書評:水生大海「社労士のヒナコ」シリーズ

 資格を取ったから高給で楽な仕事というのは無いのではと思います。
 〇〇士というのも典型で、「弁護士」「公認会計士」「税理士」なども試験が難関な割にはなってからも勉強、努力は欠かせないのです。楽な部分がAIやネットでできるため、人間がやるのはややこしいとか危険、泥臭い案件の割合が増えます。
 そんな難易度の高い資格の一つ「社労士」のお話。
 【お仕事+日常ミステリ】という感じで、社会保険労務士の女性が主人公の短編シリーズで3作上梓されてます。謎解きはそれほどメインではないですが、いくつか【犯人は誰か】【本当の動機は何か】【悪意があったかなかった】など、ミステリ作家らしいパズル要素はあります。
 労働や雇用、年金などの仕事をする「社労士」という職業についてわかりやすく書かれたシリーズです。著者がどこまで、社労士の現場に詳しいのか実際にはわかりませんが、1作目は説明向けの事件も多かったです。また3作目はコロナ時期に入り、あの時代の休業、解雇、給付申請や、テレワークの問題もでます。非正規雇用やら育児休業、パートの社会保険の壁など、今問題になっている内容が盛りだくさんです。
 様々なエピソードを通じて、雇用主からの依頼に応じているだけでなく、時には従業員を守る立場にもなり、悩みながら成長する主人公の社労士を描いています。
 まあ、居酒屋チエーンとか、書店など、中小の取引相手が多いので、大企業人とか経営者で安穏な人に身近とはいかないのが難しいところです。
 3作目ではもう社会人7年目ぐらいになっています。
 コロナの時代をリアルタイムで描くと漫然と年齢を重ねず同じ時代を繰り返す「サザエさん」や「名探偵コナン」の方式は使えません。主人公が確実に年齢を重ねるので、シリーズキャラの探偵設定と時代をリアルに描くのは意外と難しいものです。
 個人的には「年金事務」や労働局にもいましたので、分かる内容が多く面白いですが、一般の方は楽しめるのかどうでしょうか。社会保険の仕組みなど、知らないことになるほどとなるか、「わかりにく、興味がないのでつまらない」になるのかは微妙です、軽いタッチなので読みやすいとは思います。
 コロナの時代をミステリとしては描くかどうか確かに微妙なところです。年を取らない探偵なら描かない時代かもしれません。

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