書評「土の声を」 長野から提言されるリニア問題

 私はどちらかと言うと「乗り鉄」ではあるが、関西に住んでおり齢60を過ぎて、さすがにもうリニアが大阪延伸した時が来て乗れるかというと我ながら生きているか自信がもてないのでどちらでもいい派です。
 別に生きているうちに是非にでも作って欲しいとも思っていないのです。

 しかしながら、新線や新システムがウダウダと着工されず、いたずらに投資だけで莫大なお金が契約したゼネコンに流れていく現状は何とも消化不良な思いです。
 いわゆる静岡の「水問題」で知事が反対してなかなか着工、調査すらままならず、大阪どころか名古屋開業もいつになるのかです。もちろん、ライフラインの根源であるところの水が枯渇するなどというのが事実であり得るならば大問題ですが、この書はやや冷静に、水ではなく「土」の問題にスポットを当てています。通過する距離も長く、工事面積が大きい長野県の新聞社が地元を取材して提言しています。

 本の名前の通り、リニア開発は水枯れの懸念だけでなく、残土の問題を抱えています。
かつて静岡県熱海市で盛り土によって土石流が発生し、多くの命が奪われてしまったが、JR東海の部長は残土置き場について「想定外」の災害を誰もが記憶しているというのに。「基本的に崩れることはない」との見解を示してる
と書かれています。
 その他、移転を強要され受け入れざるを得ない少数の農家、トンネル工事現場で死亡事故も起きたことや、トンネル残土の行き先問題、電力消費の問題など列挙されます。
「この報道はリニア反対キャンペーンではない」、取材を重ねた上で、根拠を持てれば「これはおかしい」「再考すべきだ」と言う点が出てきたのだとは釈明的に書いていますが「大都市圏間の移動を最優先するリニアは誰を幸せにするのか」というネガティブな視点での見方だとは思います。「国策民営」と言う言葉もいかにも批判的な四字熟語にしていますが、JRがやる以上、今の仕組みはしかたないでしょう。
 書いてあるほとんどのことは、高速道路でも当てはまります、日常的なCO2やエネルギー消費は道路の方がひどいですし、工事の水や土の問題も多く、なぜリニアだけというのは、この種の反対派の言い分として整合性に欠けるところです。
 森や山を切り開いて、道路をどんどん作っていくのも、自然観察している人間にとっては自然破壊以外のなにものでもありません。アリバイ作りのように金属のネットでけもの道を残しても、その通り鳥や獣は活動できないですし、土を移動すれば安全に盛ったり、コンクリートに混ぜても行った先の自然、生態系は確実に破壊されます。
 あくまで、自動車やリニアがそれよりも必要だと、決めたから、立ち退きがあり、工事があるのです。そこを全てお涙頂戴の逸話まで入れて、ごちゃまぜにするのは良くないです。
 土の問題のクローズアップは良いのですが、一つ一つの課題を是々非々で論説しないと、公平な新聞社のスタンスとはとても言えないのが残念です。
 内容そのものは、知らなった事実も多くて良い取材もされています。それだけに残念がつのります。

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