名作読者レビュー:松本清張「点と線」

 古典とか昔の名作を再読するのも滅多にないのですが、たまたま、気になった興味深い点がいくつかあり、文春文庫がキレイで読みやすそうに見えたのでイッキ読みしました。

 とにかく文章上手いし、面白いし、まあそれほど長くないのですが、あっという間でした。

 昭和32年連載開始で、映画化も含め、66歳の私が生まれる前、新幹線もできる前の時代の作品です。

 中学生ぐらいの時に、松本清張さんがわりとブームにもなってて、カッパ・ノベルス(新書判)を母が買ってて読んだのではと思います。内容はあんまり記憶にないのですが、同じキャラの刑事が出る「時間の習俗」も読んだかすかな記憶があり既読だと思います。

 福岡の香椎海岸で見つかった男女の服毒死体。官僚と水商売の女性の心中かと見られたものを地元刑事が、男性の財布に入っていた寝台特急の食堂車から、小さな疑惑を抱き、警視庁の若手刑事へと繋ぎ、精緻で堅牢な大きな壁が少しずつ、

 ネタバレ的に、有名なアリバイトリックが上っ面だけで語られて、交通インフラが進化した今では、古臭い印象だけ上書きされていました。

 いや、なかなか全てに面白いのです。

 アリバイそのものは、専門家の鮎川哲也らが貶したらしいですが、ストーリーとしてよくできています。

 堅牢なアリバイの壁が何重にも刑事に立ちはだかります。そして、犯行の背景が、社会的でもあり、また男女のドロドロした情念もありで、このあたりは鮎川哲也など全く及ばない力量です。

 警察小説的な展開で、最初の犯人の登場からは、あとは全て捜査する警察側からの視点で、倒叙もののような構成です。最後は警視庁と福岡の刑事の書簡だけで真相が明かされます。

 社会派と言われる官僚と癒着業者の不適切な関係、汚職が絡んでおり、時代も当時らしい男と女の情愛も描かれていました。

 その後、角川が横溝正史を掘り起こし、新本格の時代となり、おどろおどろしいミステリが復活して、なぜかリアルな社会派の松本清張はミステリ界でも少し隅に追いやられて行きました。どっこい清張はやはり優れた本格ミステリです。社会派というレッテルだけで読まず嫌いの友人がいて残念でした。

 今の時代とは相当捜査も違うのは仕方ないですが、探偵の発想や捜査の流れはその後の西村京太郎らに引き継がれる王道です。

 今ならメールでやり取りできる依頼を電報でやっているのが少し笑えますが、それが現代の科学捜査への依頼などと、スピード感覚的に変わらないです。

 警視庁の刑事がコーヒー好きで、東京でないと上手いコーヒーが飲めないというのも時代を感じさせます。寒冷前線という言葉が斬新だったとか、応接間に接待煙草が備えてあるのも、今の創作ではまず思いもつかないでしょう。

 難読な香椎(かしい)という地名、香椎海岸、香椎線香椎駅、西鉄香椎駅が重要な舞台となります。

 私にとっては最近の鉄道趣味として、ハイブリッド車両を導入し、自動運転を行う香椎線が頭に浮かぶのですが、もう一つの趣味の読書、ミステリの金字塔のような作品の聖地だったとは驚き、まさに点と線が繋がりました。

 ビートたけしが主演で2007年にテレビドラマ化はありましたが、映画化は、他の松本清張作品に比べ少なく、昭和33年に小林恒夫監督で一度きりです。完全な映像化は内容も時代も難しくなっているようです。

 脱線する蛇足ですが、ちなみに映画の主演、刑事役が抜擢で南廣さん、バンドや刑事ものも出られてますが、ウルトラセブンの終盤客演宇宙ステーションクラタ隊長や、マイティジャックの隊長で子供世代には著名な方。特撮繋がりでは、被害者の役人を演じた成瀬昌彦さんは、ウルトラシリーズ屈指の悪役俳優です。犯人役山形勲さんは時代劇や刑事ドラマの大物悪役が多いですが、ウルトラマンエースでも防衛軍のパワハラ上司でした。ここでも点が線に繋がりました。

 

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