「柔よく剛を制す」日本人がスポーツに求めたもの

 日本には「柔よく剛を制す」「判官びいき」と言う言葉があり、強い敵に対して、劣る戦略、不利な状況から作戦を駆使したり、気合で勝つのが好まれます。

 少人数で大敵を翻弄した楠木正成公などは、太平洋戦争の際、戦中の日本が物量に勝るアメリカに立ち向かう時必ず好例に挙げられました。

 まさに判官びいきの語源源義経も、体格で勝る弁慶を翻弄した牛若丸の姿、その後兄頼朝に冷遇された悲運への同情もあり、日本人の感性に訴え、人気があります。

 桶狭間の戦いで、小人数で大群の今川義元を討った織田信長や、大坂の陣で圧倒的に有利な徳川家康を最後まで苦しめた真田幸村なども、やはり根強い人気があります。

 明治の開国以来、文明の格差や体格の違いは日本人にはコンプレックスではあったので、欧米列強に追いつけ追い越せと必死に頑張りました。

 いくつかのニッチな分野では、日本の技術は世界的にも優れたものに育ち、戦後高度経済成長により、有数の経済大国となりました。

 食生活は改善され、体格は随分良くなりましたが、戦後の長い間は、それでも欧米人との体力差はまだありました。

 陸上競技など、基礎体力ではまだまだ欧米人にかなわず、ニッチな球技、持久力の勝負になるマラソンで善戦する程度でした。こちらもアフリカ勢には勝てませんでした。

 ボクシングや重量級上げで、世界タイトルを狙えるのは軽量級でしたし、お家芸の柔道でさえ重量級では外国人に苦戦しはじめました。

 戦後の復興時期に、日本人のコンプレックスを払拭し、勇気を与えたのが、プロレスの力道山です。

 彼こそ、牛若丸宜しく、大柄な外国人レスラーから八面六臂の活躍で、当時放送され始めたテレビ中継で国民的人気となりました。

 小さな力道山が、巨漢のアメリカ人に反則までされて苦戦するが、最後は伝家の宝刀空手チョップで、スカッと逆転で勝つという試合に日本国民が酔いしれました。

 今、プロレスの裏側もある程度明らかになっており、アングルとも業界用語でいわれるヤラセ、筋書きがあったのは誰もが知っているでしょう。

 そんなに日本人が世界タイトルを取り、世界の、強豪を集めたリーグ戦で優勝するなど、他のスポーツではそうそうはあり得ないことでした。

 それでも、真剣勝負らしく真面目くさってやっていて、国民みんなが騙されていたのです。

 当時の国民のリテラシーが低かったのか?過去の結果を知る現代だからそう思えるので、現代もまた未来から見ては大衆は扇動されやすく、たやすく洗脳でき、迎合したがるものです。「推し」という言葉で、収入の多くを娯楽につぎ込む人も増えて、スポーツビジネスといわれる興行も昔以上にスケールが大きくなりました。

 プロレスだって、毎日のように巡業していたら、手抜きの日もあれば、ガチで喧嘩になるケースもありました。

 大相撲は、プロレス以上に興行色が強く、以前は毎場所毎週のように無気力相撲や八百長が週刊誌に取り上げられていました。それでも日本人の小兵力士が大きな外国人力士に善戦するのは未だに盛り上がります。

 プロ野球も永久追放など厳しい処分は謳われていますが、逆に言えばそれだけ忖度も多い競技です。公式戦で引退試合も行われます。チーム数が少ないので、優勝争いやタイトル争いの終盤は、直接関係のないチームの意思一つで結果が決まりますから、優勝やタイトルの決定はファンが思うほど、ギリギリに決まってる訳ではありません。人気球団や人気選手は、大きなアクシデントがない限り興行的に優遇されています。

 プロの格闘技やスポーツは、ピュアに真剣勝負かと言うと、程度の差こそあれ興行なのです。少なくとも、潰し合いや殺し合いではもちろんありませんし、忖度は当然あります。

 大きなマネーが動く興行ですから、完全なシナリオ通りには行かなくとも、こういう場合は相手をリスペクトするという暗黙の了解はあります。

 力道山の時代から、変わってきたのは、その体格が良くなったので、外国人との明確な体力差ではなくなってきました。

 グローバル社会で海外の情報も早くリアルタイムで正確に、入るようななったことでしょう。

 お金の力で動くのが興行です。かつては野球では大リーグ、サッカーだとヨーロッパのプロリーグで日本人選手など歯牙にもかからず出場しただけで大ニュースでした。オオタニさんのニュースや中継が毎日というのは隔世の感です。

 その大谷翔平が、技術もですが、体格もパワーも外国人に勝ってるのが、また驚きです。

 日本人の感覚も、体格的コンプレックスが薄まってきたのは感じられます。ナショナリズム や判官びいき的感性も変化してきているのでしょうか。

 今は、ビジネス的にも日本が大きな市場になってだけでなく、日本人の出場はビジネス、興行的にも保証されているのです。

 WBCの決勝ラウンドはもちろんですが、昔は出場が危ぶまれたサッカーのワールドカップ本大会も、あれだけ放映権料を払っている日本代表が出られないというケースはありえません。

 WBCでベネズエラにパワー負けした時、もっとパワーをつけてホームランを打てるようにすべきという人と、やはり日本人はバントや守備を固めたスモールベースボールだという人とに別れました。

 大谷翔平のような体格とパワーで勝る選手がどんどん出ないとと思える人が増えてきて、だんだん日本人の中に「判官びいき」派は減っているように思えます。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です