書評:有栖川有栖「日本扇の謎」

 同い年ですから、もう社会に出た人が全て、大ベテランなのは当たりまえなのですが、改めて時の流れを感じます。
 同窓の上原くんこと有栖川有栖氏もすっかり大御所中の大御所となりました。1959年4月生まれ大阪出身の同志社大学法学部卒、当時の推理小説研究会メンバーです。
 少しじっくり目に読んだ最新作です。相変わらず、ロジックに拘ったトリックと魅力的な謎の提供、京都府舞台ということです。舞鶴から、京都の洛北というのと、「作家アリス、火村准教授シリーズ」もご当地、キャラミス的に読まれる方もいそうですが、バリバリ論理の新本格(もはや「新)が死語的)です。
 【amazonなどの紹介文】
舞鶴の海辺の町で発見された、記憶喪失の青年。名前も、出身地も何もかも思い出せない彼の身元を辿る手がかりは、唯一持っていた一本の「扇」だった……。そして舞台は京都市内へうつり、謎の青年の周囲で不可解な密室殺人が発生する。事件とともに忽然と姿を消した彼に疑念が向けられるが……。動機も犯行方法も不明の難事件に、火村英生と有栖川有栖が捜査に乗り出す!


以下ネタバレの無い程度に、

 人物をある程度描きながらも、徹底的に可能性だけを理詰めでいきますから、話としては突飛すぎもしませんし、前半はやや退屈です。結末も少し昏いのが、読後感で、個人的には「なるほど」ぐらいで、「やられた」という爽やかな感じはしません。


 著者は大学時代には知らないのですが、私の勤めた企業のM&A親会社に、研修で出会ったトレーナーが彼の先輩で、探偵役の「火村」「江神」のモデルの一人とされ、初期作品のいくつかのトリックに関わっているという話を偶然聞きました。グローバルに活躍された企業人で、同窓のミステリ好きということで、たまたま話していると「有栖川有栖とタメ」「オレ、あいつの親友で、アドバイザーやった」ということで盛り上がりました。
 ミステリ界では、大物、大御所ですが、初期クイーンへの拘りが強くて、一般の方にはやはり好みが別れるところかもしれません。作中のアリス、火村の時間の経過はやや緩やかで還暦のような感じはないですが。コロナの話が出たりで正確な時代やらは検証していません。

 国名シリーズというタイトルの話が冒頭に出てきますが、松本清張さんのタイトルが抽象的というのは、なるほどと思いました。

書評:小林泰三「未来からの脱出」

 リーダビリティに優れたSF(ミステリ)でした。
 高齢者施設で生活する老人の痴呆か集団記憶喪失か壮大な陰謀?はたまた妄想?にとりつかれた老人達の大脱出劇なのか。
 SFファンにはうれし懐かしロボット三原則や、今の着目されるGPT,AIによる超管理社会…といったSFモノではよく見かける材料を上手く調理して謎解きに使っている印象でした。

 それにしても今のAIって3原則真面目に守るのか、そうでないとアンドロイドが叛旗を翻して人類を襲うキャシャーンみたいな世界になるか。
 AIがもう20世紀末から、チェスの王者を脅かし、今やクイズだろうが以後、将棋だろうがAIの方が上の時代です。
 藤井聡太だ、大谷翔平だといってても、やがてそれをはるかにしのぐ頭脳と体力を持った改造人間やアンドロイドが、席巻する時代が来ないとも限りません。オリンピックなども、今は人種や国籍、性別がとかいっているけれど、やがて倫理を上手く超えて、改造能力を持った人間でなければメダルを取れない時代になるでしょう。
 というか今、国威掲揚のためには、身体能力の高い外国人を帰化させて、オリンピックやワールドカップに出場させています。国内スポーツでも越境や養子縁組国籍獲得もザラ、もちろん法律は守られていても、問題と思えるケースも多いように思います。

 そんな中で、AI側、開発側の倫理が守られないと、近未来は人口も減って、この話のように恐ろしいことになりそうです。

ナツイチどくしょ

 紙文化をビジネスや公務では淘汰されるところに関わりながらも。読書に関しては、未だに紙主体です。
 しかも、昔ながらの文庫などで小説を読むのが好きです。さすがに単価高騰で一時よりは時代の流れで電子書籍も読みますし、図書館も利用します。amazonで取り寄せ、ヤフオクで古本も買いますがやはり本屋をブラッとするのが好きです。
 文庫本も随分高くなり、昔の新刊のハードカバーと変わらないくらいの1000円超えもザラです。
 そんなもの好き以外誰が買い、読むのかという、文庫を紹介する小冊子が毎年シーズンごとに並びます。新旧の出版社推しがまとめられ、これもなかなか面白くフリーなので手にして持ちかえります。
 カドカワ、新潮。集英社、まあ老舗とも言える大手が揃い、今は文庫の出版社の数だけが増えて、大型書店では棚も増えました。あとは岩波、講談社、中公ぐらいで、マニア向けにハヤカワ、創元がありました。宝島、祥伝社とかは昔なかった新参です。ホラーとか時代とか専門も文庫もあります。

 海外ミステリ、SFの廉価版、文庫本といえばハヤカワもしくは東京創元社でした。
 国内の作家もSFなどはハヤカワのマガジンから掲載スタートで出版という流れがありました。創元もミステリの若手登竜門で本格はじめジャンルを広げていました。
 それでも、出版不況で、書籍離れの時代です。直木賞だとか、このミス、SF大賞とかでも売れる部数はしれていますし。それ以外の作家の部数は厳しいものです。
 個人経営の商店街などの本屋さんは激減する中、出版社も結構潰れています。それでも、かつて大都市の繁華街の書店でも、十分展開もできず、ロジスティックも弱かったハヤカワや創元が未だに続いているのには驚きまます。
 比べるのも変ですが、赤字ローカル線や、赤字のスナックならとっくに破産、撤退、解散してそうです。

 いびつな出版文化ですが、電子書籍が広がりつつも、元から小説を読もうなんて人が古臭い保守の人間が多いので、しばらくは延命しそうなので、今のうちに楽しみましょう。

ナツイチどくしょ

 紙文化をビジネスや公務では淘汰されるところに関わりながらも。読書に関しては、未だに紙主体です。
 しかも、昔ながらの文庫などで小説を読むのが好きです。さすがに単価高騰で一時よりは時代の流れで電子書籍も読みますし、図書館も利用します。amazonで取り寄せ、ヤフオクで古本も買いますがやはり本屋をブラッとするのが好きです。
 文庫本も随分高くなり、昔の新刊のハードカバーと変わらないくらいの1000円超えもザラです。
 そんなもの好き以外誰が買い、読むのかという、文庫を紹介する小冊子が毎年シーズンごとに並びます。新旧の出版社推しがまとめられ、これもなかなか面白くフリーなので手にして持ちかえります。
 カドカワ、新潮。集英社、まあ老舗とも言える大手が揃い、今は文庫の出版社の数だけが増えて、大型書店では棚も増えました。あとは岩波、講談社、中公ぐらいで、マニア向けにハヤカワ、創元がありました。宝島、祥伝社とかは昔なかった新参です。ホラーとか時代とか専門も文庫もあります。

 海外ミステリ、SFの廉価版、文庫本といえばハヤカワもしくは東京創元社でした。
 国内の作家もSFなどはハヤカワのマガジンから掲載スタートで出版という流れがありました。創元もミステリの若手登竜門で本格はじめジャンルを広げていました。
 それでも、出版不況で、書籍離れの時代です。直木賞だとか、このミス、SF大賞とかでも売れる部数はしれていますし。それ以外の作家の部数は厳しいものです。
 個人経営の商店街などの本屋さんは激減する中、出版社も結構潰れています。それでも、かつて大都市の繁華街の書店でも、十分展開もできず、ロジスティックも弱かったハヤカワや創元が未だに続いているのには驚きまます。
 比べるのも変ですが、赤字ローカル線や、赤字のスナックならとっくに破産、撤退、解散してそうです。

 いびつな出版文化ですが、電子書籍が広がりつつも、元から小説を読もうなんて人が古臭い保守の人間が多いので、しばらくは延命しそうなので、今のうちに楽しみましょう。

読書レビュー:小川哲「地図と拳」

 18章、640ページにもわたり200近い参考文献の力作。それでいて時系列が鮮やかに進み読みやすい。日露戦争後から第二次世界大戦までの満州を中心とした何人もの人物が交錯する群像劇という感じの歴史小説ですね。重厚に見えて、イッキに読めるところはあります。
 「君は満洲という白紙の地図に、夢を書きこむ」
 招集、憲兵、銃撃戦など戦争の色がどんどん濃くなる時代、読む側も夢のような大義名分の後に悲劇の結末はある程度予想できるだけにせつなさもあるものの、そこに生きる群像をリアルに描く、才能には感嘆します。
 「地図と拳」の題名も少し、暗号か判じ物みたいですが。建築家と戦争地勢学者の登場刃部を軸に、歴史の必然のような物語を見事に紡いでいます。

【あらすじ】amazon
 日本からの密偵に帯同し、通訳として満洲に渡った細川。ロシアの鉄道網拡大のために派遣された神父クラスニコフ。叔父にだまされ不毛の土地へと移住した孫悟空。地図に描かれた存在しない島を探し、海を渡った須野……。奉天の東にある〈李家鎮〉へと呼び寄せられた男たち。「燃える土」をめぐり、殺戮の半世紀を生きる。ひとつの都市が現われ、そして消えた。
日露戦争前夜から第2次大戦までの半世紀、満洲の名もない都市で繰り広げられる知略と殺戮。

 著者は他にもアジアの歴史を題材にした作品もあり、クイズやゲームの裏側も描くなど、そのジャンルはSFとミステリ、歴史いずれにもまたがる鬼才です。同一作品がこのミス、SF大賞候補に上げられ、直木賞、山田風太郎賞まで受賞しちゃうという、読み手によってジャンルが分かれるような作品です。

あこがれたヒーローたちの老い

 現代はストイックな管理とたゆまぬ努力、そしてビジュアルもそなえたアスリート、イチローや大谷はメジャーリーグで記録を乗り換える時代です。
 40年ほどまえのヒーローたちは、ハングリーから、やんちゃな成り上がり、はみ出した叩き上げの人間が多かったです。
 そんな昭和の子供時代に憧れた、ヒーローたち。アスリートやアーティストなんてこじゃれた呼び名も無かったです。
 歌謡曲、フォークソングなどの歌手、ドラマや映画の俳優、野球や相撲、プロレスの名手、強者、、、昭和の子供が憧れたヒーローは時代を経て確実に老い、鬼籍に入る人も増えました。
 野球だと指導者や解説者になり、やがて活舌が悪くなったのかテレビの出番が減ったと思えば、長嶋さん、張本も江夏もクロマティまで車いすの姿で、現役を時代を知る者に少し衝撃を与えました。
 元気ならば、訃報よりも良いのですが、若き現役時代の颯爽とした姿を想うと痛々しく寂しくなるものです。
 
 関西ではアンチ巨人の阪神ファンも多く、双方とも江夏のふてぶてしさは強烈な印象でした。私はパリーグの近鉄ファンで、広島時代に日本シリーズで痛い目に遇いました。

【燃えよ左腕 江夏豊 この本の梗概】中学では「やんちゃな少年同士の決闘が日常茶飯事」で、高校からは「弱い球団で巨人など強い者を倒すことを生きがい」にし、「三振か四球か」ノーコンでカーブもほうれぬままドラフト1位で阪神入団。契約金は「800万円の札束を見てみたかった」と一括現金でもらい、プロに入ると「勝っては繁華街に繰り出し、毎晩お祭り騒ぎ」「もらったらもらった分使って、人よりいいものを食べ、いい服を着て、いい女性と付き合う。これぞプロ野球選手ではないか」。奪三振記録は「取るなら王(貞治)さんしかない」と実行し、甲子園伝統の一戦、巨人・阪神戦では逃げずに真っ向勝負。縦ジマのエースは“最強の敵役”として巨人ファンをも魅了した。南海移籍後は、野村克也監督に「野球界にいっぺん、革命を起こしてみろよ」と言われ、意気に感じてストッパーに転向、これが広島移籍後にあの「江夏の21球」につながったのか。日本ハム移籍後は、複雑な家庭環境で育ったがゆえに大沢啓二監督に「父」を見て奮闘。最後は大リーグに挑戦し引退しました。野球のロマンを追い求め、独得の美学をつらぬき通す男の履歴書。


 今はレールも決まっている感じでこういう人は詣でてこないかな。

 そういう意味では相撲やプロレスは短命なのかと思います。俳優さんは、個人さはあるけどまだ、少し長生きな人もおられます。

 別のジャンルで子供の憧れ(特に男の子)だったのが特撮ヒーローです。昨年3月「帰ってきたウルトラマン」の俳優団次郎さんは亡くなりましたが、初代マン黒部進やセブン森次晃司、仮面ライダー1号藤岡弘、から2号佐々木剛V3宮内洋までのレジェンド俳優は健在です。かなりくたびれた姿でも精いっぱい、変身ポーズをとったりされています。


 今よりは時代を彩るスターやヒーローの数は少なく、多様化しないため誰も知って憧れていた時代。もう少し我々もみんなも頑張ろうと思います。

読書レビュー:坂本貴志「ほんとうの定年後」       高齢者の生き方、働き方

 帯の煽りが良いのか結構売れた本のようです。内容は、良く細かいところも調べてはいます。

 60歳の還暦、定年にジンと来ていたのもつかの間、あっという間に後輩たちも還暦を迎える報を受け、次は雇用延長も終了?の企業が増える65歳を迎えようというのが私たちのの世代です。
 学校を卒業してから勤めだし、定年延長まで働いた人は確かに大きなターニングポイントになる65歳ですし、体力的にも自営業などの方もそろそろ事業を継承や引退を考える時期です。そういう世代、あるいはその手前の方、もう過ぎている方にも大いに参考になる、働き方、生き方の本です。
 この本は1985年生まれのエコノミスト、アナリストによるもので、こまめに分析されています。他の方のレビューでも見かけましたが、やや男性目線の話が多いと指摘されています。しかし現在の高齢者がかつて「男は仕事、女は家庭」が主流だった時代を生きてきている関係もあるである程度仕方のないところでしょう。
 あと10年もすると、専業主婦の割合は増えだし、今の若い人が高齢になった時は世帯の年金や働き方としては男女がかなり似かよってきます。

 ルポ、体験談などは自分も経験してるし、見聞きしているのでそう目新しいものばかりではないですが、統計値を見ての論説にはうなるものがいくつかありました。
 形はどうあれ70代でも働いている人の割合が半分近いのには驚きました。裏を返せば半分ぐらいは働いていないのです。年金や家族の扶養、貯金の食いつぶしで生活しているということです。ごく当たり前のことですが、なるほどそういう割合なのかと思います。
 
 70歳をすぎて、ゆとりのためならいざ知らず、生活費のために働かざるを得ないのも厳しいなあとも感じていましたが、働かないでも食べていけるから絶対幸せで居場所があるかはわかりません。
 高齢、この年齢になって、さらに70代、80代で、居場所というのか、終の生き方を見つけるのが大事なところです。
 私自身は大企業を60歳で延長せずに定年退職し、その後公務員のような仕事にありついています。化粧品のメーカーからは随分変わった転換をしているように思われますが、60代手間から、随分と「働く」ことへのプレッシャーは減り、自分を見つめ直す機会に恵まれたのは、この本に書かれている通りで決して非凡ではないとも感じました。
 とくに若い頃は、目の前の仕事を必死に頑張る藻は大事ですし、そうしないと食っていけません。それでも将来を見据えて何か自分で学び、身に着けていくことは大事だと思います。学生時代から社会人になっても勉強して、身に着けたことは必ず何か後で役に立つ、損をすることはないと思っています。

書評:阿部曉子「金環日蝕」

 梅雨の時期だから、リーダビリティのある面白い本の紹介です。
 題名はやや難しい気象用語で山崎豊子の政治経済のインサイドストーリーのような印象ですが、女子大生と男子高校生が主人公というティーン向きのような語りと展開です。
 (帯にある程度のストーリー紹介)
 知人の老女がひったくりに遭う瞬間を目にした大学生の春風は、その場に居合わせた高校生の錬とともに咄嗟に犯人を追ったが、間一髪で取り逃がすします。 犯人の落とし物に心当たりがあった春風は、ひとりで犯人探しをしようとするが、錬に押し切られてバティを組むようになります。
 (以下ネタバレあり)ひったくりの背後には社会の闇が見えてきて、日常の謎かと思われた話は交錯する物語となり別の不幸な少女を中心にストーリーは重い展開になります。老女は
いわゆる特殊詐欺のターゲットのリストに載っていたのです。そのリストをめぐり、暗い過去を持った男女の思いが入り乱れます。
 決してイヤミスでも、社会派でもない、謎解きやサスペンスを含んだミステリです。
 イヤミスではないということで、安心してください。サクッと展開もはやく、天気も気にせず読めます。
 犯罪と底辺にある社会問題を描きながら、家族や青春という要素も含んで爽快な読後感があります、

書評:逢坂冬馬「歌われなかった海賊へ」

「同志少女よ敵を撃て」で一昨年本屋大賞などを受賞した逢坂冬馬の、海外を舞台にした歴史と戦争の第2弾となる作品です。海外が舞台で、日本人は一人もでないで、登場人物に外国人の長い名前ばかりでとっつきにくい方がおられそうで、そこは残念です。
 まあかくいう私も前作に比べ、人物への思い入れは遅れ、結構読了まで時間がかかりました。アーリア人とユダヤ人の問題や、名前などはわかっているようでも日本人の肚にはなかなか落ちないのかもしれません。
 以下、ネタバレにはならない程度ですが、話の紹介は含みます。
 ナチス統制下の時代を生きていたドイツ市民と仲間たちで結成するグループの青春群像劇的な感じの話です。格闘や戦闘、爆破などスリリングな展開もあり、友情や恋愛、人種などの問題もスピーディに描かれます。
 第二次世界大戦末期の過去のしかも太平洋戦争ではなく、ドイツの敗戦前の出来事を描きながらも、本作に掲げられたテーマは、少数派への偏見・差別、社会体制への大衆の迎合・欺瞞、日本でも現代人が今まさに直面している問題かと思います。
 ナチスドイツが行っていたことは、日本と比べるものでもないですが、民族的な偏執、差別意識は強く、得も言われぬ不条理への怒りがこみ上げます。
 いつの時代も戦争は理不尽で、未来から見れば愚かな暴挙もその時代ではなかなか止められないものなのです。
 

書評:保坂正康「帝国軍人の弁明」今も昔も大局観のある人が少ない

 同志社大学卒の近代史や昭和史の専門家、保坂正康氏による10人の軍人の自伝・回想録を読んでの人物評価の著述で、これ自体がブックガイドのようなものです。それを書評するのも変なのですが、知的な刺激にあふれた一冊でした。
 太平洋戦争を生き残った軍人は、多くの著作を残しているが、美化や誇張もあり、自己顕示自己肯定のために歪曲されたものも多く、ここに紹介されたものはそんな中で客観的で良質とはいえるもののようです。敗戦までの発言、著作との整合性や事実認定や確認もされたこともあります。それでも一部は本人の錯覚や誤解も割り引かないといけませんが、歴史に残して読み継ぐべき内容のものが多いと思います。
 戦争は遠い昔、あるいは現代でも海を隔てた遠い異国でのものという認識しかない現代ですが、戦いという局面で指導者が過ち、統帥するものが間違えば、国は滅びも向かいます。
 私は右翼でも左翼でもないと傾倒はしていないと思いますが、日本国が好きで愛国者ですし歴史は好きです。私の祖母は小学生の頃、今の世界地図を見て小さな赤い日本の領土を嘆き、昔は台湾や樺太、朝鮮半島も赤く、満州はピンクに塗られていたのにと嘆くようの呟きました。国威が広がることだけが良いことではないのですが、素朴に惜しかったとは思いました。大人になり、戦争の経緯や今の東アジアを状況を見るにもったいないような気持ちもあります。
 堀栄三氏の項にみる情報力の軽視など、戦術的に疎いという面と、多くの史料に現れる戦争の開戦から終局までの大局をイメージする国家戦略にも欠けていたようなのが残念です。
 戦ってみないとわからないのが、戦争にはあり。成り行きの状況判断も大事ですが。結局は多くの国民の自由と権利、命を奪いながらも、それを後押ししたのも流された世論、国民のインテリジェンスの欠如です。
 全面戦争を上手く回避し、日本が中国とも良好な関係で世界に存在感を示し続ける現在を想像することはもはや難しいでしょう。
 自虐でも国粋でもなく、昭和史、日中戦争を冷静にひも解くことは、現在と未来の課題にもつながります。
 多くの軍人の弁明には「しくじりの言い訳」とともに、今も求められる思考もあります。


 戦後も局地戦はあり、戦争を放棄した憲法を持ちながら、その戦争の支援部隊を送る選択もあれば、内政でも経済や交通事故の増加に伴うインフラ整備、疫病の蔓延、自然災害,公害、など常に戦争といわれるような危機は訪れ、主権者と統治者の悩みは尽きません。
 未来を望むのにはやはり歴史を一度じっくり顧みることも必要でしょう。