成瀬ひかるちゃんとの事 叶わぬ結婚 #コイバナ#ラノベ#読者への挑戦

 【奇妙なデジャブ】
 遠距離恋愛の彼女と別れてしばらく経過して、見合い話に追われだした私でした。とあるエリア支店にある城下町の南側の商業地にあるドラッグストアの担当者との出会い。
 ひかるちゃんを初めて見た時、奇妙なデジャブ(既視感)と説明不明の違和感を覚えました。凛々しい瞳と所作が、アイドル歌手の誰か?か、高校時代に憧れていた女性に似ていたからだろうかと考えました。
「成瀬ひかる」さんはそのエリアでは多店舗展開している重要な取引先のドラックストアの店舗でのビューティ担当でした。以前付き合っていた恋人にスレンダーですが背は高い。化粧品の仕事をしている割にはややあっさりしたナチュラルなメイクで、激務になると、ニキビができたり、唇が少し荒れるときがあるぐらいでそれ以外は欠点のない美しい顔でした。
 その企業は、ドラックストアの中でも化粧品部門特にカウンセリング化粧品に力を入れ、なおかつ私の勤めていたメーカーの店内シェアも高いもので、社員の教育にも力を入れていました。
 化粧品メーカーとして、そのドラッグストアのビューティ部門の人材教育に関わり、提携協力していました。戦略的に、自社の知識も増してもり、店頭でも二択なら自社を薦めていただくような関係を構築していたのです。
 ひかるちゃんは、やや気分屋のところもあるが、勝気で大変仕事熱心な方で、化粧品部門だけでなく、店長代理的な仕事までこなしていました。女性の同僚や、先方の教育担当からも「個性的で気が強いがとても頑張る、ひかるちゃんはいい子だ」と絶賛し、引き継いでいました。眼光が鋭いというのか、目鼻立ちのはっきりした方ですし、やや低い声で的確な質問や返事をされ、私もその眼を見つめられ話しかけられると、ちょっとドキドキしました。
 私も当時営業成績を上げるためには、社内で管理だけしていないで現場に赴いて直接担当に依頼することもしていました。比較的遅くまで、担当者が遅番でいるひかるちゃんの働く店舗には夜に回ることも多く、ある時は決算で大変遅い時間に受注を頼みに回りました。

 【深夜のお手伝い】
 ひかるちゃんは「こんなに遅く何しに来たのか、忙しいから聞く間がない。注文なんか、品切れの自動発注以外探す間はない」とつっけんどんでした。
 夏なので、ノースリーブのTシャツに短パンとラフな格好で、パソコンに向かっていました。
 何か手伝うことがあればするので、話を聞いて欲しいというと、彼女はややキレ気味の挑発で言った。
「ここの籠車に入ったオリコン(折り畳みコンテナ)の商品を、全部部門ごとに倉庫の前に並べてもらえる。明日セールで、早朝からバイトが品出しするのに、ビューティの仕事だけじゃないの。人も少ない、店長も社長も何も分かってない」
 ざっと見ても、籠車2台、大型のコンテナが40以上、洗剤やらシャンプーなどはかなり重い。
「これ、成瀬さん一人でやる予定だったの?」
「そうよ。店長休みで、もう私が社員一人、店が閉まったら一人で整理よ。こんなの当たり前、驚くかもしれないけど、私細いけど、力持ちなの、だから作業で暑くなるから、Tシャツと短パンなのよ。だけど腕太くておっぱいちっちゃいから薄着はいやなの、あんまり見ないで」
「手伝わせてもらいます。部門が分からないものは、端末叩きます。たぶん、だいたいわかると思います」
「えっ、本当に手伝う気? 無理しないで、帰ったら」
 こちらも意地にもなり、かなり重いコンテナを右に左により分けて運びました。3つ4つやっただけで汗が噴き出ました。一人でやれと命令したひかるちゃんも私が半分ぐらいやると、一緒にやりだし、要領は向こうも心得たもので、それでも店が閉まって小一時間もしてようやく片付きました。軽快な動きで、細い体が躍動してまぶしい感じでした。ときおり見える脇の下もキレイで、少しコケティッシュに映りました。
 ひかるちゃんも汗だくで、白いTシャツが濡れて見えるほどです。
「ありがとう、井上さん、でいくらぐらい注文しとけばいい」
 この後も深夜にまだ一人で作業して、戸締りして、遅くに家に帰るのでは心配だとは思いましたが軽自動車で通勤しているから大丈夫と言われました。
 売上金の入った金庫や劇薬庫もあるのに、もしこんな事情が分かれば随分不用心だと思いましたが、カラーボールも木刀もあるそうで、私はその夜は会社に戻りました

【成長する好意】
 ひかるちゃんのおかげで随分助かりました。。
 それからひかるちゃんの店舗に、足繁くお手伝いに行き、負担を減らすように好意を持たれ、できるだけ便宜を図ってもらったりしました。しかし、お客様に強引な推奨はしないさっぱりした性格で、相手の立場をわかり、よく話を聞いて販売や相談をしている本当にいい子だと思いました。
 ひかるちゃんの頑張る姿をすごく好意を持って見てしまいました。12月に毎年発売さえる限定の化粧品も、なんだかんだいいながら、全エリアで2位になるほど頑張って予約をとってくれました。やはり自分の中で禁断的だと思っていた「成瀬ひかる」の存在が大きくなっていくのを感じました。

【資格認定式で】
 成瀬ひかるは、所属するドラッグストアのメーカー共催の研修を終え、ビューティⅢという資格認定と卒業を迎えました。そこの社長の方針で、劇的なサプライズなどを、当時お台場にあった私の会社の本社ビルに隣接するホテルで、豪華に盛りだくさんにする式典にするという一大イベントがありました。
 そんな大勢で東京まで出向くバブル期ならではの、冷めて見ればベタなものですが、お台場がブームで当時としては新鮮なものでした。何とか感動的なものにと、関係者は知恵を絞っていました。資格所得者は8名程度で、私はひかるちゃんともう一人、男性バイヤーと社内結婚の決まった同じ地区のオサコさんという女性のプレゼンター担当でした。
 スピーチ内容をエピソード盛りだくさんに考えていたのですが、この日はひかるちゃんは随分ナーバスになっていた感じです。
 私には何があったっかは分かりませんが、先方の幹部や、女性教育責任者、友人のオサコさんら同僚までが私に『成瀬をよろしく、うまく励まして』と依頼されました。私はかなり、ギリギリの内容でひかるちゃんや大勢の前で緊張しながらも、普段の仕事ぶりや人柄を褒める内容と、少しウケを狙った公開プロポーズのような告白を交え、参加者へのインパクトは大きかったと思います。
 オサコさんらが気を使ってか、ずっと私とひかるちゃんをくっつけた席にしてくれたいました。
 ところが社長の肝入りの感動動画(やや押し付けっぽい)が終わり、社長との懇談では、ひかるちゃんは堰を切ったように会社の体質批判をしゃべりだしました。他の資格所得者や社員の苦労を代弁し、この教育や人材育成も現場から乖離していると辛辣で実も蓋もない批判でした。
 社長もタジタジとなり恥をかいたような形で、その場は持ち帰りで、親睦会となりましたがひかるちゃんは資格も要らないし、辞める覚悟で直訴したようです。
 同期のオサコさんの結婚が気持ちが複雑になったのか、化粧品か医薬品登録販売の管理職を選ぶかの難しい悩みなどがあったのか、それを理解しない会社に不満が溜まったのか、ひかるちゃんの心の揺れはよくわかりません。
「どうせ私なんか、結婚もせず、ぼろぼろになるまで働かされるだけ、会社なんてもうイヤ」
同僚たちになだめられながら、ひかるちゃんの興奮はなかなか冷めませんでした。
 それでも私のスピーチ「ひかるちゃんの仕事ぶりへの思いの伝え方は良かった、井上さんがいたから成瀬が喜んでいるし踏みとどまれる可能性がある」と言われました。「井上さん、ひかりちゃんを離さないで、踏みとどまらせて」と周りからはやや複雑な激励をされました。
 

【2次会で泥酔】
 それでも、式典と親睦会が終わると少し落ち着いて、何と社長と教育責任者、オサコ夫婦とワタシとひかるちゃんが6人で飲みに行くことになりました。
 社長も現場を知らなかったことにはいたく恐縮して、お酒を注いで回りました。もちろん処分もないし、あれだけ言ってくれて感謝しているとも言われました。私の方へ来ては、成瀬をこれからもよろしくと言ってくれました。
「二人はお似合いだけど、つき合ってるの?」と言われこちらが赤面しました。
「そんなわけないじゃないですか、井上さんに失礼です、私なんかお付き合いできるわけありません」
 残念ながらひかるちゃんは慌てて、謙遜もありますが、即刻全面否定しました。
 これには私も思わずおいしいお酒を飲み進めました。
「じゃあ、井上さん、成瀬を責任もってホテルまで送ってやってください。明日はリラックスしてゆっくりお台場かディズニーかを楽しんでください。よろしくお願いします」
 社長たちは去りましたが、オサコさんたちとひかるちゃん4人になってもお酒はさらに進みました。ひかるちゃんはお酒は強いそうですが、さすがにこの日は飲みすぎたようです。
 オサコさんは、ひかるちゃんを送って行ってとは言われましたが、それ以上はダメとなぜか「成瀬とは、井上さん、今夜は送るだけにして帰ってあげて、明日はオフだからお台場を二人で回ったら」
 オサコさんは、同期で友人のひかるちゃんと私の事を進めたいのか、妬いているのかよくわからない態度でした。

 【ホテルで告白 撃沈?
 へべれけに酔って、肩を貸しながら、ホテルまで行きましたが、一度チエックインしたひかるちゃんですが部屋番号を覚えていないので、どこのブロックの何階のフロアかが分からず右往左往です。先に戻った式典参加の資格取得者の同僚ともフロアが違い、ずいぶん探してキーに見当たる部屋にたどり着きました。
 ホテルの廊下でも結構叫び、恥ずかしい思いをしながらやっと部屋に送り届けました。ベッドに寝かしたところで、見つめ合ってしまった二人です。
「ありがとう、井上さん、もうここでいいよ。これ以上親切にされたら、井上さんのことすきになるから、もう近づかないで、お願い」
「僕は成瀬さん、ひかるちゃんが好きだ。結婚したいと思っている」
「私も井上さんが好きになってしまった。でもこれ以上はダメ、嫌われたくないから」
 なおも近づこうとする私をひかるちゃんは突き飛ばしまし、バッグを投げつけました。
 バッグの中身が化粧ポーチから、財布やカード入れの中身まで派手に散乱して、ホテルの床にぶちまけました。
「落ち着いて、ひかるちゃん」
 もう酔っぱらい過ぎて、自分が何を言って何をしているのかもわからないのかもしれません。私はバッグを拾い上げ、散らばった鍵や携帯、化粧品、大金や大事な免許証や保険証、クレジットカードやポイントカード、小銭に至るまで全部バッグに戻しました。
 ちらりと見えた免許証の写真もかわいく、保険証や他のカードでもひかるが本名でひらがなの名前なのがわかりました。
「ありがとう。でもそんなに優しくしないで、私はこれ以上はあなたを好きにならない」
 私は落したものを拾い上げているとき、全てを理解しました。
 それでもひかるちゃんにもう一度近づき抱きしめました。
「分かったよ、、、分かった、悪い、のかな、成瀬さんの考えている気持ち、分かってしまったと思う。結婚とかもう言わない。それでも僕はひかるちゃんが好きだ、嫌いになることは絶対ない」
 ゆっくり、私は成瀬ひかるに顔を近づけて唇を、おでこに軽く触れさせました。キスが終わると私もひかるちゃんも少し目が潤みました。
「明日は早く起きれる? 予定通りディズニーシーに行こう、一日ずっと二人で遊ぼう」
「うん、起きれるよ」
 シーがオープンしてしばらくの頃だったか、台場からディズニーというのが、この認定式典での翌日のオフでも当時人気の定番だったのです。
 
 翌朝、ひかるちゃんはそこらのアイドルが絶対負けそうなぐらいの、ばっちりの勝負メイクとゴスロリファッションで朝食会場に現れました。フリルのついたピンクチョコレート色のワンピースは普段のイメージとは違いとても可愛く似合っていました。美貌でスタイルもいいひかるちゃんをさえない私がバランス悪く連れ歩くのかと気後れしそうでした。
 二人でミッキーとミニーの耳をつけて一日遊びまわり、美味しいものも食べました。
「今日は本当に楽しかった。いい思い出になる。こんな優しい人と一日一緒に遊べた」
「ひかるちゃん、会社は辞めるのかい?もう会えなくなる」
「ううん、会社はもう少し続ける。それも井上さんのおかげ、感謝してる。これからも仕事のパートナーとして、良いお友達でいましょう」
 僕もこんなに可愛い人との楽しい一日は今までなかったことで、いつまでも覚えています。帰りの新幹線は元々予約が別の列車だったので、二人は東京駅で別れました。


  ※   ※

【読者への挑戦状】
 もちろん、最初からお気づきの方もおられると思いますが、一応読者へ挑戦します。
なぜ、ひかるちゃん「成瀬ひかる」は私との結婚を拒んだのでしょうか。手がかりは全てここまでに書いています。コイバナシリーズの読者への挑戦でした。


  ※  ※

【後日談】
 その後も取引先相手として、成瀬ひかるとは良好な仕事の関係を続け、私はその後1年ほどして、今の妻と縁あって結婚することになりました。
 後にも先にも、私が同性とキスしたのはあの夜のあのホテルの部屋だけです。
 そう「成瀬ひかる」さんは男性だったのです。
 結構、大変な生き方だと思うのですが、ひた向きに一生懸命仕事されているひかるちゃんにはただスゴイなあと思います。

 蛇足的に、伏線としては、「説明不明の違和感」に始まり、
「『ひかる』という名前」男でも女でも使える名前
「背が高く」「やや低い声」「力持ち」「おっぱいちっちゃい」身体的特徴
「ドラッグストアで一人で深夜に戸締りをしていた」男なので任されていた
「ホテルで他の友達とフロアが違ったの」のはレディースフロアに入れなかったのです。
決定的に気付いたのは、ホテルの部屋の床に散らばったカード等の中に、保険証があり、それを拾い上げるとき見えたので、性別が分かったのです。免許証には性別は記載されていませんが、保険証には記載されているのです。
 
 その後、私は子供ができてから1度だけ子連れでディズニーに行きましたが、それ以降一度も行かずじまいです。

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