追悼 帰ってきたウルトラマン

 ウルトラマンを演じた俳優としては先輩も後輩も高齢なのに元気にご存命だったのに、ついに「帰ってきたウルトラマン」郷秀樹役を演じた団時朗(当時団次郎)さんが亡くなられました。ご冥福をお祈りするとともに、子供時代のヒーローの喪失にショックを受けている世代です。私に世代では初代ウルトラマンに夢中になり、続くウルトラセブンがあり、しばしのインターバルがあいて、仮面ライダーとともに小学校6年生当時に、もうそろそろ大人なびた世界にも踏み出そうとした頃ウルトラマンの帰還として注目した作品です。
 近未来で無国籍なかっこよさのあった前2作に比べ、1970年代の公害や社会問題、第二次世界大戦の爪痕もリアルに描いた部分がありました。そしてウルトラマンと郷秀樹は戦いに何度かやぶれ、恋人を殺されても成長し続ける等身大のヒーローでもありました。

 それゆえアッケラカンとしたユーモアもあった初代ウルトラマンや、武器や装備がかっこよくサスペンス、SF色も強く、かつ無類の強さを誇ったウルトラセブンに比べ、帰ってきたウルトラマンは弱く頼りない印象もありました。
 視聴率的にも苦戦したので、後のウルトラ兄弟につながるセブンや初代マンとの共演、チートな武器ウルトラブレスレッドが投入され、後半は宇宙怪獣や宇宙人とのハードな戦いが増えます。
 そんな中で戦い続けた、団さん演じる郷秀樹の苦悩はドラマとしてはなかなか面白かったです。

 もう50年以上前になるのでスタッフや演者が鬼籍に入るのも仕方のない『帰ってきたウルトラマン』。その1971年11月に放映された作品を、一部のファンが「11月の傑作群」と呼んでいます。「怪獣使いと少年」については以前のブログでも少し取り上げました。
http://seizafpkotodama.com/2022/05/02/%e3%82%a6%e3%83%88%e3%83%ad%e5%b9%b3%e5%92%8c%e7%a5%88%e5%bf%b5%e9%a4%a8%e3%82%92%e8%a8%aa%e3%82%8c%e3%81%be%e3%81%97%e3%81%9f%e3%80%80%ef%bc%83%e5%9c%a8%e6%97%a5%e3%81%ae%e5%8e%b3%e3%81%97%e3%81%84/

「11月の傑作群」というのは、『帰ってきたウルトラマン』でこの11月に放送されたエピソード第31話~34話までです。……ネタバレありです。

 第31話「悪魔と天使の間に…」1971年11月5日放送は、市川森一脚本 本作で初めてとなる侵略宇宙人のゼラン星人が登場、障害のある男の子を装って卑怯な手段で罠を仕掛け、郷秀樹を孤立させてウルトラマンを窮地に追いやるという今では放送が難しいストーリーです。伊吹隊長の娘が少年を信じ庇うため、正体を知った郷秀樹と隊長の対立、宇宙人にブレスレッドをコントロールされ窮地のウルトラマンを救うのはやはり、男の子がテレパシーを使う場面では印象的な効果で宇宙人らしさを演出していました。伊吹隊長は最後に郷に、娘には隠さず真実を告げると言います。この宇宙人が子供を利用し、テレパシーで主人公だけを葛藤させるのは、次作品ウルトラマンエース最終回、同脚本家の「明日のエースは君だ」と似ています。
 第32話「落日の決闘」1971年11月12日放送 珍しいコメディタッチのストーリーです。
 第33話「怪獣使いと少年」1971年11月19日放送は、差別問題を取り入れた意欲作であり特撮史上でもっとも物議をかもした問題作です、脚本は沖縄出身の上原正三『帰ってきたウルトラマン』を語る時、引用されることが多いエピソードです。「宇宙人はすべて侵略者、人間は被害者」という概念に警鐘を鳴らす、ウルトラセブンの「ノンマルトの使者」と並び、すべてのウルトラシリーズのなかでも特異な問題作といえるでしょう。雨の情景で暗い映像が多く、少年が執拗に受けるイジメ、差別の映像は今では放送は難しいでしょう。パン屋の少女とのやり取りも、全体を明るくするほどにはなりません。今ならもう少し明るめになるでしょう。
 第34話「許されざるいのち」1971年11月26日放送 動物でも植物でもない生物を生み出そうとして、それが怪獣となってしまったことを苦悩する科学者。怪獣のデザインと物語の原案は一般から寄せられたもので、後に映画『ゴジラvsビオランテ』の原案公募でも採用された小林晋一郎さんによるものです。

……の4作品の通称ですがやはり強烈なのは第31話と33話でしょう。両作品ともドラマ重視で登場怪獣は地味で記憶にも薄く宇宙人も人間に近いものです。伊吹隊長演じた根上淳さんと団さんの重い演技が印象的でした。高身長でハーフ、イケメンすぎる団さんですが、それゆえに問題を提起するときの優し気でせつない口調は心に沁みます。

 その後、舞台やドラマで活躍された団さんですが、やはり我々世代にとって、ハヤタ、モロボシダンとともに、役のまま郷秀樹としていつまでも記憶に残っています。

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