秋の読書 書評「同志少女よ、敵を撃て」

同志少女よ、敵を撃て』小説家逢坂冬馬のデビュー作。第11回アガサクリスティーを受賞し第166回直木賞候補に挙がり、2022年本屋大賞。

 受賞以上に、ロシアのウクライナ侵攻の情勢と重なり大ベストセラーになりました。作品執筆当時がウクライナ侵攻は始まっていませんでした。
 元々、37歳の作家で、2015年にノーベル文学賞を受賞した、ベラルーシのスベトラーナ・アレクシェービッチさんの『戦争は女の顔をしていない』がベースになって、戦争体験は祖父からの伝聞だそうです。それにしても日本人は全く登場しないこの異国を舞台にした狙撃兵の女性部隊に話がここまで注目されるとは驚きだったでしょう。
 時代モノもそうですが、実際に外国の人間がこの状況でこういう心理で、行動でリアルなのかと疑い出すと私などは書く意欲がなくなります。

 太平洋戦争や英仏とドイツの西部戦線に比べ、その被害の大きさの割には日本では伝わることの少ない独ソ戦。
 その第二次世界大戦の独ソ戦が舞台の作品でしたが、現在の実際にウクライナ人やカザフ人の戦士もクルーとして登場し、ウクライナ情勢と重ねて考えると、とても重く、さまざまに考えさせられます。平和の大切さと、女性の権利やら人権、追いつめられた時の人間の弱さを思わずにはいられません。

 従軍慰安婦の問題なども、本当に薄っぺらいというのか、人間の本質を平和な時代から上から目線で見ているように感じます。戦争はもっとどす黒い、非常事態であり、人間の奥深い業が浮き彫りにされるのです。

 映画化されることはないでしょうが、ロシア人やウクライナ人はこういうのを読んでどう感じるのか、というかロシア人やまあイギリス人でも外国人が日本人だけ登場するの戦争を描いた小説なんてあるのだろうかと思います。

 登場人物の名前が長い割には読みやすい、ミステリ的にはタイトルの『敵』とは何かがテーマでしょう。

水墨画の世界を青春小説で 書評『線は,僕を描く』

 基本的に映画と小説は違うものだと思います、最近はこういう俳優がこの役でとか、作家が映画化をイメージして書いている場合もありますし。ノベライズに近いような作品もあります。

 しかし、視点人物が散漫な映画やドラマと比べ、小説は約束事がある程度あります。最近はミステリでも叙述トリックなど多元的な視点を加えているものもありますが、基本が主人公の方にとまった鳥の視点で描く小説の方が落ち着きますし、シンプルでフェアです。
 作者的神の、感受性もウンチクも全然オッケーで主人公の肩にとまって感受性と内面描写も情景描写も思うままです。

 出来過ぎというか、うまいこと行き過ぎの御都合もありますが、小気味よいテンポで、伝統的な世界が広がります。

 面白く読めます。それは間違いないですし、青春時代を謳歌するような大学生に戻れるようなスッキリの読後です。

 マンガにもなり、映画にもなり、さらにイケメンの横浜流星が主人公!?
 ちょっとカッコ良すぎです。傷ついたモラトリアムな若者を私は何となくイメージは若い頃の吉岡秀隆みたいに思って読んでいたのですが、流星くんも好演はしているそうですが、あんなにイケメンで資産もあるならモテるし何とかなるとヤッカミを覚えそうです。ツンデレのヒロインは「ちはやふる」のキャラと被る感じ清原果耶、まあそんなところかなとは思います。

 映画見る前に読んで欲しい感じの、本屋大賞3位入賞作です。

タイムスリップミステリ 書評「時空旅行の砂時計」

 読書と創作の秋なので、何冊か紹介していきます。

 方丈貴恵さん京大のミス研出身の2019年デビューでまだ新人と呼べる方です。

 題名通り、タイムスリップを扱ったミステリ。主人公が58年前の過去に戻って妻を助ける。2019年上梓の第29回鮎川哲也賞受賞作です。いわゆる設定ミステリ、SF的な条件の中での本格ミステリです。
 瀕死の妻のために謎の声に従い、2018年から1960年にタイムトラベルした主人公・加茂。妻の祖先・竜泉家の人々が殺害され、後に起こった土砂崩れで一族のほとんどが亡くなった「死野の惨劇」の真相を解明することが、彼女の命を救うことに繋がるという。タイムリミットは、土砂崩れがすべてを呑み込むまでの四日間。閉ざされた館の中で起こる不可能犯罪の真犯人を暴き、加茂は2018年に戻ることができるのかという内容です。

  ミステリなのでネタバレは避けます。

 私の書いているのはミステリではないですが、たまたま自分が書いていた小説と少し似ている部分があったので興味深く読みました。時間の流れを正したい者と、乱したい者の葛藤のようなところとエンディングも似ています。

 ただ個人的にはタイムパラドックスとかパラレルワールドというのはどうも好きではなく、せっかく時間をどうこうするのであれば、助けられないままのパラレルとか無数の選択肢の世界があるというのはは違うように私は思うのです。

 設定モノのミステリって、その設定についていけない人がいますが、少し我慢して追いつくととてもミステリの可能性は広がります。そういう意味では昔ミステリは古いとか限界と言われたものがまだまだ広がるような気がします。

沈黙のパレード 書評&映画評(ネタバレ注意)

意外と雨の日が多い秋なので、そんな日は読書と、お出かけにはミュージアムか映画に行きます。
 映像化と本ということで前の翡翠ちゃんに続き、今回は人気シリーズいわゆる福山雅治のガリレオ最新作、東野圭吾の「沈黙のパレード」を再読して劇場で映画も鑑賞。
 東野圭吾の本格ミステリ作家としてのピークは過ぎて、キムタクのマスカレードホテルシリーズとともに映像向けのキャラミス作家になっている気がしました。
 「容疑者Xの献身」は秀作でしたが、先にテレビで単発ドラマにした「禁断の魔術」と2019年ミステリランキング上位に入ったのこの映像化最新作は、ガリレオ湯川教授あってのキャラミスの域は出ないような、まあまあの出来です。それを言い出すとホームズや金田一でもキャラミスですが(笑)
 どちらが好きかというと映像化は難しいし一般には最近ウケナイ作品は多いですが、セミリタイアされた森博嗣の『犀川助教授』のシリーズが好きです。
 森博嗣が本当の理系ミステリで、今回と前作は、もはや湯川と草薙バディの熱き友情捜査ミステリです。科学の要素とかアリバイや物理トリック、一般の方には騙される?結末のミステリ要素はもちろんそれなり入っています。

 映画の印象としてが、その直前にテレビでスペシャルとして新作で「禁断の魔術」をやるなど興行、宣伝としてうまいです。
 しかし、湯川=福山雅治の印象が強すぎて、福ちゃんも老けたな、柴咲コウも落ち着いたなあ(トシ相応)というのがビジュアル的にはあります。小説の中では年を取らない名探偵が映像上は老いていくのが奇異、新鮮な印象です。北村一輝はそれほどでもと思いましたが、やはり昔の画と比べると経年を感じます。柴咲さんも、、
 他の俳優も音楽も良かったです。田口浩正さん熱演でしたし、檀れいさんや、ええにょぼ戸田菜穂さんも、吉田羊さんもみなさんキレイでいい味を出しています。椎名桔平、村上淳、岡山天音、飯尾和樹ら男性俳優もミステリにふさわしい感じの良い演技でした。そろそろネタバレというか、俳優の格で犯人がわかるかもですが、意外にそれを誤魔化すように端役に無駄な大物が使われているようなキャスティングがあります。地方都市の祭、商店街の人々の描き方も好きです。

 以下ネタバレ
 23年前の犯人を草薙が捕まえながら起訴できなかった少女殺しから、今回、3年前の祭の後失踪した街のアイドル的な歌手志望の少女が別の場所で焼死体で発見されます。そして容疑者は23年前と同じ人物で、遺恨の草薙になぜか湯川も偶然関わり出します。警察や司法の限界に悩む草薙も良く描かれています。
 やがて殺される容疑者に、名探偵や捜査側対善良な街の人々という構図ができます。この構図自体は、すでにいくつかのミステリやドラマで既出ですが、もちろんひねりはあり、結末は意外でもあり、偶然も重なって謎を深め、まあリアルな終局でした。
 しかし、ちょっと事件にいたる傷害(殺人だと本人は思いこむ)の動機が弱いというか、それで錯乱して殺したと思い込み、いくつか悪い偶然が重なるというのは、少し都合が良すぎるような印象です。

 動機としては少女が恋人の子供を妊娠して歌手を辞めたがっているのを、歌手を育てたいという音楽家夫の夢を実現したい妻では、あまりにも弱い。
 どろどろしても、ここは少女の妊娠の相手が音楽家であったという音楽家の妻の嫉妬による犯行か、恋人と結婚し音楽を辞めるという少女を暴行して音楽家が殺して妻が隠蔽に協力したかにならないと、最終的に凶悪犯は別にしても、それなり全部いい人になってしまって偶然が多すぎるのです。

 偶然の結果が、犯人も関係者も予想だにしない複雑や怪奇のミステリ要素になるのは島田荘司の論でもあり全然オッケーですが、それがあまりにご都合主義になるとリアルとは程遠くなる感じです。
 実際、今のミステリはパズラーとして、矛盾さえなければ動機など弱くても良いようですが、一方で動機や人間の友情や連帯を描いているだけに少し残念です。
 とはいえ冒頭に流れる夏祭りのジュピターをはじめ、音楽や映像は前作「真夏の方程式」に続き良い感じの映画でした。なぜ吉高由里子でなく柴咲コウかは、大人の事情で他で調べてください。
 興行的にはどうなのでしょうか、コアなファンは駆けつけるけれど、シリーズとしてテレビから見ていないとやはり面白くないところもあるのは残念です。渡辺いっけいが出ないのと、ガリレオの方程式を書きなぐって結論をまとめるルーティンはありません。

medium【メディウム】霊媒探偵 城塚翡翠 書評

今般、ドラマ化されるということで、ネタバレ注意です。相沢 沙呼 さんの代表作。

 相沢沙呼さんはティーン向けの、女性マジシャン主人公の『午前零時のサンドリヨン】に始まる酉乃初の事件簿シリーズから,比較的まだ寡作なので全作品読んでいます。
 メディウムは2019年の各社のミステリランキングトップを独占でした。

 好きな作家の小説の映像化は複雑なものもあります。作者自身は承諾し、商業的には当初から狙っていたとしても、見る側はイメージが違うという場合もあります。
 この作品の場合は、発表された主演の清原果耶さん、イメージ的にはぴったりの美人で演技力もありますが、【以下ネタバレ注意】犯人も含め〇〇トリック的部分どういう風に描くか、連ドラということで難しいところです。

 共演者 小芝風花さん、瀬戸康史さんも贅沢なキャスティングもったいないぐらいです。
 ネタバレ考えるとあまり書けない。
 今は、完全オリジナルでない限り、原作通りに描くと意外な展開も先にネットとかで広がってしまうジレンマが制作側にもあるでしょう。
 同じような探偵側が特殊能力を持つ女性主演のドラマとしては、前クールで同局であった「オクトー~感情捜査官 心野彩梨」がオリジナルで、なかなか面白かったです。
 助演的ポジションから、一気にブレイクしそうな飯豊まりえの主演、超アップでもかなりの美しさと悩ましさでした。原作ストーリーがドラマオリジナルを超えられるか、「メディウム」の出来も気がかりです。

30年以上前にもパ・リーグに激闘と激動があった

 オリックスが一昨日大激闘のシーズンを象徴するような、最終試合での優勝を争ったソフトバンクとお互いの逆転勝ちと逆転負けで優勝を決めました。

 オリックスの宮内オーナーも今年で退任されるということでした。1988年は10月近鉄がロッテとのダブルヘッダーで最後の引き分けで西武が優勝を手にし、近鉄が優勝を逸した激闘の10.19がありました。それと相前後して、名門球団の南海ホークスと阪急ブレーブスが劇的に身売りをしました。

 昨夜優勝した、オリックスバファローズはその年に現宮内オーナーのオリエントリース改めオリックスが阪急ブレーブスを買収したものに、その後2004年球界再編で混乱した原因となった近鉄バファローズをの営業譲渡を事実上合併してオリックスバッファローズとなったものです。優勝を争ったソフトバンクホークスはこの年南海ホークスを買収したダイエーホークスがダイエーの本体の不振で台頭した携帯電話会社が買い取ったものです。
 宮内義彦さんも当時まだ50代で、球界では老舗球団からは新参者として苦労もされたはずです。

 私は子供の頃から、関西のひねくれもので阪神ではなく、実家沿線の阪急でもなく。近鉄バファローズのファンでした。
 当時今のネット配信も、BS放送もなく、せいぜいラジオで放送があれば垂涎ものでした。あとは巨人戦などの途中経過を待ち遠しく一喜一憂していました。今は試合の経過など、ネットですぐリアルタイムで速報されますが、昔は本当に情報は遅く貴重でした。

 マイナーな消滅近鉄球団の、さらに短い時期仰木監督の時期がムックになるのも現代ならではです。オリックスの中嶋監督はオリックス時代の仰木彬の戦術を思い出させる奇策、奇襲を持っています。

 2004年に消えた近鉄球団最後の生き残り現役だった現ヤクルトの坂口選手も今年限りで引退して、ますます近鉄の痕跡は人々の脳裏から消えそうですが、一部のマニアの中に本や記憶はいつまでも残ります。

 1988年はバブル崩壊の前で、まだまだ今は衰退した企業もバリバリでしたが、阪急や南海。近鉄は今のように真面目に球団経営もできず、手放してしまいました。
 近鉄を飛び出した野茂英雄がメジャーへのパイオニアとなり、大谷翔平のような新世代を産むきっかけにもなりました。そして日本の野球も、村上や佐々木が登場し、遠くへ飛ばすパワーのある打者と、150キロを超える速球や強い変化球主体の投手の時代へ、大きく変わりつつあります。

速読、倍速でタイパを稼いでる人が増えた

 アンチョコやダイジェストで勉強や読書はいけないと言われていました。オンラインでのビデオの授業や映画さえ倍速で見て、バイトや遊びの時間を稼ぐのが今の学生のようです。
 映画を倍速で見るなどクリエーター側からしたら嘆かわしいことですが、私は読書は速読で楽しんでいました。本当に面白そうな作品はゆっくり味わうこともありますが、一カ所にゆっくりたたずむのがもったいないという性格なので、次のことを始めるのです。
私の好きなミステリの読書なども、パズラー小説のパズルが解け、TRICKも犯人も分かれば速度があがります。ホラー要素や、ご当地キャラなどは面白ければそこだけ楽しめば良いのです。それで年間100冊ほど速読すると、そのことが知識に繋がります。
 クリエーター側にとっても、作品の宣伝のため予告編やダイジェストがあるとすれば、倍速で見て面白ければ、有料でゆっくり見るという商売もありなのでしょう。

 そして、勉強や仕事はどうでもいいような時間はできるだけ、端折って1.5倍でも倍速で済まします。そして大事なところ、どうしてもやることをやり、集中してあとの時間に備え、楽しめる人は器用に人生生き抜けると思います。

伊藤淳二と稲盛和夫 日航改革二人の明暗

 JALの改革と言えば先日亡くなった稲盛和夫元京セラ会長、創業者が想起されます。
 しかし日航機墜落事件を受け、昭和61年当時の中曽根政権の依頼を受けて、事故の原因究明からその構造を改革する役割を任されて、白羽の矢が立ったのは鐘紡会長の伊藤淳二でした。
 日航の経営破綻で稲盛さんが社長になる25年前です。鐘紡の労使調整や経営再建の実績を評価された伊藤淳二氏も、野心家の辣腕経営者で城山三郎の『役員室午後三時』のモデルとなった、戦後の若き改革型経営者の代表とみられていました。
 しかし、日航の労使問題は複雑怪奇で、さまざまな魑魅魍魎、百鬼夜行のような妨害にあい1年足らずで挫折、更迭されるハメになりました。山崎豊子の『沈まぬ太陽』にも、その経緯や伊藤のモデルのような人物はやや美化され描かれています。
 その後の鐘紡の迷走、破綻から、伊藤の評価は下がり、今やイトウジュンジで検索してもホラー漫画家が出てくるぐらいです。実は稲盛さんの10歳年上で、100歳でご存命なのですが、野心家で自社株も多く抑え、若い頃はCMモデルなどとも浮名があったギラギラした点は稲盛さんとは大違いでした。
 経営の評価は下っていますが、日航の課題を上げた点は大筋でその後の稲盛さんの方針と大きくは変わりません。経営者の明暗は時代なのか、どこかにあったのでしょう。

追悼 稲盛和夫氏 ビジネスマン時代の心の師

 私の後輩にD君という、けっこうイケメンだがどこか冷めたところのある社員がいて年は離れているが結構ウマがあいました。よく呑み歩いたり議論もかわし、アドバイスもしました。
 性格的に似ているので同じようなパターンでつまずくので、よく相談にものりました。他の後輩もたまに薦めたが、稲盛会長の本は優秀だが斜に構えたようなタイプの人がスランプに落ちた時に、熱く自分を奮い立たせることができる本だと思っています。

 私自身は若い頃、とても稲盛さんの京セラに入っていたらついていけないような、ダメ社員だったと思います。1982年くらいの京セラの噂はリクルートしている学生にも耳に入っていました。今の自分が思えば、そこで稲盛さんに出会い心酔していれば人生変わったかもしれないので、そういう選択もありかなという気がしないでもありませんが、やはり無理でしょう。

 私とD君もそこまでは熱くなれないという感想を共有しつつ、やはり自分の甘さやらネガティブな感情を稲盛流なら克服できることは感じ取りました。
 それでもなおかつ、ミステリ作家森博嗣の気楽に生きるようなエッセイもいいなという感じで共有していました。人間適度に熱くなり、ときどきは気楽に生きるのが一番のようにも思いました。

 歴史を見て、今の境遇に甘えないで少し冷静に自分を見て足りないところを補う、最低限のところは、私と後輩D君は学べたと思います。

 稲盛さんは一時民主党を支持されていて、政権交代後に失望されて政治とは距離を置かれていました。それでも政府に乞われJALの再建に白羽の矢が立ち、冷静でかつ熱い稲盛さんに重要な経営再建を遂行しました。まさに適任でした。
 90歳での大往生、心よりご冥福を祈ります。

朝日新聞の歴史にない、昭和17年に「幻の甲子園」大会がありました。

 昭和17年、朝日新聞主催ではなく、国、軍の意向を受けて文部省が主催する幻の「夏の甲子園大会」がありました。朝日新聞社の記録では昭和16年から5年間甲子園大会は中止とされています。「選士(選手ではない)交代禁止」「死球をよけるのも禁止」「延長無制限」 日本語によるジャッジ  準決勝、決勝がダブルヘッダーなど、今の高校野球の連投禁止のため予備日をおき、球数制限をする時代からは考えられない過酷なレギュレーションでした。

 80年近くたち、関係者もほとんど鬼籍に入ってしまったため、知る人もいないこの幻の大会を、あるいは開催するため、あるいは出場するため、必死で奔走し、鍛え、戦い、戦争と言う逃れがたい運命に必死に抗う様が、実にしっかり、細かに描かれています。

  参加すべての高校の対戦とその後の戦中、戦後への生命の慟哭ともいうべきエピソードが語られます。
  夏の優勝旗を持ったまま戦争に入ってしまった海草中(和歌山)。エース富樫を擁し、大会がないながらも甲子園を狙う平安(京都)。猛将稲原幸雄の下、当時は「北高南低」だった四国勢で、初の徳島からの代表入り、さらには全国制覇を狙う徳島商業(徳島)。東の雄水戸商業、西の強豪広島商業、松山商業、最後の外地代表台北一中・・・。
 日本の外地としてはかつて、台湾や朝鮮、満州からも甲子園大会に参加していましたが、すでに朝鮮や満州は野球部の活動を停止、移動もままならなかったとされます。
 優勝旗すらなく賞状だけでも勝利を目指し命掛けて駆け巡る若者。この大会を制したのは・・・?猛暑の日のダブルヘッダー2試合め、決勝戦に臨んだエースは満身創痍、肩や腰に痛み止めの注射をち続けていました。
 短く報われない夏を終えた球児たちのその後、関わった人の話は涙を禁じ得ません。