意外と雨の日が多い秋なので、そんな日は読書と、お出かけにはミュージアムか映画に行きます。
映像化と本ということで前の翡翠ちゃんに続き、今回は人気シリーズいわゆる福山雅治のガリレオ最新作、東野圭吾の「沈黙のパレード」を再読して劇場で映画も鑑賞。
東野圭吾の本格ミステリ作家としてのピークは過ぎて、キムタクのマスカレードホテルシリーズとともに映像向けのキャラミス作家になっている気がしました。
「容疑者Xの献身」は秀作でしたが、先にテレビで単発ドラマにした「禁断の魔術」と2019年ミステリランキング上位に入ったのこの映像化最新作は、ガリレオ湯川教授あってのキャラミスの域は出ないような、まあまあの出来です。それを言い出すとホームズや金田一でもキャラミスですが(笑)
どちらが好きかというと映像化は難しいし一般には最近ウケナイ作品は多いですが、セミリタイアされた森博嗣の『犀川助教授』のシリーズが好きです。
森博嗣が本当の理系ミステリで、今回と前作は、もはや湯川と草薙バディの熱き友情捜査ミステリです。科学の要素とかアリバイや物理トリック、一般の方には騙される?結末のミステリ要素はもちろんそれなり入っています。
映画の印象としてが、その直前にテレビでスペシャルとして新作で「禁断の魔術」をやるなど興行、宣伝としてうまいです。
しかし、湯川=福山雅治の印象が強すぎて、福ちゃんも老けたな、柴咲コウも落ち着いたなあ(トシ相応)というのがビジュアル的にはあります。小説の中では年を取らない名探偵が映像上は老いていくのが奇異、新鮮な印象です。北村一輝はそれほどでもと思いましたが、やはり昔の画と比べると経年を感じます。柴咲さんも、、
他の俳優も音楽も良かったです。田口浩正さん熱演でしたし、檀れいさんや、ええにょぼ戸田菜穂さんも、吉田羊さんもみなさんキレイでいい味を出しています。椎名桔平、村上淳、岡山天音、飯尾和樹ら男性俳優もミステリにふさわしい感じの良い演技でした。そろそろネタバレというか、俳優の格で犯人がわかるかもですが、意外にそれを誤魔化すように端役に無駄な大物が使われているようなキャスティングがあります。地方都市の祭、商店街の人々の描き方も好きです。
以下ネタバレ
23年前の犯人を草薙が捕まえながら起訴できなかった少女殺しから、今回、3年前の祭の後失踪した街のアイドル的な歌手志望の少女が別の場所で焼死体で発見されます。そして容疑者は23年前と同じ人物で、遺恨の草薙になぜか湯川も偶然関わり出します。警察や司法の限界に悩む草薙も良く描かれています。
やがて殺される容疑者に、名探偵や捜査側対善良な街の人々という構図ができます。この構図自体は、すでにいくつかのミステリやドラマで既出ですが、もちろんひねりはあり、結末は意外でもあり、偶然も重なって謎を深め、まあリアルな終局でした。
しかし、ちょっと事件にいたる傷害(殺人だと本人は思いこむ)の動機が弱いというか、それで錯乱して殺したと思い込み、いくつか悪い偶然が重なるというのは、少し都合が良すぎるような印象です。
動機としては少女が恋人の子供を妊娠して歌手を辞めたがっているのを、歌手を育てたいという音楽家夫の夢を実現したい妻では、あまりにも弱い。
どろどろしても、ここは少女の妊娠の相手が音楽家であったという音楽家の妻の嫉妬による犯行か、恋人と結婚し音楽を辞めるという少女を暴行して音楽家が殺して妻が隠蔽に協力したかにならないと、最終的に凶悪犯は別にしても、それなり全部いい人になってしまって偶然が多すぎるのです。
偶然の結果が、犯人も関係者も予想だにしない複雑や怪奇のミステリ要素になるのは島田荘司の論でもあり全然オッケーですが、それがあまりにご都合主義になるとリアルとは程遠くなる感じです。
実際、今のミステリはパズラーとして、矛盾さえなければ動機など弱くても良いようですが、一方で動機や人間の友情や連帯を描いているだけに少し残念です。
とはいえ冒頭に流れる夏祭りのジュピターをはじめ、音楽や映像は前作「真夏の方程式」に続き良い感じの映画でした。なぜ吉高由里子でなく柴咲コウかは、大人の事情で他で調べてください。
興行的にはどうなのでしょうか、コアなファンは駆けつけるけれど、シリーズとしてテレビから見ていないとやはり面白くないところもあるのは残念です。渡辺いっけいが出ないのと、ガリレオの方程式を書きなぐって結論をまとめるルーティンはありません。