流星への願いと涙 悲劇の姫 子連れ中年が禁断の星空デートへ2 #コイバナ#星空デート#能恵姫#ラノベ#星に願い

 前回↓のつづきです。化粧品メーカーに勤めていた私は、大型モールのイベント準備が進行する中、家族の重篤な病状も進み、人生の激流の時期に突入します。その時、北日本の美しい女性と出会いました。

子連れ中年が禁断の星空デートへ? #コイバナ#星空デート#能恵姫#ラノベ – 天使の星座 (seizafpkotodama.com)

 【暗転する家庭】
 妻の病状は嫡出手術後、抗がん治療のサイクルを繰り返し、やっと回復してきたと思えば、別のところに影が見つかり、「転移」ということで極めて生存率が下がったステージを迎えました。
 長男の病気もまた、そんな状況でも容赦なく、難しい治療をしないといけない難病、家族状況を許してくれない厳しいお医者さんの言葉でした。何度か妻の実家からヘルプに来てもらいましたが、限界もあり、正直私も仕事に行くのにも、看病と長女の子育てに毎日疲れた時期でした。
 そんな中、Aモールのイベントはさまざまな困難を克服しながら回り出していました。モール内の派手な広告、デジタルサイネージの投入も、現場担当責任者主任の上芝氏能恵(かみしばうじ・のうえ)さんの協力で順調に進みました。彼女の信頼をもう一度メーカーとして失えば取り返しがつかないということで、何とか夜遅くとも、その時間だけは、長女や義母に無理を強いても仕事に費やしました。
 上芝氏能恵、呼ぶときはノエさんで、一度迷子になった私の娘を助けてくれています。
「ハルちゃん、お母さんいなくて、お父さんがこんなに遅くまで無理して大丈夫?」
「ノエさんこそ、毎日もっと遅いんでしょう。ウチのイベント無くても、ルーティンで深夜残業ばかりで、いくら若くても不規則だと身体に悪いですよ」
「私はね、もうこんな仕事だから慣れてる。気分転換に山登り、ハイキングに行くのよ。ハルちゃんも仕事ついでのドライブだけじゃなくどっかに連れて行ってあげなさい」
「これ、私作ったおかず、うちの総菜コーナーじゃないから、持って帰って、ハルちゃんと井上さん野菜不足やろから、食べて」
 それから時々、タッパーに入った煮物やらのオカズを持ち帰らせてくれました。

 入退院を繰り返す妻は私の実家に、自分が醜い身体になり家事もままならず足を引っ張るので離婚してくれて構わないと電話があったと聞いた。母は妻を諫めたと聞いたが、私もその話を聞き、絶対離婚しない、何があっても支えると妻を抱きしめました。妻は精神的にも落ち着かない時がありましたが、病めるときこそ支えるのが夫婦の誓いです。

 【星空デート?
 イベントが成功裏に終わったある日、ノエさんから、次の土日はオフなのでハイキングとキャンプに行くがメンバーの欠員ができたので、私とハルに是非来て欲しい、食材が余ると困るし、流星群が見れるからと強引に誘われました。
「井上さんと、ハルちゃんの気分転換になるしね。キャンプ用品はすべて用意してある。夜少し寒くなるから着替えと重ね着ぐらいだけでいい。クルマで迎えに行く」
 こういうところは言いだすと譲らない性格の人で押し切られました。
 噂によると、彼女は主任から一気に課長に昇進する内示を受けているとの話で、企業内でもやり手として女性幹部候補に挙がっているらしく、取引先としてもますます断れないパートナーになる存在でした。
 私と娘は朝、妻と長男の病院に見舞いに行き、取引先の付き合いで二人でキャンプに参加しに行く話をしておき、明日お土産を持て帰ると告げた。娘は自然大好き派で喜んでいたので、妻も快諾してはいました。
 仕事場と違い、派手めのメイクとワイルドで露出の多い衣装で現れたノエさんに驚かされました。特徴的な目蓋に見事に赤いアイシャドウを入れ、赤いタンクトップにシースルーのカーディガンをかけ、お腹と背中が丸見えの短いローライズのデニムには目を奪われそうでした。キャンプに行くアウトドアのアクティブさよりも明らかにセクシーな美を狙った感じがしました。
 そして、最初から確認はしていないことで、あえてツッコミもしなかったのですが、メンバーの欠員という表現はもう少し大勢のキャンプのイメージでした。参加のハードルを下げて実は最初から二人だけを誘ったのだとは思います。
「どう、ハルちゃん、今日の私キレイ?」
 娘もちょっと、リアクションに詰まりそうな感じです。子どもが見ても今日のノエさんはお姫様のような輝きだったようです。
 山道を飛ばしたせいか、娘が少しクルマ酔いをしました。
 ノエさんは、気功に詳しいらしくツボを推したり、いくつかストレッチをさせ、すぐに娘の気分を回復させてくれました。
「ごめんねハルちゃん、つい乱暴な運転しちゃった」
「ありがとう、ノエさん。すっきりした。もう、元気。今日のノエさんはとてもキレイ。ウチのお母さんよりキレイで、お父さんが変な気にならないか心配になってたよ。私もノエさんみたいなカッコいい大人になりたい」
 テントも今のモノは簡単にでき、娘も大喜びで手伝いました。確かに準備も万端でてきぱきと進み、楽しいキャンプにはなりましたが、ノエさんの後ろ姿はローライズは動けば動くほど、デニムのパンツがずり下がり、いわゆる半ケツ状態ヒップの谷間まで下がっていきます。目のやり場に困るというか、さすがに見るしかないというかくぎ付けになりました。
 BBQも盛り上がり、多少焦げた肉も美味しく食べました。
 高級そうなワインを傾け、ノエさんは耳元で囁くように語りました。
「いつもは一人か、同性のツレだしね。こんな派手なかっこ普段はさすがにしない」
「女一人で山歩きって危なくないですか?」
「大丈夫、あたし護身術、合気道やってるから、襲われた方が危ない。気を付けてね」
「そんな」
「あたし胸に全然自信なくて、下半身デブでお尻大きいしね。ちょっと、今日は勝負服に気合入れ過ぎた。山に慣れてるようで失敗、虫よけスプレー忘れて足刺されちゃうし、慣れないカッコはだめね」

願い星と能恵姫
 娘とノエさんは友達のようにいろんな話をしています。ノエさんは時々、神妙に聞き入り考え事をしているようです。
 しっかり、食べて片付けをして、空を見上げると、街中では味わえない満天の星で、8時を過ぎると流星群が見えだし、世紀の天体ショーが始まり出しました。
 これには3人とも大興奮でした。美しさにしばし見とれ、その後すぐに娘は必死に願い事を呟いています。
「あ、また流れた。自分のお願いが終わったら、ノエさん!ハルのお母さんと弟に病気が治るように願って!3人で何回も祈ったら、きっとかなうよ」
 何度も願いながら、娘は涙を流していました。
「ノエさん、今度ウチのお母さんにもツボ押しとマッサージしてあげてノエさん上手いからきっとお母さん元気にできるはずだ。お医者さんよりうまい」
「わかった。約束するよ。ハルちゃんもう遅いからね、子供はそろそろ寝よう」
 あまりにもよく流れる、輝く光のシャワーのような流星をさんざん見て、ようやく子供が眠たくなる時間になりました。いっしょにしばらく願っていたノエさんの目にも涙があふれていました。彼女がこんなに感情的になるとは意外なほどでした。
 娘が寝付く頃には、ノエさんのすすり泣きは激しくなり号泣のようになり、そっと背中を押して落ち着かせるしかなかったです。
「私、課長にはならない、もう会社は辞めるんです。お金もそんな偉い職階もなくてもいい。どうせ人間死ぬんだから、あんなに無理して働きたくない。もうどうでもいいの、私の人生なんて、どっかで野垂れ死ねばいい。
 私の名前、能恵姫って、この土地の伝説のお姫様からとってるらしいけど、親恨むたくなるほどとんでもない話なのよ。子どもの戯れで白蛇と結婚する約束をしたお姫様が、玉の輿に乗ろうとしたら、約束を破ったと龍に邪魔され、さらわれてしまい、水乞いの守護になるという伝説。
 男運なんて、ある訳ないってあきらめてた。20歳くらいで、カッコいい恋人と結婚する約束していたけど、交通事故で死んじゃった。それだけなら悲しいのは悲しいんだけど、その彼が死んでから分かった。とんでもない嘘つきで、あちこちに借金やらして、女にだらしなく結婚の約束も他でしてたり、子供も産ませてた。私はもうそれから、男なんて信じて愛するのイヤになって、今までずーっと仕事ばかりしてきた。
 私もでもね、ハルちゃんみたいな子供がいたらなあと思ったら泣けてきた。
 もうわかってるでしょう。私は勝手に勘違いしただけ、恨んではいない、私が馬鹿なだけだから、最初に会った時から、思い込んでいた。お母さんと弟がいなくなってお金がいるとかハルちゃんが言ってたことを誤解してね。ハルちゃんにはもうお母さんがいなくって、井上さんは奥さんに逃げられたバツイチだと思ってたの。
 奥さんがいて、闘病中だと知ってたら、誘いはしなかった。そんな不謹慎な誘いをするつもりは毛頭なかった。本当にごめん、申し訳ない」
 そっと、ノエさんの肩に手をかけた。
「こんな素晴らしい星空を見られて、誘っていただいた私も娘も感謝しかないです。私こそ謝らないといけない。イベントと家のこと以外に深く考えが及ばず、鈍感だったのです。好意に気付かなかった。でも仕事に利用するつもりじゃなかったです。まさか私みたいな中年の冴えない男とその子に、あなたのような人がそこまで好意を持ってくれているなんて想像できなかったんです」
「もう、最低よ、そう本当の最低、なんでよりによって、こんな平凡な草食系の男にコテンパンにフラれるなんてさあ、どうしてくれる。カッコ悪いし、きまり悪い笑うしかないよ」
「次の流れ星にノエさんが幸せになるよう祈ります」
「はいはい、そういうの一番うざい」
 ノエさんは、ワインをたっぷり二つのグラスに一つを私に勧め、いっぱい注ぎ、自分ががぶ飲みした。
「流れ星に乾杯、流れ星聞いてるか、ちゃんと願いかなえろ!」
 叫ぶとノエさんは、もう一度グラスにワインを手酌します。
 組み立ても比較的簡単だった4人ぐらい寝れるテントで間に子供を挟んで、3人は川の字にで寝ていた。いびきがうるさいし、何といっても大人の男女だから最初は遠慮していましたが娘という緩衝地帯があるし、広いのでテントに寝ることにしました。何と言っても寝ながら、透明な天井から星空まで見える今夜のもう一つのハイライトです。
「キレイでしょ、この天井、いくらお金だしてもこんな寝室買えない」
「本当に素晴らしいです」
「ずっと、この時間が続いたらと思うわ。でも時間は残酷、朝が来なければいいのに」
「酔ってなかったら、このまま朝まで星を見てたいですね)
「うん、でも飲みすぎたし、泣きすぎた。起きてるのはいいけど、寝顔をあんまり見ないでね、襲ってきたら投げ飛ばすしね」
「はい、もう寝ます」
 背中だけが少し痛く、大蛇か龍のような怪物に親子で襲われ、ローライズのノエさんが剣を持って戦い助けてくれる夢をみた。朝方、夢の中でか唇に柔らかいものが重なってくる感覚があった。
 少しすると、夜が明けノエさんがテントを出て、朝食の準備をしているのが分かった。さっきは娘が寝ぼけて乗っかってきたのだと思った。
 朝食も珈琲も、空気が美味しく絶品のように美味しかった。帰りの車ではノエさんは、これからいろいろ好きなことをやりながら横沢という雪の多い地元で、家業を手伝う話をしていた。
「Aモールより、ずっと小さいA系列のスーパーあるけど、それのおかげで商店街もすっかりシャッター通りになったのにね、そのスーパーももうすぐ撤退でね、レジ打ちのパートもできない、まあもうあの会社はいいけどね」
 別れ際やはり涙ぐんでいた。送ってもらい、家でシャワーを浴び終わると、娘が反省していた。
「私、昨日の夜ノエさん泣かしちゃったのかな。ノエさん好きだから、ずっと友達でいたいのにもう会えないのかな」
 それ以降、上芝氏能恵さんをAモールで見ることはありませんでした。


 【奇跡は起こるか
 妻の自宅療養というのも完治ではなく、むしろ最期が近づいての緩和期間の手前、当初の余命期間ではあと一か月を切っているときでした。
 妻は、万一の時の友人やらへの連絡、葬儀時の写真の選択まで話だし、娘に父と祖父母以外に頼れる親戚や何かと教えてくれる友人の話をしだす。これからの子供の中学、高校、大学の入学卒業、就職、結婚、孫、全てのライフイベントに立ち会えないことを謝り、悔しさをにじませてさめざめと泣いていた。妻との出会いからの思い出が走馬灯のように浮かびそうになった。娘が泣きながら駆け出し、外へ出た。
 雨の中、携帯電話をかけながら、どこかへ走っていった。
 なかなか帰ってこない娘は、何時間か後、雨に濡れた格好で上芝氏能恵さんを連れて戻ってきました。ノエさんは、メイクもせず薄い絹の作務衣か胴着のような上下を着て、Aモールの責任者時代とは全く違った慎ましい淑やかな印象でした。
「ハル?どなたなの。ああお父さんの知り合いの方」
「ノエさん、お父さんのお仕事の知り合いで、私のお友達」
「貴女ね、おかずのタッパーとかキャンプで何かと面倒見てくれた、そうこれから娘と夫のこと、お願いしたいと思ってお会いしたかったの」
「違うよ、お母さん、そんな意味じゃない、お父さんとノエさんはそんなのじゃないの。本当はノエさんすごく気まずくて、来るの辛かったはずだけど、私がお母さんを元気にしてもらうためにお願いしたのよ。私が車酔いした時、ノエさんがすぐ治してくれたの、あれならお母さんも良くなると思った。3人でお母さんの病気が治るように何度も流れ星にお願いしたから、お母さんは死ぬことなんて考えないでいいのよ」
 娘がこれだけはっきり言うことに大人3人も驚いた。ノエさんが凛とした感じで語り出した。
「上芝氏能恵と申します。ご主人には仕事で大変お世話になりました。実は私の父方は、合気道と気功の道場のようなものを田舎でやっていてます。上芝氏流整体術というものを心得ています。男の子には恵まれず、私が二十歳までに一通りは受け継いでいました。病はすべて、人間の『』から来るとも言われる通りです。少しだけ、お時間を頂き、私がハルちゃんに約束した通り、奥様の『弱気』を退散させ、『元気』を取り戻させます」
 ノエさんは、気功中は二人だけにして、見ないで欲しいと言い、私と娘は別室リビングで待った。何度か呻きや叫び、気合の声が聞こえた。何時間もかかったが、深夜になってノエさんは汗だくで疲れ切った表情で扉を開け出てきた。
「ハルちゃん、今の私にできることはみんなやった。お母さんの弱気を取り除き、瘴気(しょうき)をかなり吸い取ったわ。あとはお母さんの頑張り次第よ。お父さんと一緒に励ましてあげて」
 妻は顔色良く休んでいた。逆にただでさえ細いノエさんが青白く頬がこけたようになり、足元もおぼつかないほど、顔から生気が抜けていた。「元気」を全て移してしまったのではと思われた。
「ノエさん、ありがとう」
「井上さん、うまく言えないけど、たぶん瘴気がたまるのは、風水とか土地の気の流れに合っていない何かがあるの。もう井上さんは北日本で十分頑張ったから、できたら地元に帰してもらった方がいい。これは井上さんの因縁かもしれないし、北日本の持つ何かかもしれない。それも早くしないと、何かもっと大きな悪いことがおこるかもしれない。私を信じて、最後のお願いです」
 彼女は、それだけ言うのにもかなり息が上がり、たどたどしくなっていた。
 能恵姫が伝説の通り、龍の湖に帰ってしまうのか、そんな伝説を思い出すほど、上芝氏能恵の後ろ姿は儚く思えた。
「お父さん、ノエさん大丈夫かな」
 私は妻を娘に任せ、能恵さんを追いかけた。豪雨と落雷がかき消すように、行く手を阻んだ。稲妻が龍に見えた。

【奇跡 現代】
 2023年5月、私は娘の新居に荷物を運びこむ手伝いをしている。
 私は2010年転勤で関西に戻りました。その翌年2011年の3月には日本を揺るがす大災害が起こりましたが、個人的には次第に険しい運命は落ち着き、当時に比べれば平凡な日々で、双方の実家の親にも面倒をかけ子供もどんどん大きくなりました。
 子どもの頃、自分の家族が激流のような時期を過ごした娘も、今良縁を得て巣立とうとしています。
 めっきり会話の少なくなった父と娘だが、さすがに結婚となると感慨は深いです。
 ふと、小学生の時、よく父娘で北日本の大自然の中を遊んだことを思い出す。もう都会では見ることもない、満天の星空、あの時、娘は自分の幸せも流れ星に祈ったのだろうか、
「早く、片づけないと、食事の用意できてるって、お母さんからLINE来てるよ」

 そうあの夜から思えば、見違えるほど今はすっかり元気になった妻に尻に敷かれ疎んじられ、夫婦は幸せな倦怠期に入っています。
                        完

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