書評&映画レビュー 瀬尾まい子「夜明けのすべて」

 小説と映画イッキ見です。朝ドラファンにはこのお二人萌音と松村君、どこかで見かけたと思います。「カムカムエブリイバデイ」では二人は戦中に結婚して、すぐに死別する運命でしたが、こちらはさてどうでしょう。
 小さな工場のような会社が舞台で、月に1回のペースで訪れるPMS(月経前症候群)の影響で怒りやすくなってしまう女性藤沢さんと、如何にもやる気がなさそうで彼女に八つ当たりされる転職社員山添くん。彼もパニック障害を患い生きる希望すらも見失っていました。互いに恋愛感情や友情すらも感じていないのに、いつしか2人は互いの心の病を治せるのでは、それぞれに助けられるのではと思い始めるというハートウォーミングなストーリー。
 映画と原作は例によって、いくつか設定を変えてあり、想像できる事情で出てこないエピソードもあります。(以下ネタバレ注意)
 ただ、原作ではタイトルの割に気象に関しての描写がそれほどなかったのが、会社自体をプラネタリウムを作っていることにしたのは秀逸です。小説だと漠然と会社や工場で事務とかの描写で許されても映像だとそうはいかない部分でもあります。
 小説からはカットされたエピソードもそうですが、二人の人気俳優に過剰に配慮しすぎ、ここは減点大です。とくに松村君はイケメンでヘアスタイルもおしゃれなままで、前の会社への復帰意欲も満々に描いているのが少し引っ掛かります。病気の苦しみがあまり伝わらないところです。
 上白石萌音さんは好演だし、ハマり度は高い役ではあります。萌音さんは元々歌がうまいはずなので、歌唱のエピードを外したのは原作ファンには大いに不満でしょう。別に彼女が音痴を演じてもそこで評価が下がる訳ではないのに残念です。
 結末というか、エンド部分もだいぶ違うのは、ううん、さすがにネタバレ過ぎてこれはですが、そこも小説のエンドでいいように思えますがそこは個人の好みでしょう。

 人生は思っていた以上に厳しいものがあるけれど、きっと誰かの心を癒せる救いの道は残されている。本作はそんな持病を抱えたり、トラウマや負の心を抱いてきた人たちに送る、生きるのがほんの少しだけ楽になる、心が温かくなる物語です。
 
 それだけにもうちょっと、あんなに可愛い子やイケメンなら人生なんとかなるよと観て嘆きを感じる人がいれば元も子もないのです。俳優さんは宣伝やら美しい絵を撮るところはあっても、導入部などもう少し地味で汚しても良かったような気がします。
 有名な俳優さんを使うことで少しでも病気のことなどが社会に認知され、原作を読む人も増えればと思います。

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