書評:上林陽治「大学生が伝えたい非正規公務員の真実」
公務員に限らずですが、平成の中頃、世紀が変わったあたりから、非正規比率が増えて、さまざまな問題になっています。
1985年の労働派遣法施行から、職種や業種が広げられ、企業や公務も人件費削減の財政優先で、非正規比率はどんどん上昇していきました。
2007年の「ハケンの品格」とうドラマが話題を呼びました。その後もフリーターパートを描いたドラマもありましたが、これだけ非正規が溢れているはずなのに、非正規社員とその問題を正面から描いたドラマはあまりありません。それどころか、いわゆる民放などの「お仕事ドラマ」にはなぜか、主人公はじめ主なキャストは概ね正規社員で、仕事や恋愛、家族、進路などに悩むながら物語が進みます。例えば、この本でも取り上げられる児童相談所、いわゆる児相を扱ったドラマもありますが、昨年福原遥さんが主演した『明日はもっと、いい日になる』なども個々の回では、リアルな問題も取り上げてホンが悪いのではないですが、刑事からの出向というとんでもない設定もですが、それを除いても現実には相談員が全て非正規という過酷で歪な現実とはかけはなれています。
この書では、公務員の6つの非正規の進んだ職場からのルポを中心に、ゼミの上林教授がが、学生やジャーナリストのルポから構成して、課題を浮き彫りにします。
6つの職場は、児童相談所、学校教育現場、公立図書館、男女共同参画センター、ハローワーク、最後は自死された区役所窓口相談員です。
その他にも、コラムでスクールカウンセラー、マスコミの姿勢も語られます。
お仕事ドラマの多く、医療現場や教育現場も、看護師や教職員が、それらしく描かれ、それなりの問題は提起され、ああこういう現場だと思うドラマが土台から虚構なのです。
私も、60歳で退職後、区役所、年金事務所、労働局、裁判所、市役所と公務を中心に非正規の有期雇用で勤めました。
1番長かったのが、みなし公務員の年金事務所の3年ですが、当然に非正規として有期雇用で採用されて、その課題はよく目にしています。
無期への転換も可能な時期にきましたが、正職員なみかそれ以上の仕事を課せられて、あまりにも現場を知らないキャリアの所長や、それを羨みつつお局や牢名主のように後輩イジメをする無期雇用の先輩に辟易としてイヤになりました。
共通するのは、底辺は専門的知識や、市民への対応を迫られるのに、待遇ももちろん正規職員とは雲泥の差で、すぐに異動のある正規職員はその部署の表面的な知識しか知らず、経験や深堀りに欠けるのです。
もちろん、どこの機関もそれなりに、研修などの体制はありますが、タイミングなども非正規社員は難しいところです。
私のような公務を多少齧った人間だと、自分も採用された現場を見て、多少は非正規が多い事情は呑み込めますが、多くの人はそこまで知りません。みんな高給で安定した公務員と思いますし、非正規だと資格試験や採用試験に落ちたその程度の人と思うのです。
税金で雇われる公務なので、そんなに民間より好待遇でなくて、非正規でいいじゃないかと思われますが、役所も企業も、実際正職よりも、経験を積み、同等以上の知識も持ち、ハードに働き職場を支えるのが非正規です。正職の管理職や専門職よりも、実力があっても、仕組み上待遇が上がる範囲はしれています。
上位の職員は2-3年で異動がありますから、契約上、有期転換を迎えた人だけが長く残り牢名主、お局化するのが、パワハラも当たり前の通例になります。
実は私が民間で働いていた、化粧品会社も地区の販売会社は似たような構造もありました。キャリア的な地区支社、支店のトップがいて、大卒のプロパー社員がいて、地区採用の営業や販売、美容担当、事務、メンテ要員がいる構造で、どうしてもエリアの現場、とくに女性が転勤なしで入れ替わりがなく組織は淀みます。
悪い意味での自己流、ローカルルール、カリスマ支配が蔓延り、改革の難しい組織になりました。しかし、民間企業ですから、課題が共有され、トップの意向や、時代とともに不合理は排除され、大きな変革が進みました。業種により改革の差はありますし、企業が人件費削減で非正規比率を上げて、正社員と格差が続く構造には変わりないにしても、この本と私の経験を踏まえ、客観的に見て公務員ほどひどい構造はありません。
同一労働同一賃金はお題目で、仕事があるのは現場中心で、AIでできる簡単な管理や事務より、相談窓口などのほうが過酷な現業なはずなのに、この慢性的な公務員の非正規の多さは理不尽で不合理な世界です。
生命に関わるとか、教育や子育て、その生涯にかかわるような相談窓口が、臨時の非正規で、正職員の幹部は何ら現場も実態を知らないというのでは、働き甲斐も含めて、この国の大事なところがスカスカになっているというのが、日本の公務員の現状なのです。
労働組合などが、まったく既得権者に向き、この問題を改善するどころか、立場を守り、格差を維持するような動きしかできないのも、致命的なほど残念なのです。
日本の格差社会の不満は、もう少しするとAIによる大きな変換点で、受動的に爆発して、それなりの改善にはつながる時が来るとは思いますが、情けない話です。