飽食時代の飢餓、賞味期限の罠

 能登半島地震で避難所や被災地での活動などで支援物資の中に賞味期限が切れているものが含まれることが問題となり騒がれニュースになりました。石川県のある被災自治体では、避難所に届いた支援物資の中に、賞味期限が2019年8月で切れたドリンクや、賞味期限が切れている食品が含まれていたと報じられています。
 しかし、賞味期限が切れていても飢えや渇きをいやすことはでき、どうしても不快に思うなら口をつけなければよい話です。ゴミになるとかいうのは違う話です。非常事態に性急で間違いもあります。緊急避難的に、飢餓状況の被害地域に送るのに、腐敗していない限り十分に食べられるし、飲めるものです。

 飲料、水の賞味期限は設定されていますが、密封されているペットボトルは全く問題ありません。本来、水だけなら腐敗はしません。ペットボトルの素材に使われているポリエチレンテレフタレート(PET)にはわずかに気体透過する性質があり、お水が蒸発することで少しずつ容量が減ってしまうのです。量が減ってしまう恐れがあるため、念のため設けているのです。つまり、ペットボトルのお水に関しては、賞味期限が切れたら飲めなくなるというものではなく、未開封の状態で保存されているのであれば、口にしても問題ありません。水は人体にも生活にも欠かせませんので、いくら賞味期限切れでも送ってもらっても良いものです。

 賞味期限が切れた食品を食品棚や冷蔵庫で見つけるとすぐ「食べられない」「飲めない」と捨てる人がいます。しかし、賞味期限は、科学的な検査等で得られた「おいしく食べられる期限」よりも少し短めに設定されています。たとえば、製造日から120日間、おいしく品質にまったく問題ない製品であれば、120に「安全係数として0.8をかけ算して96日後を賞味期限とする」という具合です。この場合、賞味期限後の24日間は、おいしく食べられます。その後、緩やかに風味等は落ちて行きますが、すぐに食べられなくなるわけではありません。安全係数として1未満のどんな数字をかけ算するか。その判断は事業者自身に任せられています。
 もう一つ、食品ロスの問題も含めて、「賞味期限」のおかげでメーカーや生産者は大変だと一般の方は誤解されています。私も食品も扱う総合日用品メーカーに勤めてましたが、食品衛生法にのっとり、消費者庁や厚労省の指導はあるものの、私に言わせれば実は大企業と政府がぐるになって儲けているような構図です。
 確かに和菓子の大手やいくつかの業者で、コスト削減のため賞味期限の偽装などが問題になりました。
 しかし、多くの場合、とくに加工食品の原価率の割合は低いので、売れれば回転が上がりどんどん儲かります。賞味期限があれば、卸せば売れればもちろん売れなくても時間が経てば廃棄されて、在庫はなくなりまた仕入れてもらえます。大手メーカーにとって、こんなに計算が立ちいい設定はないのです。
 流通段階で消費者まで渡らず在庫が溜まると普通は次の商品は売れるまで卸せません。ところが賞味期限が設定されていれば、例えばお菓子や牛乳、インスタントラーメンなどなら、期限を見つければそれに合わせ客は消費します。流通も売上を細かく予想しますが、売れなければ安売りで掃くか、社内消費や廃棄に回ります。そうすると、いったん生産者を出た商品は返品規定のないモノであれば、確実に賞味期限までに在庫ゼロになり、需要サイクルの見込める商品は計画的に作り、卸に送り込むことができるのです。
 これが無い時代は、八百屋さんやら食料品店には下手すれば何年もずーっと売れない商品が置いてあったものです。緩やかな時代だったとも言えます。
 もちろん、モノによっては美味しくなかったり、具合が悪くなったりしましたが、消費側も古そうなら良く火を通すとか、捨てる判断もしていました。
 実際、戦後しばらくは、敗戦で路頭に迷い多くの飢餓で食べられない子供や浮浪者が、ホテルの残飯をごった煮のスープやシチューか分からない本来不潔なものまで美味しく食べて飢えをしのいでいたという話です。
 菓子などで賞味期限偽装があったのは、本来儲かる構造でありながら、それでも時代の流れなどで利益が下がり、賞味期限切れを廃棄するコストが惜しいという状況に追い込まれていた問題で、老舗やグルメのはずのところが、食べて毒ではないが卑怯な手段で再利用していたという少しずれた情けない問題です。

 備蓄品はじめ、災害に備えることも必要ですが、大災害が起きた時、被災地に何か送ることや、支援に向かうのに、必要なものは調べるのに超したことはないですが、あまり杓子定規に賞味期限であれこれ騒ぐことは、本質的ではありません。

メーカーも協力し、自治体と備蓄品の内容を充実したものにしておき、個人でもあまり硬く考えずに、時折ローテーションしながら非常用のものをアウトドアなどで食べきり、うまく賞味期限と付き合えばよいでしょう。

 東毛酪農さんの画像ですが、実際にはこの黄色の期限がもう少しフラットに伸びて、その後緩やかに劣化するわけで、緊急事態でのカロリー補給には全く問題ないですね。

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