四国で出会った死にたい少女の事 天使が舞い降りる3 #人生応援 #コイバナ #大歩危 

景勝 大歩危

 清流吉野川の渓谷、大歩危から見える緑豊かな自然は、都会の競争のような生活の追われた心を癒してくれました。
 そこで私は奇妙な体験、女子中学生と会いました。
 自然の豊かな県は、自殺する人の割合が少ないとは言います。それでも、田舎ならでは閉塞感や、因習などもあるようで、不幸に命を絶つ人がいないわけではないものです。
 隣の芝生が青くキレイに見えるようし、都会に住むものは田舎に癒され、地方に住む者は、都会に憧れ、他所がいいように見えるのです。
 たまに、旅という移動により、気分を変え両方の良い部分を味わうことが、必要なのかもしれません。
 その年、私は自分を管理職にしてくれた上司を失い、反りの合わない以前の反主流派の連中から逆襲にあい不遇の会社人生を送っていました。
 難しいリクエストばかりの取引先を抱えさせられ、口だけの無能な上司に振り回されており、家族の病気で地元関西に帰りながらも、職権は狭められて苦しい状況で毎日がイヤでした。
 会社には、一日体調不良で有給を取り、家族には会社に行くふりをして朝早く、違う目的地に向かいました。
 鉄道が好きな私は休日に乗り鉄をすると、一般的な観光客や用務客以外に、同類とは思われたくなにのですが。鉄道マニアをよく見かけますし、だいたい見た感じで分かります。
 その点では、平日は現役世代のサラリーマンは通勤時間以外はいません。
 仕事や家庭でいろいろイヤなことが重なると、何もかも忘れてふらっと列車に乗り旅に出たくなりたくなることがありました。実際に行動まで出たのは初めてです。何となく後ろめたさもありました。しかし、すぐに気分が高揚していきました。
 あまり、行く機会の無かった四国、香川から徳島に回りました。
 見知らぬローカル駅に降り立ち、渓谷を眺めると、吸い込まれるような気分にもなります。
毎日は面白くないと、線路や、海や川に飛び込みたくなるような気持ちにもなります。しかし、川が上流から下流に滔々と流れ、時折列車が走る姿を見ていると、自分の悩みが小さくつまらなく思えてきました。
 コロナ禍の10年以上前ですが、平日なので景勝地でもそれほど観光客はいませんし、鉄道マニアももちろんいません。
 制服の女子中学生が渓谷を見ていました。手すりに細い両足で立ち、遠くを見つめています。制服なのは平日だからいいのですが、授業が始まっているその時間ということと、その雰囲気は異様、危険な匂いがしました。まさに渓谷をのぞき込み、飛び降りることを考えているようです。
 私は、ゆっくりと,そっと近寄りました。
 女の子も気配を感じ、ゆっくり私を見ました。
「そこは危ないよ」


死にたい少女
 私が呼ぶと、ほんの一瞬だけ、驚きと怖れを抱いた感じでしたが、じっと私を見つめて、やがて少し安心したような笑顔になりました。私はゆっくりと渓谷側にまわり、少女を道の方に誘導しました。
「良かった、優しそうな人で、学校や親に言いつけないで、私このままここにいたいの。おじさん?お兄さん?どう呼んだらいいですか、先生とかおまわりさんではないでしょう」
「君のお兄さんならせいぜい高校生か大学生だからね。おじさんでいいよ、たぶん君のお父さんと同じか年上くらいだと思うから」
 女の子は、本当にほほ笑んだ。私の顔をじっくりとよく見てくる。

「うわあ、本当にいい人だ。久しぶりに見る。おじさんって呼んでもいい。でも私おじさんが大好きなの。お父さんはすぐ暴力をふるうし、先生も怖いしね。同級生も変なことするのばっかり、大人もおじさんみたいに時々優しい人はいるのね。まわりはみんな今はイヤなやつばかりで、おじさんみたいないい人がなかなかいない」
「ぼくがいい人って、どうしてわかる?」
「それは、顔見れば、よく見て、表情とか態度、息遣いで私だいたいわかるよ。外れたことはない。人に言うと気持ち悪いって言われるからあまり言わないけど、特技かなと思うくらい、人の性格も考えてることもわかる」
「言いつけたりしないけど、ここで何をしてるの、そのうち見つかるよ。セクハラとか痴漢とか騒がないと約束するなら、少し話をしよう」
「私これから、どうしたらいいのかわからないの。もう生きていたくない」
「じゃあ、おじさんを信じて、もう少し時間を、そう小さな旅をしよう」 
 父親のDVか、学校のイジメか、原因はわからないが、中学生ぐらいにはありがちのことだ。
 騒がず、時間をおいて、気分を変えさせようと考えて、私は彼女を半ば強引に観光地最寄の駅から、電車に乗りました。ちょっと、拉致犯みたいで怪しまれないかと思いましたが、堂々としていればサラリーマンの恰好ですから、親子に見えたでしょう。
 いずれにせよ、このまま彼女に死なれたらこちらも、面倒くさい以前にやはり後悔します。海に近い見晴らしの良い駅に降りて、歩きました。
 彼女の事情は一切聞かず、自分に言い聞かせるように、自然の風景を眺めていました。
「もう少しだけガマンできれば、大人になれる。楽しいこと、いいこともあるし、今まで知らなかったこともわかる」
「大人になると、いいことがあるの?大人を見てるとそう思えないよ。おじさんは大人になっていいことがあった?」
「厳密、そう正直に言うと。大人の方がもっとつらいこともある。いいこともあるけど、悪いこともある。でも子供のうちに死んでしまうと、何もわからないうちに死ぬことになる」
 草木が生い茂り、遠くに波の音や漁船の音も聞こえる。遊歩道にひらひらと蝶が飛び、カモメが遠くに群れている。
「この蝶々は、たぶん何か月か前は葉っぱの上を這うしかできない幼虫だった、運よく羽化できた。大人になれたから、空を飛び見る世界は変った。仲間と交わり、次の世代の子孫を残すことができる。いいとか悪いとか、楽しいとか辛いとかではない。子どもの時しか知らないで人生が辛いからと、捨てるのはもったいない。あの蝶やカモメは苦しいとか辛いと思わずに大人になった」
「海外に行ったことはある?」
「ない」
「東京に行ったことは?
「ない」
「じゃあ、もったいない。働いたら、東京に5回でも10回でもいける。海外旅行もおじさんが若い頃は高くていけへんかったけど、今は少し働いてお金ためたら、若い人でも何か国でも行ってる。世界の5ヵ国ぐらい見て、それから死にたかったら死んだらいい。外国のことわざに『ナポリを見てから死ね』というのがある」
「私みたいなんが働ける?大人になれる」
「誰でもそう、不安だよ。でも時が経てば、大人になっている。
 君は、人をよく観察してどういう人物かわかる洞察力に長けている。接客や営業でも、カウンセラーになれる。看護師や、ダンサーや女優でも何にだってなれる。まっすぐに、一生懸命勉強して、その道の技術を磨けば、なりたい仕事につける。親とか友達は大人に成長する時周りにいる人達であって、それ以上でも以下でもない。
 先生や親の言葉に響かなくても、関係ない有名人、俳優やスポーツ選手、インターネットの言葉に感動して、真似して頑張ってでも、なりたい自分を目指せばいい。頑張る以上必死になることだ。僕なんかも頑張ったつもりが中途半端だったから、大人になっても悩む。でもそれでもまた何かは励まされて、勉強して少し大人度が増していく、そういうものかな」
「、、わかった。お金貯めて、世界中旅して、つまらなかったら死ぬ。もう少し頑張る」
「家に戻れるのか?家族から暴力とか受けてるんじゃないのか」
「ううん、父は手が早いし、武道やってて乱暴だけど、言うことを聞いていたら何もしない。ただ古臭い考えやしきたりを押し付けるのがイヤやっただけ」
「学校は?」
「グループに入らなければ何とかなると思う、やってみる。おじさんは?どこで何をしている人?」
「大阪で化粧品の会社で働いているだけの普通の人」
「すごい、化粧品の会社ってキレイな人がいっぱいいそう」
「そう、キミも学校を出たら、ビューティの仕事もいいかもしれないよ」
「いつか、おじさんにまた会うまで、死なないで頑張ってみる。だから、私を忘れずに見つけてね」
 少女は私の胸にしがみついた。何とも言えない、柔らかい甘い感触。
「キミの名前は?」
 踏切音がして、ガタゴトと列車が到着します。元来た方向に戻ります。
 人を助けたことによって、自分自身のスランプもふっと消し飛びました。つまらないことにクヨクヨしていた自分が馬鹿らしくなりました。
 翌日から、また開き直って仕事、仕事でした。家族もかまわないといけないのですが、自分が愚痴らず、明るく仕事をしている姿が家族の少しでも励ましになるのです。
 この頃、会社人生でも一番厳しい時代、化粧品会社が粉飾で事実上倒産で、産業再生機構の傘下となり、再建の道を模索します。
 あの時、出会った少女とまさか出会うことがあるとは思いませんでした。
「カナ。水島香菜です」
                            (つづく)
 
梅田の聖地でピンチに 天使が舞い降りる2  #コイバナ #ラノベ #人生応援 #ハロウイン – 天使の星座 (seizafpkotodama.com)

梅田の奇跡 天使が舞い降りる1 #コイバナ #ラノベ #人生応援 #ハロウイン – 天使の星座 (seizafpkotodama.com)
 

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