元毎日新聞記者で、沖縄返還をめぐる日米間の密約報道を追求して、一度は逮捕投獄された西山太吉さんが24日、心不全のため北九州市内の介護施設で死去した。91歳でした。
彼をモデルにした山崎豊子の著書「運命の人」がベストセラーになり、ドラマにもなったためご存知の方も多いでしょう。司法を目指す人には判例でお馴染みの外務省機密文書漏洩事件ですが、一般にはスキャンダラスなところだけ印象に残り、あるいは時とともに風化して民主党政権以上に忘れさられているかもしれません。
分厚い原作を読む人も減っている時代です。また山崎豊子さんの小説というのはセミノンフィクションと言われどこまで史実かフィクションかがとても厄介なところがあり、美化されたり象徴的にされたり、想像上の人物が出てきたりはします。
それでもその旺盛で綿密な取材には舌を巻きます。概ね西山太吉さん=弓成亮太は間違いのないところです。
毎日新聞社記者の西山氏は71年、翌年の沖縄返還をめぐり米国側が負担すべき米軍用地の原状回復補償費400万ドルを、日本側が肩代わりするとの密約を示唆する機密文書を入手しました。文書の入手を外務省の女性事務官に頼んだことが、秘密漏洩のそそのかしにあたるとして、国家公務員法違反容疑で事務官とともに逮捕され、74年に毎日新聞社を退社。78年に最高裁で有罪が確定しました。世論の関心は密約よりもスキャンダルに移り、報道のあり方が問われた。
政府は密約の存在を否定していましたが、2000年以降、米側の公文書や元外務省幹部の証言で、相次いで確認されました。
山崎豊子の遺作にもあたるセミノンフィクションはアメリカと国家権力に対峙する孤高のジャーナリストを描いて、ぐいぐいと引き込ませます。実際には西山氏のやり方も現代では通用しない強引でコンプライアンス違反なところもあったでしょうが、根源にはジャーナリストとしての正義感があり、それを潰し泥まみれ悪役にして消し去ろうという、アメリカ追従の検察の思惑が見えます。
検察は直接アメリカからのハンドリングはなくとも忖度をし、また官僚全体の自己防衛や民間へのヤッカミなどが入ってくると思われます。どうしても出る杭を打ち、縛めとしてしまう傾向はあります。検察もまた正義感を持ち仕事をしていて、それが突出したものとは相いれないことになるのです。
「運命の人」に期せずして田淵角造という名前で金権政治家として後の今太閤総理田中角栄らしき人物も出てきます。角栄も当然そんな背景も酸いも甘いもウラを知っていたはずですが、この後の時代で政権を取ります。しかし田中角栄も日中友好などでアメリカににらまれたのか、早急な改革や地方へのシフトを警戒した官僚のせいか、スキャンダルで泥にまみれ急速に失速し逮捕されます。
「アメリカをないがしろにして中国などと外交」「官僚体制を揺るがす、過激な体制改革」は日本ではタブー的に、アメリカハンドリングの検察のターゲットになります。後にはマスコミもぐるになり袋叩きにされ潰されます。金丸信、中川一郎親子、鈴木宗男、小沢一郎、鳩山由紀夫、それぞれ脛に傷はあっても逮捕されたり死に追いやられるほどのモノではなく、一般の方も詳しい罪状など説明できないほど微細なものです。要はアメリカおよびそこに結びついた権力になびいたか逆らったかです。
アメリカと密約を結んで、ノーベル平和賞まで貰った佐藤栄作(作中では佐橋慶作)とその一族の発展による支配と、あくまでもその背後を隠蔽しようという体質は、当然今の、岸家安倍家の一族に受け継がれています。
朝日や毎日が、読売がとか言ってもしょせんは今は記者クラブのお仲間で、スクープ合戦も芸能レベルです。妾半ば公認だった時代とはスキャンダルのレベルも違います。日本の命運の根源をスクープするような攻防はないでしょう。日本の支配層を意識改革させるような、西山記者レベルの気概あるジャーナリストはもう生まれにくい背景ですが、次世代に期待はしたいです。