映画レビュー「フロントライン」危機の戦い

 マスクやワクチンで大騒ぎし、移動や活動の規制など長いコロナ禍の3年も今はおぼろげな記憶になりつつあり、その始まりの頃の武漢のニュースやダイヤモンドプリンセスの事件はさらに遠いかすかなもになりつつあります。しかし、今ワクチン報道の在り方などとともに再度認識と検証が進む中で、ドキュメンタリーとして本や映画が世にでたことには大いに意義があります。

 興行的なインパクトは時期的に微妙ですが、考えさせられる良い映画でした。
 展開も緊迫感があり、フクシマ50と並ぶくらい、使命感だけで命を投げ出す男たちにこちらも熱くなります。
 指揮官結城と現場医師仙道のバディ感と、役人ながら杓子定規から型破りになる厚労省の立松と、小栗旬、窪塚洋介、松坂桃李がそれぞれ躍動感ある演技で魅了されました。

 最前線で闘う隊員たちは向けられた“差別と偏見”のまなざしとも戦います。いやらしくつきまとうマスコミを光石研と桜井ユキが演じて、外国語に堪能で優しいクルー森七菜に癒されます。(マスクしてる場面ばかりでクレジット見るまで誰か分からず)

【以下、公式HPなどの紹介文より】
 2020年2月、乗客乗員3,711 名を乗せた豪華客船が横浜港に入港した。香港で下船した乗客1人に新型コロナウイルスの感染が確認されていたこの船内では、すでに感染が拡大し100人を超える乗客が症状を訴えていた。出動要請を受けたのは災害派遣医療チーム「DMAT(ディーマット)」。地震や洪水などの災害対応のスペシャリストではあるが、未知のウイルスに対応できる経験や訓練はされていない医療チームだった。対策本部で指揮を執るのはDMATを統括する結城英晴(小栗旬)と厚労省の立松信貴(松坂桃李)。船内で対応に当たることになったのは結城とは旧知の医師・仙道行義(窪塚洋介)と、愛する家族を残し、船に乗り込むことを決めたDMAT隊員・真田春人(池松壮亮)たち。彼らはこれまでメディアでは一切報じられることのなかった<最前線>にいた人々であり、治療法不明の未知のウイルス相手に自らの命を危険に晒しながらも乗客全員を下船させるまで誰1人諦めずに戦い続けた。全世界が経験したパンデミックの<最前線>にあった事実に基づく物語。

 緊急事態ということで、結城の無茶な提案もズバズバとゴリ押しや後付けで決めていく松坂桃李演じる厚労省の立松がカッコいいです。少し前のドラマでも文科省の型破り役人を演じていましたが、最前線でこんなに臨機応変の対応ができる役人がいるのか、それが甘受できるならなぜ、日本の官僚はこんなに閉塞しているのか嘆きたくなります。

 逆に言うと、日本の官僚は平和で緊急事態と考えられないから、杓子定規、法令遵守、前例踏襲のまったりした役人仕事しかできないのです。

 数年前の『シン・ゴジラ』という映画も、怪獣に襲われた危機の日本で武器使用など臨機応変さがなく、ほとんど機能しない官邸が面白おかしく描かれていました。日本はもう一度外敵か、怪獣か、ウィルスにでもやられ焼け野原にならないと、緊急事態だと思わないのでしょう。少子化、人口減少はもはやゴジラやコロナ以上の問題と気付かないないのでしょうか。

 ダイヤモンドプリンセスの最前線チームが必死に止めたことも、結局は対外的な印象を良くした程度です。結局他からの旅行者もおり、コロナの全国的感染蔓延は止められないものです。それでも1カ月でも止めたことが、医療体制の準備やケーススタディに奏功したのか、正確なことはわかりません。

 しかし間違いなく、毎年80万人もの人口は減っている日本に、最前線には多くの優れた医師、スタッフ、研究者、役人、企業人らが頑張っていることは分かります。そして立松のような官僚が上に立つことが今の日本に必要なことがよく分かります。

春クールのドラマ評:まったり癒される俳優たち

 4月スタートも春クールドラマも、最終回を迎えたものが増え、概ね最終翔までは来ました。朝ドラ「あんぱん」は9月までで半分すぎたところです。
 終了時期はまだですし、一部は録画したままで、全部見てはおりませんが、好みで独断、話題になった者だけ拾います。

 アイドル路線の朝ドラは基本見ないのですが、ダイジェストやパブリックで映る場面などで少しだけ視聴しています。旬の役者を集める予算はスゴイのと、終戦80年の節目ということで、戦争を描く時間が長いようです。出征とか、戦中の暮らしは最近もたびたびありましたが、軍隊の中のシーンは最近では珍しい気がします。
 朝ドラヒロインというと、明暗というか、今田美桜と仲の良い同世代でヒロインは先輩になる永野芽以がスキャンダルで、今クールの日曜劇場「キャスター」が終了して、いよいよCMもドラマもしばらく地上波では見られないことになります。
 配信で、見逃した映画で永野芽以を見ようかなと思います。阿部寛らの健闘もありましたが、内容がテレビ局のニュースショーということでは、少し掘り下げ不足とご都合主義で物足りない面もありますが、さすが日曜劇場というレベルではあります。

 今田がポスト永野という向きもありますが、すでに人気者であり、多少は回る仕事もあるものの、すでにこれ以上の忙しさにはならないと思います。
 それにしても、番手からぐいぐい上がった今田さんそれなりの魅力と実力です。おかえりモネでは清原果耶の気象予報士時代編の同僚、「3年A組」では、永野さんはおろか、福原遥、上白石萌歌、森七菜、堀田真由、川栄李奈よりもモブキャラ的な突っ張った感じの女の子でしたが、先輩の朝ドラヒロインもイッキに抜き返してごぼう抜きです。

 芳根京子も、前クールから連投、「波うららかに、めおと日和」時代は違うものの安定化のある実力派を示しました。「対岸の家事」多部未華子のドラマも社会派的な内容も濃いものでした。
 もはや、朝ドラヒロインだったことを忘れるようなベテラン、実力派です。

 NHKの土曜枠の「エンジェルフライト」米倉涼子、松本穂香の海外葬送モノも、ロケも役者も良かったです。 松本さんのキャラはぶれないです。

「失踪人捜索班 消えた真実」テレ東ですが、町田啓太主演でなかなか楽しめました、光る君への天皇役を思い出させて和泉式部役だった泉里香とは夫婦役で、難しい事件を追います。悪の描き方は、何ともステレオタイプですがいい内容でした。

 間宮祥太朗主演の『イグナイト -法の無法者-』も個人的な引き込まれて楽しめました。

 6月で春ドラは終了で、少し寂しい季節です。CMでもトリスをはじめいくつか出ていた永野芽以のが消えて無常な感じです。「虎に翼」でブレイクした伊藤彩沙莉が、奢ることなく落ち着いた感じでCMにも出ているのが、和ませてくれます。

話題の映画評「かくかくしかじか」

 スキャンダルの影響で、私などは話題になってるとも思いますが、テレビなどで番宣できず、モラル厳格派な人がアンチになって、興行的には最初の日曜でも、回数と客数、予約状況見ても少なく、厳しいようです。良い映画との評判は出てきていますが、劇場まで行きたくもないという感じでしょうか。逆に応援しいたくなりますが。
 漫画家東村アキコの自伝的誕生秘話と、そのスパルタ恩師との出会い、成長と別れを描きます。

 他の生徒たちや、家族、恋人も出ますが、基本は漫画家を目指す主人公視点と、自身の葛藤や怠惰と成長、絵画を教えるパワハラの変人恩師との攻防がほとんどです。

 主人公の漫画家を演じる女性俳優は、テレビでのブレイクのキッカケとなったヒロイン役の朝ドラ「半分青い」と同じ、漫画家を目指す現代的で、怠けもするがまっすぐな女性です。
【以下ネタバレ注意】

 朝ドラのすずめ役では漫画家に挫折しますが、こちらは壁を乗り越えていけるでしょうか。まあ、自伝なので漫画家として成功したのは冒頭を見なくても分かります。注目すべきは、やはりもう一人の主役の恩師、日高先生役の上手さです。

 友人役で、今ブレイクの見上愛さんがクールな役どころをうまく演じています。

 宮崎、金沢、首都圏と最近の映画はロケはキレイに収めます。

 スキャンダル問題で、御蔵入りにならない判断がされたのは良かったですが、見る人が減るともったいない話です。本来、芸能人や芸術家は芸は達者でも破天荒で、抜けたところが多いはずです。重大な刑事犯罪でもないのに、マスコミが煽って一般人がネットで攻撃し、世論を慮ってテレビやスポンサーが本人申し開きも信じず自主規制するのかいかがなものかと思います。

 実話に題材と思われる伝記的なストーリーだけに、漫画家や画家という奇矯も許される職業をコミカルにまたホロっとくるように描かれます。


 騒動で、東村さんが「二重人格」と嘆いているのは、スキャンダルの俳優さんではなく、このタイミングで砲撃してきた付き合いもある週刊誌元の出版社のようです。俳優さんは画家、芸術家と同じ映画で描かれている通り奔放なもの。
 いきりたって正義感になって、CM削除しない会社を糾弾するネット民こそ二重人格なのでしょう。

映画レビュー「花まんま」朱川湊人原作

 朱川湊人さんは好きな作家で、以前は短編集はほぼ読んでいました。この原作もかなり前に読んでいたのですが、ここまで映画化されるという強い印象はなかった気がしました。

 予告編を見たり、封切りからも随分経っていたので、原作とはだいぶ変えているというのは分かりました。映画の出来は素晴らしく、原作を盛ったというより、素材にして大きく飛躍したという感じです。朱川さんは同世代作家でホラーテイストの昭和の下町の人情や奇跡的な偶然を描きますが、昏いイメージも強く、そこを現代にうまく加工しています。
 【ネタバレ】というか、ほぼ原作は回想時間に使い、後日談のような現代がメインです。令和の今年のカレンダーのようなので、30年後という以前の設定すら、原作の昭和40~50年代よりも今よりにずらしているのではと思います。

 少し、もやっとした気分の時期に、映画館に行き、隣にポップコーンを頬張る女性とカップルみたいな感じで、その横は車いす用スペースで、前が通路のゆったりした席で鑑賞できました。
 冒頭から近鉄バファローズの三角帽子の主人公になる少年、大阪の昔の下町の象徴なのか、それでも当時少年は巨人か阪神に憧れる子が多かったのですが、そこは近鉄推しにはにやりです。関西以外の人にはどうかなとも思いますが、大阪から、京都の大学、滋賀彦根とロケもいいですし、キャストもほぼオリジナルで、関西のおばちゃんと看板娘の間くらいの、ファーストサマーウイカさんとか、オール阪神巨人が関西の下町感を出しています。
 鈴木と有村もですが、カラス言葉をしゃべれるヒロインの婚約者で学者を、鈴鹿央士が好演しています。彼方側の家族もみんな好演、六角精児、キムラ緑子ももちろんいい味なのですが、父親役のキーマン酒向芳が素晴らしい。個人的には妻のお父さんを思い出しました。娘を結婚させるのは、大事なイベントです。
 近江鉄道もロケに全面協力で、蹴上のツツジ園、同志社の大学も出てきます。

 最後は、感動で隣の女性とともに涙ボロボロ。

 

新 「新幹線大爆破」レビュー

 1975年制作の東映映画佐藤純弥監督、高倉健らオールスターキャストの「新幹線大爆破」というサスペンス・パニック映画の50年を経たリプート作品です。
 今回の作品は1975年のリメイクではなく、旧の映画の世界線上の続編になるようなストーリーで現代を舞台にしたリプート、配信作品です。

 昭和の映画も良かったので、高倉健や千葉真一、丹波哲郎、宇津井健、山本圭らを、今回の草彅剛、斎藤工、のんさんらと比べることは野暮です。おかえりのんちゃん(ちょっと前に別のドラマでゲストでは出られましたが)おかえりピエール瀧さん。

 以前は国鉄が全く協力しなかったので、模型や遠景でしか新幹線が撮れなかったのですが、今回はJR東日本の全面協力、ロケもCGもあり、乗客には有名なYOUTUBERもいるのは時代です。

 劇場で上映していても観に行きたかったのですが、Netflix限定配信で、ホームシアターのある家ではないので爆発音や走行音を迫力あるサウンドで味わえなくて残念でした。もう映画館の時代ではなくなってきているのです。それも時代です。
 のんさんとピエール瀧さんの重要な役での出演も、地上波ではまだ実現できなかったものです。

 そしてネタバレにもなりますが、鉄道好きから見ても、十分楽しめるシーン満載です。そんなことが可能なのかという、乗客救助作戦は感心しました。今回はJR東日本で、昭和の映画は東海道のひかり号でしたから東京駅での接点はあり、そこからの夢の作戦は却下にはなったのですが、鉄道ファンを唸らせるものがありました。
 英語名はBULLET TRAIN EXPLOSIONでスーパーエクスプレスではないのです。新幹線というのはシンカンセンでも通じる、いつまでも「新」なのは面白い日本語です。
 大阪万博でも55年、この映画からももう半世紀なのかと、感慨のトシです。

映画レビュー:豪華三人ヒロインの「片思い世界」

【紹介文】より
「花束みたいな恋をした」の脚本・坂元裕二と監督・土井裕泰が再タッグを組み、映画やドラマの主演も多い実力派国民的俳優の広瀬すず、杉咲花、清原果耶の3人がトリプル主演、強い絆で結ばれた3人の女性が織りなす日常と究極の“片思い”を、オリジナル脚本で描きだす。相楽美咲、片石優花、阿澄さくらの3人は、東京の片隅に建つ古い一軒家で一緒に暮らしている。それぞれ仕事、学校、アルバイトへ毎日出かけていき、帰ってきたら3人で一緒に晩ごはんを食べる。リビングでおしゃべりをして、同じ寝室で眠り、朝になったら一緒に歯磨きをする。家族でも同級生でもない彼女たちだったが、お互いのことを思いあいながら、楽しく気ままな3人だけの日々を過ごしている。もう12年、ある理由によって強い絆で結ばれてきた3人には、それぞれが抱える“片思い”があった……。

 美咲が何かを告げようと焦燥する相手、3人と同じ記憶を胸に秘める青年・高杉典真を今ときめくイケメン俳優横浜流星が演じます。

 この映画、これ以上書くとすぐネタバレになって難しいです。女友達三人を人気俳優が演じ、横浜流星君との恋愛で絡むと思いきや、何だかこの三人違和感があるのです。その謎こそネタバレです。
 ロマンスというよりは、全くのホラ-みたいなファンタジーなのでした。
【ネタバレ】要は3人とも、〇ーストなのです。3人がホラービデオを見て、キャーキャー怖がる場面も笑えます。

 朝ドラヒロイン出身3人と大河主演俳優も出演ですが顔見世以上に内容ではあります。ちなみにこの3人の共演情報が随分前にあったのですが、公開が遅れたのは監督スタッフが巻き込まれた交通事故があって。これはちょっと被害者側で何も監督らは悪くはないのですが、映画の性質上洒落にはならない事件でした。
 10代から活躍するライバルであり友人でもある若い3人が、よく頑張っておられます。中でもやはり杉咲花さん、スイッチが入った時の集中する演技はスゴイなと改めて思います。
 当初、他のヒロイン2人に比べ自分はオーラがないからと、恐縮してましたが、宣伝のトークなどでは仲の良いところも見せていました。その上でのライバル心と競争心、普段の努力と芝居に賭ける熱意のようなものは一番でしょう。

 流星君はもう何やってもかっこいいし、多忙なスケジュールの中ピアノにも取り組んでいたようです。

 俳優さんの魅力を伝えるという意味ではアリかなと言う映画です。

旅先で読んだ 華麗なる一族の、女性活躍大正ロマン

 2025年のこのミス3位ということで、ミステリ好きだけではギブアップする時代もので文庫本でも1200円ぐらいする長く重い物語です。ミステリというより時代モノで、名家での女性の半生を描いた読み応え十分の内容で間違いなくオススメです。最初は登場人物の名前なども昔の女性ですから短いので誰が誰か覚えるまで私も感情移入が難しかったものです。
 本当にこの時代の文化、史実、風俗を良く調べて物語にしてます。著者は私より少し年下の女性?参考文献リストだけでも厖大です。維新後の発展、戦争景気の波など家を取り巻く状況は変化して、火事や病気などミステリ要素以外でも事故や事件も頻発するわけです。
 常に主人公かな子の視点で、目の前の事象と思いが描かれるのは小気味いいほど正統派な小説です。


【紹介文より】
 『細雪』×『華麗なる一族』×ミステリ!
「女であっても、私はすべてを手に入れたい」
富豪一家に拾われた娘のたったひとりの闘いが始まる。

横濱で知らぬ者なき富豪一族、檜垣澤家。当主の妾だった母を亡くし、高木かな子はこの家に引き取られる。商売の舵取りをする大奥様。互いに美を競い合う三姉妹。檜垣澤は女系が治めていた。そしてある夜、婿養子が不審な死を遂げる。政略結婚、軍との交渉、昏い秘密。陰謀渦巻く館でその才を開花させたかな子が辿り着いた真実とは──。小説の醍醐味、その全てが注ぎこまれた、傑作長篇ミステリ。

 と謳われていますが、書評の中にもこれがミステリ?と言われるほど、ミステリ色は薄いです。事件の真相を解決するという意味では広義の非本格であり、小説としては正統派なのでしょう。

 着物や家事の作法などよくこの時代のことを見てきたように再現しています。スペイン風邪の猛威と対抗策はもちろんコロナを彷彿させます。戦争の軍靴の音も聞こえだす、そして大正の関東地方の大災害へと物語は進みます。

 仕事の行きかえりの短い時間では読み進まず、旅先の車中とホテルでようやく読めました。カバーはしてましたがさすがにカバンの中でくしゃくしゃになりました。

さすがに原作者とファンは怒る 映画レビュー&書評「少年と犬」

 原作を急いで再読して、ポスター見ると西野七瀬が印象違うヴィジュアルなので、期待して映画館に行ったけれど、泣ける?というのは感動というより残念過ぎて泣けてくるような映画でした。

 原作から設定の大幅な変更含め、改変するのはアリとは思うんですが、さすがにこれでは改悪、ぶち壊しとの抗議がでそうです。高橋文哉くんと七瀬マルのファンで出てるのを見たいだけならいいですけど、ネタバレにもなるので書けませんがさすがにため息です。

 東日本大震災で飼い主を失い、仲良く遊んでいた子供が、母の実家にある熊本に転居したため、残された犬がひたすら西へ南へ向かいます。原作は短編エピソードを重ねる連作形式、さまざまな人と出会い、助け、助けられながら終着の地で感動の再会なるかという話なのです。

【ネタバレ】熊本というキーワードでピンと来る人もいるでしょうが、その通りです。それにしても映画はエピソードを一部使いながらも、語り手と主人公を西野演じる美和の視点にまとめてしまいます。それも悪くはないし、西野は悪女っぽい美人が多かった最近別人かと思う、薄化粧の地味な女性で登場し、全体的には好演といえますが、その伏線が回収されるとやはり不自然な印象です。
 若い二人は犬につながる以外は、共感できないようなダメ人間ですが、更生をして新生活を夢見るバディ旅ものにするかと思うとファンタジーで「あれっ」て感じです。もっと犬の鋭い能力、その感情に移入できるような視点にしないと何もかも中途半端です。
 ロケもお金かけて、斎藤工、江口のり子、柄本明など脇を固める豪華な助演者もそこそこ頑張ってる。それだけに脚本の雑で残念な点が目立つのです。
 

65歳から夜間学校に通う勇気に感動

 
 花粉症で目がかゆいので、「少年と犬」は涙出そうなので避けたつもりが、かえって泣ける映画を観てしまいました。
 【以下、ストーリーネタバレあり】
 笑福亭鶴瓶さんと原田知世さんが夫婦役を演じ、最愛の妻にラブレターを書くため文字の勉強に奮闘する読み書きできない夫と、彼を長年支え続けた妻の人生をつづったヒューマンドラマ。2003年に朝日新聞で紹介され、創作落語にもなるなど話題を集めた実話をもとに映画化されたものです。

 戦時中に生まれて十分な教育をうけることができず、文字の読み書きができない65歳の西畑保と、いつも彼のそばにいる最愛の妻・皎子(きょうこ)。貧しい家に生まれ、ほとんど学校に通えないまま大人になった保は、満足な就職もできず虐められ生きづらい日々を過ごしてきた。やがて皎子と運命的な出会いを果たし結婚するが、その幸せを手放したくないばかりに、読み書きできないことを彼女に打ち明けられずにいました。半年後、ついに事実が露見し別れを覚悟する保だったが、皎子は彼の手をとり「今日から私があなたの手になる」と告げます。どんな時も寄り添い支えてくれた皎子に感謝の手紙を書きたいと思った保は、定年退職を機に夜間中学に通いはじめるます。
 古い町並み、平城京跡、奈良公園と美しいロケーションが、感動の物語を彩ります。

 重岡大毅さんと上白石萌音さんが若き日の保と皎子をそれぞれ演じ、夜間学校の教師に安田顕さん、保を雇い入れる寿司屋に笹野高史さんも好演。江口のりこ、くわばたりえが脇で共演し、塚本連平監督が脚本も手がけたました。

 鶴瓶さんやはりいい味を出していますし、重岡くんの純朴さもさもありなんです。昭和から平成のロケは案外、ツッコミやすく難しいのと、苦労はしてもあんなに出来過ぎた奥さんに巡り合えるのには一番羨ましくツッコミたくはなるのは令和の映画なのでしかたないところです。

 それでも、何の学もない65歳が夜間学校でひらがな、カタカナから20年かけて学ぶ姿というのは、素晴らしいという言葉ではいいつくせないこみ上げてくるような感動的な姿です。目的はどうあれ、生半可ではできないでしょう。逆に65歳からもう一度人生の2周目を生きられたのですから羨ましいほどの幸運かもしれません。世間の多くがリタイアしてのうのうと暮らしたり、過去の栄光にひたりながらも老いの不安にさいなまれる時、人間はいつからでもリセットして学び直せるのだということを証明してくれています。

人生は前に進む時ばかりではない

「上昇志向」とか「前向きに」があたかも良いように言われます。しかし、人生は言ってみれば公園やテーマパークの遊具のようなものです。

 ブランコのように前の進む時もあれば、後ろに下がる時もあります。後方に行くときがあるから、前に動くと感じるのです。ずっと前に進んでいるものではありません。

 シーゾーやジェットコースターも上に行ったり、下に降りたりするから上る前が楽しいのです。
 どんなに動いても最後にはみんな元の位置に戻るのです。

 今がどん底と思う人はこれから上がるのが楽しみなはずですし、逆に上り詰めている人は下がる時がきます。人生は上り詰めた時よりも、どん底から上がっていくときの方が、実はたのしく充実しているように振りかえることができます。