書評「赫衣の闇」 戦災孤児、、戦後の闇は文字で読んで想像する方がいい。

 三津田信三の2年ほど前の作品です。ミステリ色の強いシリーズと、ホラー色の強いシリーズの中間で、敗戦直後の時代の世相の悲しさを主題にしているように思えます。
 書評の中にはミステリとしてもホラーとしても物足らないと酷評もありましたが、私は個人的にはこの食べ物もなく、汚く貧しい時代が切なく描かれている作品が良いともいます。
 ネタバレ注意。密室で殺人が行われ探偵役も出ますが快刀乱麻を断つロジックの謎ときは最後まで語られず。ホラーのメインになる怪異も帯で煽るほどではなく、謎のままでした。
 背景となる戦災孤児、闇市、スラムのような長屋、三国人の差別。ドラマや映画、アニメでは戦争を挟む一代記などでも、よくこの時代が描かれます。
 最近公開のゴジラ-1.0にも戦災孤児が出てきますし、NHKの朝ドラには孤児を育てる話もあれば、美しいヒロインの兄妹が、元は生き別れた戦災孤児というものさえあります。ただ、これを映像にしてしまうと、もう想像がそこで止まってしまい、現代の女優さんがメイクして衣装を着て、セットの前で演技して、そこに映える姿が全てになってしまいます。
 映像は一瞬のうちに、沢山の情報が脳裏に入りますが、それ以上想像することはありません。文字だけから伝わる恐ろしさ、貧しさ、汚らしさ、醜さには底の知れないものがあります。
 シベリアで抑留されて、痩せこけて死ぬほどひもじい思いをしても、文字なら想像で入り切れる世界が、映像になってしまえばそれは、どんなにスゴイ演技でも、映画賞を受賞したりバラエティで宣伝をしている俳優のメイクをした姿なのです。
 ましてや、今のテレビや映画では、制約、制限があり過ぎて本当にその時代を再現することができなくなってしまっています。取り決め、興行としても、俳優さんを汚すのにも、表現できる自由度は下がっています。
 文字だけの小説はオワコンで、マニアックなものに成り下がっているとも言われますが、戦災孤児をまともにイメージできるのは文字だけなのです。オブラートに包んでも、この時代の衝撃的な社会を伝えたいという、山崎監督にしろ、NHK朝ドラの制作陣にしろ、スタンスは認めますがそれは入り口なのです。
 小説も良く調べられています。私も敗戦後の1950年頃を舞台にした小説を書きたいのですが、取材は大変です。リアルで経験していないとどれだけ調べてもこれでいいかと思います。
 三津田氏にしろ、山崎監督にしろ、調べ方の要領も進み、スタッフも慣れて映像化にはCGもあるとはいえよくできたものです。
 しかし、戦争に対する政治的な思いは少し違ったりもします。そのあたりは何ともです。
 残念ながら、そういうものかと思われては困る。そんなにきれいなもんじゃないということなのです。
 

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