすしね」
「はい、もう寝ます」
 背中だけが少し痛く、大蛇か龍のような怪物に親子で襲われ、ローライズのノエさんが剣を持って戦い助けてくれる夢をみた。朝方、夢の中でか唇に柔らかいものが重なってくる感覚があった。
 少しすると、夜が明けノエさんがテントを出て、朝食の準備をしているのが分かった。さっきは娘が寝ぼけて乗っかってきたのだと思った。
 朝食も珈琲も、空気が美味しく絶品のように美味しかった。帰りの車ではノエさんは、これからいろいろ好きなことをやりながら横沢という雪の多い地元で、家業を手伝う話をしていた。
「Aモールより、ずっと小さいA系列のスーパーあるけど、それのおかげで商店街もすっかりシャッター通りになったのにね、そのスーパーももうすぐ撤退でね、レジ打ちのパートもできない、まあもうあの会社はいいけどね」
 別れ際やはり涙ぐんでいた。送ってもらい、家でシャワーを浴び終わると、娘が反省していた。
「私、昨日の夜ノエさん泣かしちゃったのかな。ノエさん好きだから、ずっと友達でいたいのにもう会えないのかな」
 それ以降、上芝氏能恵さんをAモールで見ることはありませんでした。


 【奇跡は起こるか
 妻の自宅療養というのも完治ではなく、むしろ最期が近づいての緩和期間の手前、当初の余命期間ではあと一か月を切っているときでした。
 妻は、万一の時の友人やらへの連絡、葬儀時の写真の選択まで話だし、娘に父と祖父母以外に頼れる親戚や何かと教えてくれる友人の話をしだす。これからの子供の中学、高校、大学の入学卒業、就職、結婚、孫、全てのライフイベントに立ち会えないことを謝り、悔しさをにじませてさめざめと泣いていた。妻との出会いからの思い出が走馬灯のように浮かびそうになった。娘が泣きながら駆け出し、外へ出た。
 雨の中、携帯電話をかけながら、どこかへ走っていった。
 なかなか帰ってこない娘は、何時間か後、雨に濡れた格好で上芝氏能恵さんを連れて戻ってきました。ノエさんは、メイクもせず薄い絹の作務衣か胴着のような上下を着て、Aモールの責任者時代とは全く違った慎ましい淑やかな印象でした。
「ハル?どなたなの。ああお父さんの知り合いの方」
「ノエさん、お父さんのお仕事の知り合いで、私のお友達」
「貴女ね、おかずのタッパーとかキャンプで何かと面倒見てくれた、そうこれから娘と夫のこと、お願いしたいと思ってお会いしたかったの」
「違うよ、お母さん、そんな意味じゃない、お父さんとノエさんはそんなのじゃないの。本当はノエさんすごく気まずくて、来るの辛かったはずだけど、私がお母さんを元気にしてもらうためにお願いしたのよ。私が車酔いした時、ノエさんがすぐ治してくれたの、あれならお母さんも良くなると思った。3人でお母さんの病気が治るように何度も流れ星にお願いしたから、お母さんは死ぬことなんて考えないでいいのよ」
 娘がこれだけはっきり言うことに大人3人も驚いた。ノエさんが凛とした感じで語り出した。
「上芝氏能恵と申します。ご主人には仕事で大変お世話になりました。実は私の父方は、合気道と気功の道場のようなものを田舎でやっていてます。上芝氏流整体術というものを心得ています。男の子には恵まれず、私が二十歳までに一通りは受け継いでいました。病はすべて、人間の『』から来るとも言われる通りです。少しだけ、お時間を頂き、私がハルちゃんに約束した通り、奥様の『弱気』を退散させ、『元気』を取り戻させます」
 ノエさんは、気功中は二人だけにして、見ないで欲しいと言い、私と娘は別室リビングで待った。何度か呻きや叫び、気合の声が聞こえた。何時間もかかったが、深夜になってノエさんは汗だくで疲れ切った表情で扉を開け出てきた。
「ハルちゃん、今の私にできることはみんなやった。お母さんの弱気を取り除き、瘴気(しょうき)をかなり吸い取ったわ。あとはお母さんの頑張り次第よ。お父さんと一緒に励ましてあげて」
 妻は顔色良く休んでいた。逆にただでさえ細いノエさんが青白く頬がこけたようになり、足元もおぼつかないほど、顔から生気が抜けていた。「元気」を全て移してしまったのではと思われた。
「ノエさん、ありがとう」
「井上さん、うまく言えないけど、たぶん瘴気がたまるのは、風水とか土地の気の流れに合っていない何かがあるの。もう井上さんは北日本で十分頑張ったから、できたら地元に帰してもらった方がいい。これは井上さんの因縁かもしれないし、北日本の持つ何かかもしれない。それも早くしないと、何かもっと大きな悪いことがおこるかもしれない。私を信じて、最後のお願いです」
 彼女は、それだけ言うのにもかなり息が上がり、たどたどしくなっていた。
 能恵姫が伝説の通り、龍の湖に帰ってしまうのか、そんな伝説を思い出すほど、上芝氏能恵の後ろ姿は儚く思えた。
「お父さん、ノエさん大丈夫かな」
 私は妻を娘に任せ、能恵さんを追いかけた。豪雨と落雷がかき消すように、行く手を阻んだ。稲妻が龍に見えた。

【奇跡 現代】
 2023年5月、私は娘の新居に荷物を運びこむ手伝いをしている。
 私は2010年転勤で関西に戻りました。その翌年2011年の3月には日本を揺るがす大災害が起こりましたが、個人的には次第に険しい運命は落ち着き、当時に比べれば平凡な日々で、双方の実家の親にも面倒をかけ子供もどんどん大きくなりました。
 子どもの頃、自分の家族が激流のような時期を過ごした娘も、今良縁を得て巣立とうとしています。
 めっきり会話の少なくなった父と娘だが、さすがに結婚となると感慨は深いです。
 ふと、小学生の時、よく父娘で北日本の大自然の中を遊んだことを思い出す。もう都会では見ることもない、満天の星空、あの時、娘は自分の幸せも流れ星に祈ったのだろうか、
「早く、片づけないと、食事の用意できてるって、お母さんからLINE来てるよ」

 そうあの夜から思えば、見違えるほど今はすっかり元気になった妻に尻に敷かれ疎んじられ、夫婦は幸せな倦怠期に入っています。
                        完