
ミステリ界の重鎮、新本格の創始者である島田荘司もすっかり老いて、古希を迎えられ、元々それほど量産型の人ではなく、年一ぐらいに分厚い長編力作を出していたイメージではありますが、このところすっかり間隔は開いて、ランキングも圏外が多く、これは3年ぶりぐらいの、御手洗シリーズの長編です。
時代が違うとか、時間の経過が異様に遅いキャラミスなどのシリーズが多い中、御手洗ものは、ほぼ現実に近い時間と同時進行、リアルタイムで語り手と探偵たちが年齢を重ねているようです。
ワトソン役の石岡氏が、出ずっぱりの冒険噺ですが、70歳設定になり、かつては恋愛対象か微妙な女性にどぎまぎするとかありました。今回も若い女性に事件に引っ張り込まれますが、恋愛や親子どころか、孫のような年齢差が痛々しく描かれます。リアル進行の時間だと、かつて若かった女性キャラも40歳や50過ぎとかになってしまいます。このあたり忠実なのは、好感です。いつまでも老けない設定のため、同年齢時に事件が頻発すると、一度小学生に戻ってもとうに、成人してそうなコナンみたいになってしまいます。
肝心の御手洗探偵は最後に出ますが、こちらはそう年齢を感じさせない、快刀乱麻ですが、もうトリックというよりは政治・社会問題的な方を描きたかったのでしょう。
冒頭から石岡氏の70年代学生運動の回想なども、長い年月をしみじみ感じさせます。
【ネタバレ】
謎に関しては読んでいると想像がつき、考え及ばないのは石岡氏だけじゃないかと少しイラつくぐらいのわかりやすい謎です。しかも、龍神という怪物の正体も初期の別シリーズや最近の上下巻の長編とかぶります。
視点と時代が彼方にいくのは増山実という放送作家の書いた「勇者たちへの伝言 いつの日か来た道」を思い出しました。こちらはプロ野球のオールドファン向けのファンタジーかと思うと、この問題を取り上げていて、すっかり騙されました。

あの国の方の拉致や工作員を問題にすると、スパイ的になり、ミステリも重い社会派的なものになりどうしても後味は良くないのです。
そこを「伊根の龍神」は、いいところをかっさらう狙撃の達人と、御手洗と石岡の高齢コンビの掛け合いの軽快さで最後をうまく終えています。
そろそろ、絶筆、最後の事件になるかとも心配します。ミステリとしてのトリックはほぼなく、立ち上がる龍神や、飛ばされた自動車の物理的な謎説きと、叙述面の仕掛けぐらいです。
