子連れ中年が禁断の星空デートへ? #コイバナ#星空デート#能恵姫#ラノベ

 これは私が化粧品の北日本販売の支社の時のお話。
 引かれるかもしれない前後編になりそうな長さですが、コイバナ?というより人生でも最大の激流に呑み込まれそうなエピソートでした。お時間のある時にお読みください。


 北国には美人が多いと言われています。赴任した時はもう結婚して子供もいましたので、結婚相手として出会えなかったのが残念なぐらい美しい人も沢山いました。雪の多い冬は厳しいですが、自然は美しく、少しクルマで走れば、野鳥のいる森や清流もあり、夜は都会では考えられないほどの数の星は見えました。ところが、この時期、最悪なことに妻と下の男の子が同時に病気になり入院してしまいました。妻が癌の切除と抗がん治療を決めた時、長男も小児としては難しい疾患で緊急入院となり、実家が遠方のため、取り残された私と小学校低学年の娘にも試練の時期でした。
 
 大手スーパーのAモールがもはや全国を席捲しだしていた時期です。勤めていたメーカーもA(当時の小売商号名はまだJ)での売上依存は大きく、大きなイベントを基幹店で企画して成功させるミッションが本社からもありました。ところがその地域の私の前任者やその上司が、出来の悪い人間ぞろいで、A企業に対して、まともな商談もできず、約束不履行やミスばかりで、関係のとても悪いまま引き継ぎもなく転勤してしまいました。
 Aのエリア内最大のモール内の部門責任者が、とんでもなく怖い方で、怒り心頭でもう我が社にもあってくれないというのです。元々厳しい方で、「女とは思えない鵺(ぬえ)」と周りから怖れられる人で、それでもしっかり現場を強く握った存在で、つむじを曲げられるとアポすらとれない情勢です。これでは大型モールのイベント商談のきっかけすらつかめない困った案件となりました。最悪、本社からのトップダウンで店長から下ろすとかの手段もあるのですが、モールは組織も複雑で現場がノーとなれば、最後はこじれて結果はさらに悪くなる可能性が高いので、手詰まりのまま丁寧なあいさつメールを送って反応を待ちました。休日にも時間があればそのモールを訪れ、客層など人の購買の流れを知り、商談の引き出しを増やして準備になればと思っていました。
 家の看病を抱えながらも、小学生の娘ハルを連れて商圏調査や小型イベントの巡回をしました。ハルが良くできた子で、母と弟のいない寂しさをこらえて我慢して気丈に明るく商用ドライブにつき合ってくれました。
 仲睦まじい父子の姿は、化粧品の現場には微笑ましく映り、また母性を擽っていたとは思います。子ども連れだと、こちらも時間を切りやすく、一人で留守番させているよりも気楽でした。
 ただ好奇心旺盛な子なので、マグロの解体とか呼び込み販売など。物珍しいものを見ると目を離した一瞬にフラフラとどこかへ消えてしまい、モールの中で迷子になるのが玉に瑕でした。ある時も、別のイベント会場に魅入られて、随分長く探し、迷子案内まで行きました。モールの職員であろう若い女性に連れられて、戻ってきました。やっと見つかった時は、嬉しいやら、周りに恥かしいやらでした。
 恐縮しながら、保護してくれた従業員にお礼をしていても、横でハルは「ウチはお母さんと弟がいなくなって、お金があまりないもんで、ノエさんお父さんを許したげて」と父を庇う発言までしてくれました。これにはノエと呼ばれたその若い女性も大笑いでした。すでに娘は名前を知り、友達になっているのかようでした。よく見るとキレイな女性で、こちらが恥ずかしくなりました。
 そんな情けない土日の休日の繰り返しでしたが、翌月曜日になって、ようやく、問題のAモールの現場責任者からアポの返信メールが来ました。
 会って話す前に前任の問題を謝罪し、かなり詳しい提案資料と、実際に詳細を面と向かって話すメリットを書き込んで、魂を込めたメールを送っていたため、さすがに無視はないとは思っていました。前任者が無能で出来が悪いほど、一時期は後始末は大変でも、しっかりカバーすれば実は後任にとってはオイシイことの多いのが、営業の常です。

 店の担当者や巡回の女性教育担当すら、脅すのか、本当に怖れを成しているのかの緊張感で、どんなコワイ人かと身構えて商談の応接室に向かいました。お茶を持ってきた女性がそのまま向かいに座りました。先日ムスメの迷子を案内してくれた女性でした。
「Aモール 〇〇店〇〇部主任 上芝氏(かみしばうじ)能恵(のうえ)です。井上さんハルちゃんのお父さんですね」
 真正面から見ると、能恵さんは色白で華奢で、目元が特に印象的な目蓋をされている北国美人の典型のような別嬪さんであり、この方がそんななかなか会えない厳しい商談相手だったとは驚いてしばらく見つめるだけでした。
「かみしばうじ、、さん。その節はお世話になりました」
「ははあ、変な長い名前でしょ、うじまでが苗字なんて変で私もこの苗字嫌いなんです。ハルちゃんと同じノエと呼んでください」
「まさかご担当の上芝氏様、、ノエさん、、だとは気づかず、ご挨拶も遅れてすみません」
「いろいろ悪口ばかり言われてて、どんな女だと思われてたでしょう。実際よく、コワイとか近寄り辛いと言われてるんです。でも前の方、名前も忘れたけどさすがにひどかったあれはビジネスマンじゃない。あんな人がいる会社はダメだと思ってました。井上さんのメールはよくわかりやすく書いてました。ハルちゃんにも先に話を聞いて、仕事に熱心で真面目な人と出会えたと思ってます。イベントのことですね、一緒に考えていきましょう。こちらこそよろしくお願いします」
 その後、驚くほど彼女はイベントを協力的に推進していただき、他メーカーが羨むほど優先的かつ精力的に動いてもらえたのです。確かに厳しい面もある人ではありますが、全て正論であり、仕事への情熱、現場への意欲から来るもので、順調に課題をクリアしていけました。
 私は家族二人の看病を抱えながら、大型モールのイベントが大成功に向かっていた時です。
妻の癌のステージは、最も難しい段階と医者から告げられました。
 人の運命とは、、人生の激流を感じた時期でした。
                                 (つづく)
 

                       次回、星空デートと能恵姫伝説

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