役所は杓子定規との批判に対して

 公的機関に3月まで4年弱、勤めていました。
 今、自身の社会保険の手続きなどを実際に役所などに赴くと、届け出というものは市民目線で見ると難しい。
 セミプロのはずの自分でも難解なことがあります。それだけ、制度が細かく複雑なのです。また、立場変われば、融通の利かない対応や親切とはいえない態度やわかりにくい文言、書いてある説明にはイライラしました。
 役所の方が使う言葉や、時間の概念は、市民にとっては1年に一度あるいは、一生に一度使うかどうかわからないものなので、その知識のギャップは大きいのです。
 総じて、役所に勤めている方は記憶力もあり、勉強もできる方が毎日毎日、同じような流れでその言葉を使っているので、どうしても既知バイアスにかかります。
 知らない人を見ると「そんなことも知らないのか」という気持ちを何とか抑えているのです。これは人間ですから仕方ありません。
 問題はその感覚の理解と、そもそもそんなわかりにくい制度や言葉を無くしたり、わかりやすく改めたりできないのかということです。間違いや無知のまま、放置されたり、遅延して不利益が蒙るというのはとんでもないことだと思います。日本は申請主義であり、行政の立場は「周知しているのだから、期限内に手続きしないアナタが悪いんでしょ。遅れて出したアナタを認めるわけにはいかんよ。ちゃんと手続きした人もいるんだから」という上から目線的なものになります。
 実際には、うまく行政の窓口をかいくぐって、給付を受けようとする人も後をたたないのです。コロナの支援給付でもそうです、生活保護や年金、健康保険などでも、納付義務をおこたったり、居住や納付の要件を誤魔化す不正はよくあります。厳格にいかないと、いわゆる血税ともいえる、正当に徴収された税金や保険料が騙し取られるようなこともあります。
 私が実際に区役所の健康保険の窓口にいた時、外国人の方が何度か「出産一時金」申請に、日本の居住や国民健康保険の納付実態の無い方が来られました。一時金としては月収の何倍かになるそれなりの高額なので、日本に入国した実績のある方がダメ元か、悪意の入れ知恵かわかりませんが来られました。
 当たり前ですが保険金の支払いというものは、、事後に納付して権利を得ること、後出しジャンケンのようなことはできません。事故を起こしてから、自動車保険に入ることや、病気になってから医療保険に入ることができないのと同じです。申請主義が絶対悪いのではなく、こうした不正も防いでいる面もあります。
 他の社会保険の労働保険、雇用保険や年金も考えは同じです。ただこれらは税金と同じような印象があり、誤解も多く、任意でないため理解が難しくなっています。

 公的機関、役所の人間に対しては、制度全般はもちろん、行政の無駄、政治全般への不満をぶつけてこられる方もおられます。また、未納や徴収のアクションに対し、「自分のような庶民に対し、役人が時間をかけているのは無駄だ、もっとお金持ちの脱税や、議員を減らせばいい」と反発をする人もいます。「あんたらは楽なもんや、どうせ、公務員だから潰れない、民間は給料出すのに必死。ボーナスなんて出ない」と公務員は景気が悪いとやっかまれ、批判の的にもなります。
 杓子定規というのは、そういう印象ではいけないのでしょうが、現在の制度をうまく適用していかないといけないので、丁寧に納得できる説明は必要でしょう。
 私が公的機関に勤め始めてすぐ、とった電話で再発行手続きか何か、納付期限や申告期限の迫った件で「大急ぎで向かっているが、どうしても夕方の閉庁時間を過ぎそうなので、30分待っていてくれないか。あるいは一日遅れても今日の手続きにできないか」という要望がありました。受けた私はすぐ相談しましたが先輩や上司は巌と丁寧に断りなさいと命令しました。
「個々で、この機関がそんな対応をしたということが万一広がれば、全国で30分延長や、一日遅れの容認をしなければいけなくなるかもしれないし、1日遅れでもこの案件を認めれば、過去の案件も認めてくれと訴えてくる人がいるかもしれない。個人商店ならそれでもいいが、公的機関はそれはできない。とくにこのこの件の場合、周知された用件で事前に十分に手続きの時間があり、こちらに説明誤りなどの責任もない」
 丁重に説明するしかありませんでした。
 急いで今日中に間に合うようにと丁寧にご案内しました。
 こういう場合、納得される場合と、捨て台詞を吐かれる場合があります。
 組織の一員として、方向性は間違ってはいません。しかし、まあ市民目線では、何とかならないのか、毎日公報を見たりして、手続き確認しているわけではないので、うっかり忘れて期限が迫ることはあるのではとは常々思います。そもそも、それぞれの期間や締めきり、条件などが複雑で、自動的にいかないものが多いのです。AIの発展で電子化の進歩も、少しづつ役所にも入っていますが、もう少し公務関係では時間がかかりそうです。

 公務員は毎日毎日そういうストレスと戦っています。地方の窓口、特に異動する部署も限られる小さな市町村の職員は大変だと思います。私などは民間の企業で何度も転勤もあり、配置転換もあって、リフレッシュもできたからハードでも30年以上やっていけました。公務員だととくに若い頃から10年同じ仕事は無理だったと思います。
 今だと、人間観察も含めて少しは冷静に丁寧にできるかもしれません。

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