技のインフレ

プロレスにおいても特撮ヒーローにおいても、相手のレベルが上がると今まで必殺の決めてだった技が通用しなくなるというジレンマのようなものがあります。
子供の頃見ていたプロレス。初期では必殺技だったアントニオ猪木のコブラツイストが、卍固めという技が開発されると、それまでの決め技コブラツイストは一段下の攻め技に地位を落とし、そんな技で決着すればお客様も納得しなくなっていきました。神技と昭和で言われたジャーマンスープレックスホールド(原爆固め)も平成後半以降のダイナミックな技の連発の中では、平凡に掛け合うつなぎ技になっています。
ウルトラマンの必殺技スペシウム光線や八つ裂き光輪も、しだいに強敵には通用しなくなります。地球での疲労蓄積説もありますが、ウルトラセブンを経て帰って来たウルトラマンでは中盤から手に入れたウルトラブレスレットというチートな万能武器のためスペシウム光線は必殺技から転落、八つ裂き光輪は機能がかぶるため全く使われなくなります。
エース、タロウに至るとウルトラ兄弟の設定となり最新のヒーロー推しのため兄達の技で勝負が決まることも無くなります。
なんだか子供心に、新しいモノを売るマーケティング 計画的陳腐化、ご都合主義を学びました。
安易に新製品を作り、前の商品の120%効果があるなどと自社製品ディスするのは結局自分の首絞めることになります。個人でも自分のやってきたことをたとえ成長過程でも否定してはいけないです。

血を吐き続ける悲しいマラソン

ウルトラセブン26話 超兵器R1号 ギエロン星獣登場

ウルトラセブンの放映された1970年代は米ソが核を持って睨みあう冷戦の時代でした。
移民や侵略を地球から宇宙に置き換えた部分のあるウルトラシリーズ。地球防衛軍が開発した超兵器は侵略を企てた星を瞬時に破壊するという恐ろしい武器です。超核兵器とも言え、そんなもので戦いだしたら、大変なことになります。
実験は生物のいないギエロン星を照準に行われようとします。モロボシ・ダン(ウルトラセブン)は違和感を覚え反対します。相手がもっと強い兵器で反撃しだしたらどうするのですか。その時はもっと強い兵器を開発すればいい。『それは、血を吐き続ける悲しいマラソンですよ』
現代の軍備拡張、破壊力戦闘力に優れた兵器や対抗する防衛システム等も大金をかけた悲しいマラソンです。戦争が実際に起こっても悲劇ですし、核戦争はおこらなくても、食糧や文化や教育などに使えたお金が無駄に使われやがて陳腐化していきます。
物語は生物のいないと思われていたギエロン星が爆破され、謎の飛行物体が地球に向かいます。生物がいて、しかも奇形化巨大化して地球を恨んで襲ってきたのです。宇宙人ではなく星獣という怪獣一匹というセブンには珍しいパターンです。セブンのアイスラッガーなども通用しない強敵でしたが所詮は孤独な一頭だけの反乱です。悲しくセブンのアイスラッガーで咽を切られ悶死します。
最後はギエロン星を選んだことも反省され、さらなる超兵器の開発は中止されます。
『血を吐き続けるマラソン』冷戦から高度成長、バブル期の日本も走り続けていたのかも知れません。

『ノンマルトの使者』ウルトラセブン:地球人は先住民ではなかった

ウルトラセブンの中で、問題作としても有名で衝撃的だった作品であり何かと議論もされ、それだけファンも注目する謎の多い作品でもあります。
第42話です。現代の人類の登場以前に地球で栄えていた先住民がノンマルトであり、ウルトラセブンはそれまで人類をM78星雲ではノンマルトと呼んでいたとも呟きます。
海底開発まで行おうとする人類に、少年の姿になって、セブン(ダン)とアンヌに反対とノンマルトの先住と窮状を訴えます。ノンマルトは原潜を奪い、怪獣ガイロスを使って人類に攻撃しますが、反対を押し切って変身したセブンの活躍で敗退。侵略と判断された海底都市はウルトラ警備隊の攻撃で全滅。ノンマルト大虐殺?されます。
最後は攻撃を命じたキリヤマ隊長の決断とその後の笑顔が、不気味に感じるようなテイストで終わります。 平成になって後日談も作られました。
怪獣一匹には苦戦しますが、都市や円盤群にはやたら強いウルトラ警備隊。第6話『ダークゾーン』 ではペガッサ星人の都市も星ごと破壊しました。
人類はやはり一歩間違えば破壊者なのか。平成ウルトラマンなどでは何度かこのテーマが出てきます。
沖縄の脚本家が多いのでいろいろ深読みされますが、先住という面ではアイヌに近いような印象も後年持ちました。

移民、ユダヤ人?バルタン星人

ウルトラマンの中では初めての侵略宇宙人であり、その後のウルトラシリーズでも繰り返し登場したもっとも有名な宇宙人がバルタン星人。
大きなはさみの両手で、どうやって高度な文明を築いたのかは知る由もない。
お話しでは、狂った科学者の核実験で母星が失われ、宇宙船に数十億のミクロ化した姿で旅をして移住できる星を探しているとされ、不幸な星人ともいえます。
ウルトラマンであるハヤタの地球の法律を守り、風俗習慣を受け入れるなら移住も可能という交渉をけり、他の星を開拓するよりも地球を武力で侵略する選択をします。
分身、憑依、飛行、怪光線、巨大化とあらゆる特殊能力を持ち、人類とウルトラマンへの挑戦が始まります。ウルトラマンのスペシウム光線が苦手で、巨大な尖兵が倒された後、宇宙船にスペシウム光線の直撃を受け何十億もの民は壊滅します。一説にはウルトラマンのバルタン大虐殺と言われ、後々も恨まれる始まりとも言われます。
その後のコスモス等のシリーズでは善玉の平和主義のバルタンも登場します。
前に書いたQのボスタングの回の、ルパーツ星人は平和な帰化でしたが、その後の宇宙人はほとんど武力侵略を試みてきます。
ユダヤ人はじめ国土を失った民族、征服と戦争の歴史が宇宙にも投影されたのでしょうか。
セブンのノンマルトとの戦いの悩み、新マンでのムルチ登場回メイツ星人への葛藤につながる、先住者と渡来人、侵略者、被差別者の叫びへと繋がります。

正義か悪か分からなくなる

正義とは1

初代ウルトラマンも、交通事故の被害者の霊が乗り移った高原竜ヒドラには必殺技を使わず逃がしました。人間が宇宙で変身した怪獣ジャミラには、後輩にあたる人間の隊員がためらう中、無情なウルトラ水流で攻撃しました。その他子供の夢ガバドンや、雪んこを助けるウー等、倒すべきではないような怪獣の回もありました。
ウルトラセブンが子供には一時不人気だったのは、宇宙からの侵略者一辺倒なのと、ストーリが大人向けの難解なものがあったからだと言われています。
ただこれらは子供の夢などの歪みを是正する役をウルトラマンが請け負ったとも言えます。
ウルトラマンで侵略宇宙人はバルタン星人、ザラブ星人、ダダ、メフィラス星人、ゼットン星人の5人で6話(バルタンが2話)だけです。セブンはほぼ全話侵略宇宙人が登場。怪獣のような巨大宇宙人との直接戦闘もあれば、人間体の星人に操られる巨大な怪獣との対決もあります。
そしてついにウルトラセブンに至って、どちらが正義か悪か分からないストーリーが子供心に衝撃というか、問題を投げかけます。
そうです。日本のヒーローは決して勧善懲悪ではありません。怪獣や宇宙人=悪という図式ではなく、正義と正義も戦うことがあったり、正義と思っていた人類が実は悪、侵略者だった。
世界の正義、警察のようなアメリカも、インディアンを侵略し多くの中米や太平洋にも植民地や統治地を持っています。
日本もかつてアイヌや沖縄、朝鮮、台湾、満州、中国、アジア各地を力で支配してきた時代があります。
ひとつの国から見た自衛の戦いもいつの間にか侵略戦争に変わってしまう。
本当の正義とはなんでしょう(2へつづく)

ヒーローの敗北:ウルトラマンがゼットンに負けた

初代ウルトラマンは、苦戦することはありましたが、ジャックやセブンのように途中で負けて磔にされたりとかはありません。ゴモラに一度優勢負けで逃げられたり、メフィラス星人とは決着つかずがありますが、後はすべてに勝って最終のゼットンとの戦いを迎えます。しかしその前から必殺と言われたスペシウム光線や八つ裂き光輪が通じない相手も現れて苦戦が増えてはいました。
ゼットンは地球防衛のベースといえる科学特捜隊基地を襲い、ウルトラマンは回転してキャッチリングで動きを封じようとしますが、怪力と熱球で外されます。
そして戦いはやはりゼットンの強靭な身体の戦闘力と、テレポートやバリアまで使い、光線を弾き返す能力についにウルトラマンは敗れます。
格闘家の前田日明他当時の小さな子供も相当なショックだったようです。
最終的にゾフィーが命を持ってきて、ウルトラマンが宇宙に帰り、ハヤタも命は取り留めます。私はこのときハヤタがウルトラマンに出会ってからの記憶をなくしているのがショックでした。
どんな強い者も敗れる時がある。そして死の時がある。
身内が亡くなったりした機会がなく、著名人や友人のおばあさん等の死はイマイチ実感できなかったのがテレビのヒーローの死と敗北でわかることがありました。
死とは記憶をなくすことなのかとも思いました。

ウルトラマンの使命

ウルトラマン第一話「ウルトラ作戦第一号」宇宙怪獣ベムラー

ウルトラマンは、極めて個人的な理由で地球に留まった。後年宇宙警備隊という後付もされたが、宇宙全体の平和等ではない。
初代ウルトラマンは宇宙死刑囚怪獣ベムラーを護送中に地球人の科学特捜隊ハヤタ隊員を誤って殺してしまい、自分の命と合体することでハヤタを救うために地球に留まり、結果としてハヤタとともに人類のピンチを救います。
ウルトラセブンは宇宙の地図を作る伊能忠敬みたいな恒星観測員が、侵略者に狙われる地球のピンチを知り、友人のために命を投げ出す薩摩次郎を助け、その勇気に感動し、彼をモデルにモロボシダンという青年の姿になり地球防衛軍ウルトラ警備隊に入ります。
その後のウルトラマン概ね、地球人の姿に感動して憑依や変身して地球を救うため命がけで戦います。
この記念すべきウルトラマンを地球にとどめたのが宇宙怪獣ベムラーなのだが、悪魔のような怪獣と言われるわりにはやや不満が残りました。トカゲ型の平凡な怪獣で、光線は吐くもののそれほど強敵とも思えません。しかも怖れられるほどの知性や戦闘力が感じられないのです。バルタン星人やダダのように種として征服を試みるのでも、ジェロニモン、メフィラス星人のような配下がいるわけでもないです。
ぶっちゃけジラースでもギャンゴ(着ぐるみはまさにベムラー流用)でも変わらないのですが、やはりベムラーはあれで良かったのでしょう。
記念すべき最初のバトルです。
誰かのために戦うことが地球のためになる。カッコイイヒーローの誕生が、多くの子供たちの胸に響いたのです。その想い、大きくなっても忘れたくないです。

『2020年の挑戦』『変身』『鳥を見た』巨大化の原点【ウルトラQ】

ウルトラシリーズの記念すべき第一弾【ウルトラQ】日本における怪獣特撮、特撮ヒーローや怪獣宇宙人の原型を作りました。
外国から見て、まあ普通に科学的に見ても、どうも日本の特撮の変な面に、質量保存の法則など無視して『突然巨大化する』ところがあります。なにしろほとんどの宇宙人のプロフィールが身長2メートル~40メートル、体重100キロ~2万5千トンとかなのである。これは成長とか、個体差でなく、一人が突然自分の意志等で巨大化する。周りの空気から元素ごと取り込むとかの無理な後付もされるが、突然変異とかではなくいきなりの巨大化するのです。
第12話 過去から来た幽霊船に棲む文鳥?が巨大化する『鳥を見た』
第19話、ケムール人の登場する『2020年の挑戦』
第22話、モルフォ蝶に巨人化される男の話『変身』
ケムール人の疾走は何だかトラウマになりそうな怖さでした。今年がその2020年ですが、2020年のお話しではなく、肉体の衰えた2020年に時間のケムールという怪物(宇宙人ではなく未来人説もあり)が地球の若い肉体をゼリー状に溶かして奪いにくるようなお話しです。
そのケムール人が警官の攻撃で一時倒れ死んだかに見えるのですが、1.9メートルからいきなり30メートルの身長に巨大化します。
これが最初と思っていたらその前の第12話『鳥を見た』のラルゲリウスという怪鳥の巨大化が怪獣巨大化の始まりでした。
宇宙人?の巨大化がケムール、人間の巨大化が22話の【巨人】です。
巨大化は映像的インパクトがあり、怖さや絶望的なまでのスリルを見るものに与えますが、過食や放射能、薬の影響などで徐々に巨大化するならまだしも、いきなりは少しご都合主義を感じますが、これがウルトラマン巨大化の元なのです。
究極の変身願望が巨人化なのでしょうか。『変身』は巨人になっても恋人を追い続ける女性の切なさも描かれますし、そのイメージはまさに数十年を経て漫画やアニメで超有名な巨人につながるような気がします。
蝶が集まって何で人を巨大化する毒を出すのかは不思議です。ラルゲリウスの檻や籠をぶち破る巨大化も、食事もしないのになぜか、全く大きくなれる理由は不明。ツッコミはしたくなりますが、お約束なのでしょう。
日本の特撮はここから巨大ヒーローと巨大な怪物との闘いが中心になります。これは東宝円谷に限らず、戦隊ロボ等の東映やピープロも含めての日本特撮の伝統となります。後に語る社会問題的な秀作でもお決まりのように巨大化は出てきます。


『宇宙指令M774』(ウルトラQ)ウルトラマンの原点にして移民のテーマも

ウルトラマンに教えられた大事なこと2

ウルトラマンシリーズにつながる第一弾の円谷特撮シリーズ『ウルトラQ』巨大なヒーローは登場せず、アンバランスゾーンを描いた、空想やファンタジー、ホラー的な連続ドラマだったが怪獣登場の話が好評で怪獣路線となっていきます。
その中でも宇宙人が登場する話がいくつかあり、ウルトラマンの原点ともいえる正義の宇宙人が登場するのが、ウルトラQ第21話『宇宙指令M772』です。ストーリーはややご都合主義というか、粗削りで現在の科学やSF知識等のある者などにはつっこみどころ満載ですが、まだまだ宇宙や異星人のイメージすら周知されていない時代ですから、甘受しないといけない点はあります。
後のシリーズのように防衛組織もなければ隊員が主人公でもなく、新聞社カメラマンとセスナパイロットの民間人が常に事件に巻き込まれ怪獣と対峙するところにそもそも無理があります。この回も正義の宇宙人ルパーツ星人ゼミは、キール星人の怪獣ボスタンングの地球侵入をなぜか主人公に人形で伝えたり、セスナで拉致してレコードで伝えたり、結局図書館員になって話します。
ゼミはとくに超常能力がありそうでもなく、主人公らと海上自衛隊?の護衛艦クラスに乗り込み、客船のピンチを予言するだけ、怪獣もエイの大きなモノであっさり航空隊の爆撃で霧散します。
その後ゼミは、このまま地球に残ることになり、変なサンダルだけが強調されてどうやらゼミのような異星人の移民はあちこちにいるという足元だけが映り唐突にエンド。キール星人は出てこないし根絶はされないが、ガラモンのように次回の襲撃もなし、そもそもボスタングクラスでは地球の攻撃など、ルパーツ星人いなくても無理のような感じでした。
ただこの正義の宇宙人がのちのウルトラマンの設定につながります。これは日本人にとって、かつては大陸からの帰化人にさまざまな文化を伝えらられ、近世以降も西洋人等にいろいろ侵略を受けながらも、文明を享受された経験を受けての話のように思います。
宇宙人の侵略は小国の植民地化、元寇や黒船、敗戦トラウマにも通じ、正義の宇宙人は国連等の世界平和への願望にも繋がるものがあります。
日本は島国ではありますが、決して単一民族ではなく、アイヌをはじめ先住民、帰化人や移民も含め様々な民族がいたのです。
宇宙人の帰化にはそんな思いが表現されています。

ウルトラマンに教えられた大事なこと(1)

【初代ウルトラマン】『悪魔はふたたび』

ウルトラマンシリーズ(昭和)から、人生の教訓や生きるヒントを見出したエピソートを語ります。
荒削りだったが、時代を先取りした特撮、ユニークなストーリー、愛されるキャラクターたち。異色作、問題作も沢山ありました。
第19話『悪魔はふたたび』青色発泡怪獣アボラス、赤色火炎怪獣バニラ。
国立競技場(旧)のミニチュアも良くできており、3億年前の人類が巨大な2つのカプセルに封印したはずの悪魔が、落雷などのアクシデントで現代によみがえります。
二大怪獣登場編なのですが、初代ウルトラマンは基本的に複数の敵と同時に戦うことはありませんでした。二大怪獣が先に激突し、科学特捜隊に眼をやられたバニラがアボラスの泡で倒され、ウルトラマンとの決戦になります。
アボラスも結構強く、スペシウム光線3連発でやっと倒れます。
しかし、まあ古代人が悪魔と呼んだほど決定的な攻撃力のある怪獣とまでは呼べないような微妙なランクの怪獣2頭です。
個人的には、少し単色カラーのこの2頭には決定的に『強い』感がなくやや不満でした。
バニラの火は大きな街を焼きつくし、アボラスの泡はすべての文明を溶かすほどの迫力と終末観が欲しかったです。
悪魔の封印は、私にはフィンランドの核最終廃棄施設『オンカロ』を連想させます。
あれこそ何百年何千年と封印しきれるのか。開けてしまえば文明がすべておじゃんではないのだろうか。
アボラス、バニラ程度ではすまない終末を人類はすでに作っています。
ウルトラマンにはいくつか大規模な破壊や侵略で終末を予見させ、それを阻止しようとにうストーリーがありますが、『悪魔はふたたびは』その中でも愁眉のものでした。
先人類の知恵という面ではアントラーの話『バラージの青い石』もどこかファンタジー色もあり、怪獣も強い初期の秀作です。
40年以上前に想像した終末、現代人にはどう響くのでしょうか。